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NOT FACTOR  作者: Ribain
祈る絵画編
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祈る絵画編 第二章 第三幕 開墾


傍観者 神戸四季



 これは少し前の話。僕が委員会に入って直ぐの事だ。

 委員会本部で唯一、一室から三室のメンバーが入り乱れているメイン棟の二階休憩室で僕はコーヒーを啜っていた。レンガの壁で覆われている委員会本部でもこの休憩室だけは柔らかなフローリングになっており任務を終えた会員たちが憩の場としてよく使用する。窓は正面入り口の方角に設置されており、出入りする会員の様子を覗える。その一角に腰を据えていた僕は三室へ入室し今年二つ目の任務を終えていた。そこへ期待の新生、一室、レーネ・デュフナーがやってきたのだが、たった一人の同期は何かと僕に構いたいらしい。

「神戸。」

「どうしたのレーネ。」

 僕が彼女を見てファーストネームを呼ぶと顔を真っ赤にして怒鳴って来た。

「だからボクの名を気安く呼ぶな!名前で呼ばれるの嫌いだって知ってるだろ!ふざけんな!どうしてお前はいっつもいっつもいっつも!」

「いやー反応が可愛くてさ。」

「ざっけんな!」

 彼女が飛ばした左ストレートを喰らってあげると、どうやら落ち着いたのか僕の向かいに座る。彼女もコーヒーを手に持っていた。

「…んで何か?」

「用事がなきゃ会いに来れないのかボクは?」

 少しばかり上目使いでこちらを見る彼女を見ているとどうしてもからかいたくなる。

「レーネが僕に用事なんてコンビ組む以外無いでしょ?今は所属も違うし合同任務でもないとコンビ組めないからね。そういう話かと思ったんだけど違うの?」

「違うよ!お前はどうしてそう捻くれているんだ!」

「…今はクレウスさんと組んでるんだっけか?彼女は委員会も長いから色々勉強になるだろ?」

 コーヒーを飲み干してテーブルに置くと彼女は窓の方を見た。窓からは海上に伸びた道がヘリポートを造っている。今日は時化で視界が悪い為、ヘリコプターは飛んでいないが、水平線から光がこちらを照らしている。どうやら小型船らしい。

「クレウスさんは優しい人。ボクなら直ぐに出世するだろうって言ってた。遠距離からのボクの援護は凄い助かるって……」

「……どうした?嬉しそうじゃないな。」

「神戸。お前は自分の存在意義って何なんだと思ったことないか?委員会に入会してNOTを狩る日々。この業界はボクが思い描いていた世界とは少し違った。NOTは人間を喰う悪魔、その悪魔を殲滅していくだけの……そりゃあ命を懸けるけど……こんなに苦悩するとは思わなかったんだ。敵があんなにも人間だなんて、悪魔憑きの人間なんて殆ど人間じゃないか。NOTに侵食されていることに気付かず日々を送り、突然現れたボクらみたいなのに消されるって…不憫でしかたないよな。それに悪魔憑きのには友達だって、家族だっているわけじゃないか。その人たちにどんな顔すればいいのか。正直わからない。」

 レーネは優しい。直ぐ他人に同情してしまう。悪いところでもあり、いいところ。僕にはない、優しいところ。

「…そういう考えを持っているだけで十分だと思うけどな。何にも考えないでただNOTを狩るのは簡単だろ。悪魔憑きの人の事を考えて楽にしてあげることは大事だと思う。不憫も不便も承知の上だ。僕らは殺すしか出来ない。奪う事しか出来ない。存在意義を語れるのはもっと上に行ってからだ。今はまだただの兵士。」

「神戸……」

「レーネ……僕らの時代で委員会を変えよう。レーネが一室室長。僕が三室室長になって二室に真面な奴が居ればこの戦争を終わらせることも可能だ。僕ら二人にはその力があるだろう?」

「……強いな。神戸。だけど勘違いするな…ボクはお前に劣っているとは思わない。ボクはボクの信じる道を進む。その考えが重なった時は協力してやる。研修時代はボクに勝てなかったお前が室長だと?ふざけるなよ。ボクが先に室長になってやる。お前を顎で使ってやるからな。」

 どうやら彼女は元気になった。任務でNOT憑きでも逃がしたのだろうか。何かしら失敗をしたのだろう。人一倍優しい彼女は人一倍任務で情が出やすい。クレウスさんもそこをわかっているのだろう。レーネみたいな人が上に立つべきなんだ。平和をこよなく愛す、馬鹿正直な彼女。きっと部下は全員ついて来る。

「……僕とは違う…か」

 水平線に見えていた船はちょうどヘリポートに着き、人を下ろしている最中だ。中から出てきたのはセムン・ベクチュン、アリアネ・バーゴップ。二人とも一室所属の上位ランカーだ。この二人が組んでいるという噂は無い。正面の彼女も眼を見開いて釘付けになっている。

「…アリアネさん。セムンさん。あの二人がどうして…?」

「レーネは何も聞いてないのか?」

「全く…聞いてない。」

 二人に続いて降りてきたのは両手足を縛られ、目元を隠され、口に猿轡までつけられた若い女性。

「……レーネ。」

「ああ。分かってる。あの人、悪魔憑きだ。…しかもかなり強いんじゃないか?存在が大きい。」

 存在が大きい。

 レーネの表現には大いに同意できる。我々NOT因子を埋め込まれた兵士たちは、因子を持つ者同士で存在を感知できる。これは任務においても排除対象のNOTをある程度絞る為にも役立つ能力であり、存在の大小という威圧感の様な感覚が個人により異なる。勿論の如く十二柱相当の存在は、僕らヒヨッコが目の前にすると体が硬直してしまう程だ。これが『存在圧』というNOT因子を持つ者に与えられた力だ。

 あのヘリから降りてきた女性は、十二柱には劣るが相当の力を持つNOTだと考えられる。多分、彼女がヘリから降りた途端、この委員会本部内の全員は事の重大さを理解した。

「……これは室長会議が開かれるな。」

「ええ。今は全員居るし……いや、全員居るから連れて来たのかも。どちらにしろ、彼女はネクストフェイズって呼ばれるNOTじゃない?委員会の新たな情報源ね。」

 状況は十三委員会に留まらず。人類の存亡を決める一大事でもある。

 その日の夕方には広報で十三委員会構成員全員に事の全容が開示された。内容としては運ばれて来た女性の名は「イネス・シャルトー」十二柱・八番デメテルの眷属。何の意図があってなのか自首してきたらしい。今は一、二、三室の室長、副室長全員出席の下で事情聴取を受けているらしい。申請が通れば見学もできるとのことで僕とレーネは申請をし、直ぐに事情聴取が行われているメイン棟の大会議場へ向かった。

「神戸…これはただ事じゃないぞ。委員会本部にいる兵士全員集まっているんじゃないか?」

「そりゃそうだろう。一大事だからな。」

 大会議場の扉を開く。会議場は円状になっており、中央部分を低く、周りと取り囲む様に座席が設けられている。委員会会員全員が出席しても空席が目立つことから座席数は五百以上あるのだろう。

 予想通り今委員会に居る全ての兵士が集結していた。中央部には手足を椅子に縛られたイネス・シャルトー。その正面には一室室長フローラ・アルランデルが座す。取り囲む形で一室副室長、二室室長副室長、三室室長副室長の五名が睨みを利かせる。見ていれば分かるが警戒対象はイネスだけではなく、僕ら他の兵士も含まれていた。誰かイネスを救うための協力者が居るのではないかという疑心。その雰囲気が会場中に籠っている。

「座ろうレーネ」

「おう。この空気は耐えられんな。」

 別に一緒に来ただけで慣れ合うつもりもなかったのだが、レーネは僕の隣へ腰を下ろした。イネスへの質問は十二柱への話題になっている。奴らの所在と能力、眷属の数等、聞くことは数多く出てくる。考え込むこともせず、即答していくイネスは信用できる情報を話しているのかさえ分からない。本当のことを話しているのか分からない。聞くだけ聞き出してフローラはイネスに手厚く保護するから味方になってくれないかと尋ねた。その言葉には会場に居た全員が驚愕させられた。しかし、その破格とも言える条件をイネスは嘲笑い死を選ぶ。

「……私は自分が気持ち悪い。自分の中に自分じゃない何かが眠っていると感じる。私の知り得ない知識が私の中に流れ込んで来るんだ。吐き気がしそうなくらい気持ち悪いんだ。殺して、…殺してくださいよ。」

 別室に移動した末にイネスは処刑された。彼女の最後を看取った者は少なく、大半は情報だけで満足し任務へと戻って行った。委員会幹部と僕らを含め数人はイネスの最後を見たが、見るに堪えない悲劇の終わり方だった。彼女の中のNOTとイネス自身の精神が混じり合い、NOTは死ぬまいと抵抗を強め、イネスは感情でそれを抑えていた。介錯したのは当時から一室室長を務めるフローラ・アルランデル。涙を流し自分の感情を押し殺したイネスの顔は今でも脳裏に焼き付いている。

「……お姉…ごめん…。でも…私のせいで…悲しまないで…」



 イネス・シャルトーが後に入会して来るコレット・シャルトーの妹であることはコレットが訓練生として入って来てから知った。


 本来ならば任務に行かせる前にことの顛末をコレットに言うべきだった。彼女の妹が最後に残した言葉を聞かせてやるべきだった。もうそれも敵わないかもしれない。

ヴィルマ・ガソット、コレット・シャルトー両名を乗せたヘリコプターの通信がニカラグア近隣の海上で信号を断ったとの報告を受けたのは今から五分前。三室長室に僕は二人を呼んだ。

「……ヴィルマとコレットを乗せたヘリが通信を断った。滅多なことで死にはしない身体の僕らだが、この事態はニカラグアに潜伏しているであろう『夕暮れ詩人』からの攻撃であると予測される。お前ら二人にはヴィルマとコレットの任務を引き継いで欲しい。加えて彼女らの安否と原因究明も含めてだ。」

 扉の前に立つ二人の影は直立不動を保ちつつ、一人の男が口を開く。

「…室長。俺はヴィルマを許した訳じゃない。もしアイツが無事でも手助けしないかもしれないぞ。それでも俺を行かせるのか?」

「…着任そうそう大口を叩くな、それは自信の現れか?古川楔」

「無論だ。」

 鋭い男の眼を見てある程度は期待していいと思えた。新人の後始末はベテランがすればいい。思いっきりの良さこそが新人の持ち味だ。

「……ふん。いいさ。そんなお前だから行かせるんじゃなか。後始末は全てロックに任せる。協力しろってのも無理な話かもしれないが、あとは二人に任す。任務を成功させて戻ってこい古川。ロック。」


「「Yes,my God.」」




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