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NOT FACTOR  作者: Ribain
祈る絵画編
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祈る絵画編 第一章 第二幕 未知の襲撃


 傍観者 ヴィルマ・ガソット



「コレット。そういえば、貴女が十三委員会に志願した理由を聞いたこと無かった。聞いてもいいのなら聞かせて欲しいけど。どうなの?」

 ニカラグアに向かうヘリの中で私とコレットは昔話に花を咲かせていた。専ら室井やルキの愚痴だ。コレットは室井と犬猿の仲だし、問題児のルキアノスは私の弟分なので、いつも叱られるのは一緒。正直かなり面倒臭い。

「私の過去?そんなの聞いてどうすんの?」

「これから背中を合わせるわけじゃない?お互いの腹は知っておいた方がいいと思うけど?それは私の勘違いかしら?」

 腹黒い発言が混じったことは認めよう。しかし、そうでもしないとコレットは自分のことを一切話そうとしない。彼女は成績がいい方ではない、NOT因子も汎用性が少ない、体術も得意でない、知識も多い方ではない。その証拠に彼女は自分の駆ける速度よりも遅い猟銃を武器にしている。そんな武器でどう戦うというのか。

 前に教官からこんなことを聞いた。

(第三室は成績下位者の集まりだよ。)

 まさかと思った反面、当たっているのではないかとも思った。教官も成績は悪い方だと言っていたし、コレットもそうだが、私も剣術以外は最下位争いをしたものだ。副室長や室長補佐はどうか分からないが、的を射ているのかもしれない。では、逆の第一室が優秀な部類なのだろうか?エレオノーラも室井もかなり優秀な部類に入るのは確かだが、座学だけならばルキが一番だった。この基準はあくまで憶測?ふと考え込んでいるうちにコレットは私の顔を正面から見た。

「…妹をね。食べられたのよ。…NOTに完全支配される前に、委員会の人が来て妹を連れて行って殺したわ。何故か妹には自分がNOTだって自覚があったらしくてね。殺されることに抵抗は無いみたいだった。でも私は見るに堪えなかったの。妹が死んだ後、錯乱状態でね。私、夜な夜な徘徊してて車に轢かれて左腕を亡くしたの。」

 私はコレットの左腕を見るとそこにはちゃんと左腕が付いていて、何も可笑しな部分はない。脳内を『死人種(デットマンクルー)』という単語が過ぎるが、それは禁句。教官から固く口止めされている単語で私は唯一無二の存在と言われている。

 『死人種』は私だけ。

 コレットは私の顔色を窺うと、決意した様に語りを続けた。

「今の左腕はNOT因子の恩恵で回復できたの…。でもそれは十三委員会に入ってからよ。だから、訓練期間での体術成績は悪かった。今でも体術がどうかは怪しいわね。それで…ヴィルマはどんな過去を背負っているの?」

 不意に振られてヴィルマは思考が停止していたことに気付く。

「え…あっ…私は両親が殺されたのよ。白い…姿をしたNOTに…」

「白い…NOT?聞いたことないね。……これで二人とも自分の過去を話した訳だけど。どうだろ?何か変わったかな?」

「私は少し気が楽になった。コレットはそうでもないの?」

「…うーん。複雑?余計気を使いそう。私たちって結構危うい存在じゃない?更にギリギリの戦いをしていて、もし気を使ってしまったらと思うと、自分の首を絞めることになりかねないわ。」

 コレットの不安は彼女の優しさからだろう。

 今思えばあの白いNOTは様子が可笑しかった。今まで訓練期間での講義や現場でもああいった真っ白なNOTには会ったことも聞いたこともなかった。この疑問を知れるのはいつになるのか。

「……コレット。これから行くニカラグアってカトリック教会があったわよね。」

「え…?ああ、レオン大聖堂だっけ?」

 白いNOTなんて気にする必要はない。私はただ…与えられた役目を実行するだけでいい。命を委員会に捧げた復讐者に心なんて必要ないんだから。

「…それでも……どうしても…拭えないのが…過去なの…?」

「ヴィルマ?」

 いきなり頭痛が襲ってきて目眩がする。世界が(ひしゃ)げて回り出す。全ての輪廻を取り込むように。私の脳に色んな情報が入ってくる。

「……痛い…」

「大丈夫なの?ヴィルマ。」

 心配そうにコレットが私に寄り添うと気持ちが少しずつ楽になる。頭痛は未だ取れないが、記憶の中に何かを見た気がした。白いNOTは私に何かを言った?

「…誰…なの?」

「ちょっとホントに大丈夫?ちゃんと検査受けて来たの?NOT因子が悪影響を及ぼしているのかも知れないじゃない。本部に連絡取った方がいいのかな?」

 コレットは寄り添う私を気遣いながら本部への無線受話器に耳を当てる。呼び出し音が何度か鳴って女性の声が聞こえて来た。受付嬢だろう。自分のコードを言い、コレットが第三室室長神戸に繋いで欲しいと言うと、受話器の向こうから少々お待ちくださいと保留音が流れ出す。少しすると受話器から男の声が聞こえてきた。

「コレットかい?どうかしたのか?」

 教官の声が受話器から洩れて私にも聞こえる。彼の声を聴くと気持ちが安らぐ。頭痛もいくらか良くなったかもしれない。

「神戸室長。ヴィルマの検査結果は危険値じゃなかったんですか?目の前で具合悪そうにしているんですが。」

「そうか。無理はしないように言っておいてくれ。検査結果の方は全て僕の手元にある。ヴィルマ然り、君も正常値で安定している。NOT因子に取り込まれる危険は少ない。」

 私の顔を見て納得できないような表情を作っていた。私から何かを感じ取っているのかもしれない。

(僕が君たち『死人種』を造ったのは計画があるからだ。これは委員会も知らないし、もしかしたら委員会を裏切ることになるかもしれない。この件に関しては僕以外誰にも言ってはならない。…極秘で頼むよ。)

 私『死人種』と一般の兵士では見た目も能力も大差はない。シンクロ率が一〇〇%を超えればNOT化するし、殺されれば死ぬ。違う点は死んでいるかどうか。そして私は神戸教官が死なない限り死ぬことはない。

兵士はNOT因子の適合手術をパスした、言わば選ばれし者たちである。私に関してはNOT因子不適合で拒絶反応により爆死。そして神戸室長が私の死体に改造手術を施し再生させ生まれたのが『死人種』ヴィルマ・ガソットだ。

 目の前の彼女とは違う存在。頭痛に苛まれ、自分から腹を割って話そうと言った矢先。自分の腹黒さに嫌気が差す。私は腹を割って話す気なんて一切ない…。その癖に他人の情報は知りたがるなど、都合がいいにも程がある。

「わかりました。体調管理をしっかりするように言っておきます。」

 コレットが受話器を置き、通話は終了する。微かに聞こえていた神戸教官の声も聞こえなくなり、頭痛の苦しみが再発する。

「……ヴィルマは本当に何も隠してないよね?」

「…こんな状態で隠し事できるほど器用じゃないわ」

「そう…、じゃあ信じてあげるわ。これから組むことも多くなりそうだからね。」

 十三委員会では基本二人組、ツーマンセルでの行動を義務化している。理由としては単独行動を抑制するためと、NOT FACTOR PATENTによるものである。

 NOT FACTOR PATENT――直訳、特許否定因子。個々のコードを示す呼び名としても使われるこれは、自分の肉体に適合した属性をNOT因子により発現する能力だ。私の『SILVER MOTH』、教官の『THUNDER LIZARD』。多種多様で創造上の物もあり、パーフェクトマッチの自分自身の能力になりうる。しかし、厳密に言えば、型に嵌らないNOT因子は誰の能力でも使うことが出来る。ただ、使うことが出来るだけで力を一〇〇%引き出すのは困難だ。

 その特許否定因子にも近距離型、中距離型、遠距離型が分類され、組み合わせを決められる。近距離×近距離、近距離×中距離、近距離×遠距離というオーダーが一般的だ。ちなみに私は近距離、コレットが遠距離で、近距離×遠距離の組み合わせになる。オーダーは室長補佐以上四名に決定権があり、こちらから希望を言うことは出来ても最終的な決定権は上にある。ツーマンセルでの戦いは連携を取れるかどうかが重要であることは言うまでもない。ツーマンセルが原因で死亡した兵士というのも多く居るらしく。くれぐれも連携を密にと、教官から承っている。

「…コレット。ごめんね。私みたいなのがバディで。」

「いいえ。そんな贅沢言えた順位じゃないもの。それに前衛職って言うのは色々と痛みに耐えなければならないでしょうし、こっちが言えることは早く調子を戻してってことくらいよ。」

「順位ね。これは必要なものなのかしら。皆同じNOT FACTORを持つ兵士だって言うのに、個体によって順位何てつけられるものなの?」

 するとコレットは押し殺したような声音で話す。

「委員会内序列は委員会会長が国連に言われて渋々つけているらしいわ。危険度を示す尺度が欲しいらしくてね。今回私たち十一期生が入会したことでまた変動したらしいわ。」


 委員会内序列。NOTを制圧する実力と、その者が持つ危険度を示し個人としての実力をある程度測るモノ。十三委員会は三〇〇名以上の会員が居るが、NOT因子を埋め込んだ契約者は八十六名。その中での順位ということになる。

 ヴィルマ・ガソット 三十一位

 コレット・シャルトー 七十位

 同じ十一期生でもかなりの差があることが分かる。

「十一期では室井が一番上らしいね。エレオノーラは成績いいからあんまり上になんなかったって言ってたけど…。」

「室井が化け物なのよ。…そして段々と見えて来たわ。大陸がね。」

 ヘリの窓からは中央アメリカが見えている。ニカラグアもあの辺りだ。

「あと二十分で到着します。」

 操縦士から到着時間を知らされる。

 二十分後には現地調査に出なければならないと考えると憂鬱だ。まだ、本部に居た方がよかった。…教官の膝元に居られたのに。悪い予感が脳内を過る。こんな人殺しめいたことをしていていい予感がすることもないのだが、それでも幸先が悪いのは頭が重い。しかし、予感は的中し、私たちが乗るヘリコプターは五秒後、大破して海に沈むのだった。


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