表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NOT FACTOR  作者: Ribain
蛾の誕生編
12/37

蛾の誕生編 第四話 第二幕 敷かれたレール


 傍観者 早乙女辰真



 青春していた頃の夢を見た。少しばかり都会染みた地元で学校の仲間たちと悪さをしたり、夜まで遊んだり。または一緒に部活をして泣き、笑い。好きな女の子のことを話したこともあった。見栄ばかり張って生きて来た少年時代は大人になる為の重要なステップになったが、変革は突然だった。

 大学一年生で俺はNOTと出会い幼馴染を殺された。

 いや、間違いだ。

 幼馴染がNOTだった。

 人間の皮を被って俺に会いに来た。幼馴染は小学校から大学まで同じで笑顔が素敵な女性だった。講義の帰り、会うのは久し振りで正直困惑していた。

 何故、俺に会いに来たのか?

 幼馴染とは言え、仲が良かった訳でもないし、男女で意識していた訳でもない。けれど彼女が只ならぬ状態であることは一目見ただけで分かり得た。瞳が消えた真っ白い眼をした彼女は俺に襲い掛かって来たのだ。

(どうしてこうなっちゃったの?…辰真くん…)


「………懐かしい夢を見るもんだな…」

 眼を開けると見慣れた小汚い天井が気持ちを萎えさせる。事務所に戻って来た俺は、備え付けのホワイトボードにこれまでの捜査状況を記録しソファで仮眠を取っていた。およそ三十分の仮眠で疲れは取れない。眼の下のクマもいつの間にか取れなくなってしまった。煙草に火をつけるとデスクに置いてあるパソコンをスリープモードから起ち上げる。ネットで十三委員会について調べるも重要な文献は出てこない。「謎の組織」や、「人殺し集団」等の茶化し半分で書き込まれているものが殆どだ。掲示板に目を通していると事務所の電話が猛々しい音で鳴る。

「……はい、早乙女ですが」

「こんにちは、早乙女辰真。」

 静かで落ち着きのある声は数日前に聞いた神戸四季のものだ。どうして番号を知っているのかと疑問に思ったが、喉に押し込めた。

「何の用で?」

「協力関係は築けたかな?」

「色芳香子のことか?」

「それ以外に何があると?」

 神戸四季に言われた情報に寄ると色芳香子はクロ。確かに彼女を調べれば不可解な点がいくつか上がる。彼女が理事を務めるに当たって反対した他の代表者たちは揃って左遷している。脱税やら横領やら汚職事件で理事長候補からいきなり圏外まで落とされている。これ全てが色芳香子の息だとすると一介の一般人とはとても思えない権力だ。

「検討中。不確定要素が多過ぎる。」

「…そういうと思ったよ。『色芳香子』と言う単語だけでは白黒がはっきりしない。しかし、君は直に会って感じている筈だ。色芳香子が普通の人間ではないことに気付いている筈だ。頑張って人間を信じようとするな、世の中は既に腐り始めてる。信じたいなら疑え、勝ち取りたいなら利用しろ。人間なんて全員が善人じゃねぇからさ。挫折も妥協も必要だ。自分の眼を信じろよ、早乙女辰真。」

「お前は協力関係を築きたいと言うが俺に判断を任せるとはどういう根端だ?何がしたいのか意味が分からない。」

「腹の探り合いは必要だろ?早乙女辰真。僕は君が考えていることが手に取るように分かるよ。僕に対する疑心、任務達成のための責任感。」

 受話器越しに俺を揺さ振る。神戸四季は俺よりも年下だが、頭の回転は速く、とても下には見られない。下手をすると喰う前に喰われる。

「大人だから慎重にもなるさ。正直お前が何を考えているのか分からないが、俺はお前を信じきれないぞ神戸四季。俺はお前を同格には見ていない。俺とお前では種別が違うから同格に見るのは間違っているがな。」

「あまり十三委員会を敵視するなよ。敵に回すと後悔するぞ。」

 人殺しにして神殺しの十三委員会。

 全三室で構成される委員室の第三室総括を任されている神戸四季の言葉は重い。一個人に対して組織が敵意を示すとは思えないが、邪魔だと判断されれば始末するのは容易いだろう。事務所の番号も知られているくらいだ。情報網も生半可ではない。

「…残念だが利用するのは俺の方だぞ。」

「協定成立かな。また連絡するその時は情報交換を頼むよ。」

 案外あっけなく通話は終わる。耳に付く切断音を止めると、沈黙した事務室の外は慌ただしい気配に包まれていた。事務室を出ると中年刑事の加藤が声を掛けてくる。

「…早乙女君またやりおったで。」

「どうしたんですか加藤さん。」

「三年A組 溝口俊介…神隠しや」

 単語だけで心臓が締め付けられる。これで神隠し十三人目だ。

「すいません。俺出てきます。」

「わかった。特別待遇やからな君に文句は言われへんよ。成果があったら教えたって。」

「当たり前じゃないですか。では急ぎますので。」

 上着に袖を通すと身なりを軽く直してから急ぎ足で廊下を進む。携帯端末で最新のニュースをチェックする。流石に警察よりも早い情報は無く、平和なニュースが一面を締めている。街の平和を確認して俺はパトカーへ乗り込む。壊した車は経費が降りたので新車を拝借した。

(どうしてこうなっちゃったの?…辰真くん…)

 先ほど見た昔の夢は何かを暗示しているのだろうか?俺は行き先を陽正高校に決めアクセルを吹かす。チューンされたパトカーはあっという間に加速し公道を疾駆する。

「もう…犠牲は出したくないんだよ。悪魔共覚悟しろ、一番力を持っているのが人類だってことを教えてやるよ。」

 今行動したのは彼女の言葉が蘇ったからだ。真面目だったあの子が消滅した時の喪失感が今も胸を締め付けた。責任感だけで押しつぶされそうだ。誰かがやらないと奴らは増えるばかりだ。警察を選んだ理由もそれらが大きい。

 死んだ者たちへの贖罪。

 ズレた自己犠牲。誰かにお願いされた訳でも命令された訳でもない。自分の意志で一銭の特にもならない感情で職を選んでしまった。

対特異捜査担当刑事 早乙女辰真。

俺のことを知る人間は県警内でもそうは居ない。邪険にされ端に追いやられた部署。担当は俺一人で全てを熟す。だから自由にできるとも言えるが、これだけは言える。


過去に縛られた俺はそのうち殉職する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ