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コーヒーは目からでない

作者: ちぇりおす

 人生で印象に残る出来事は、探せば多い気がする。

 その中でも悲しいイベントというものはやっかいだ。一回起こってしまうと汚れて固まったシミのように簡単に切り取ることができない。

 殺菌性の高い洗剤でも使わない限り、綺麗さっぱりにはなくならないだろう。

「おい神梨ィ! ちょっとこい!」

 人気のない小さな工場にも関わらず、上司は俺の名前を叫ぶ。

「はい?」

「はい、じゃねえよ。なんだこれ、また同じミスしてんじゃねえか! ったく、お前は何回いったら……」

 また始まったか。

 この野党並の討論を披露している上司の説教は何回聞いたことか……。

 そして上司にしかられた後、俺はがっくりと肩を下げながら作業場を後にして、事務室へと向かう。

「お疲れさん」

 ガラリとドアを開けた先には、余裕の表情でPCに向かって仕事をこなす事務職のおばさんがいた。

「お疲れ様っす」

「だいぶしぼられた顔をしてるねぇ」

「ごもっともですよ」

 ふふっと笑うおばさんの声を横耳に、俺はタイムカードを押し部屋を後にしようとする。

「あ、神梨君。はいこれ」

 おばさんは片手に持った缶コーヒーを俺に渡してきた。まだ冷たいし、その上無糖じゃなくて微糖であったことに感動を覚える。

「ありがとうございます……」

「まぁ元気だしなって」

「なんとか出せたら出します。じゃ、お先に失礼します」

 俺はおばさんに一礼した後、工場を出た。

 曇りなのか晴れなのか分からない空模様。できれば曇ってた方が良かったな。夏だし暑いし。

 アパートのある俺の家まで歩きながらも、時にふいった工場の方を振り返る。

「こんなちっちゃな所で喚かないでもいいのによ。うるっせえ上司だ」

 なんだか嫌な事ばかり引きずるんだろうか。どれもこれもアレが原因だろうな。

 二カ月前、ずっと飼っていた猫が亡くなった。

 白く柔らかい毛並みにくりっとした可愛らしい目が特徴的だった。小学校から帰ってからよく触ったものだ。

 朝食の準備をする時にいなくなった猫『ミミ』を探しに外に出たら、何処かにで歩こうとしていたのか、近くの空き地で横たわっていた。

 外傷も一切なく、病院の検査結果によると病気だったらしい。

「……あぁったく。目にコーヒーがしみるぜ」

 いや、コーヒーなんてしみんねえよ。目から出てきたら軽くホラーだろそれ。

「帰るか」

 何回ため息をついたか数えているとアパートに到着。俺の部屋は二階の隅。かつかつと音を立てながら昇り、ただいまの一言も発さずに部屋へ入る。重い腰を動かしてベッドまで辿り着きぐったりと顔から落ちてかぶさった。仕事のことを忘れ現実逃避をするようにミミのことを思い浮かべた。

 ミミの病気は外見では分からないものだったらしく飼い主が気づかずにかかっているパターンが多いそうだ。何処か変わった様子はなかったか、何か変な症状はなかったか聞かれたが答えられなかった。

 忙しくて目も当てられなかった、と言いかけた自分を恨みそうになった時がある。それは完全に育児放棄と変わらない。精神が病むのと病気を患うのではわけが違う。

 ごめんな。

 なんて今更呟いても遅い。

 ミミはもういないのだ。

 そう自暴自棄になっていると俺のポケットから何かが落ちた。正月に神社で売られているお守りだ。「お前は現実から逃げてる」といいたげに健康祈願と書かれた文字が目にうつった。なにが健康だ畜生め。

 ミミが来たのは今から三年前、俺が引っ越してきたばかりの時だ。来た、というよりも拾ったが正しい。空き地の近くで捨てられていたミミを拾ってから三年間、喰う寝を共にしてきた。寂しい時も楽しい時も一緒だった。

 思えば思うほど目に水がしみだす。これはコーヒーじゃない、生温かい水だ。

「はぁ」

 溜め息しか出ない俺の生活は一体なんなんだろうか。「お前ずっと動物と一緒とか大丈夫なの? 友達いるの」とか別に聞かれてもいいし、どうでもいい。それで救われてきたんだから。

 でも、ミミが居ない今は現実じゃない。そう思いたい。俺はさらにベッドの中に顔をうずめる。

 はぁ、外に出たくない。明日会社行きたくない。でもおばさん優しいしコーヒーうまかった。

 考えれば考えるほど、負の連鎖ばかり広がっていく。

 俺は寝ころんだ状態でドアをじーっと見つめる。

『ちょっとー! 開けてー!』

 あぁ、頭の中で幼馴染の声がする。でも残念ながら幼馴染なんていません。中学二年生の時に空想で作った幼馴染ですー。今でも覚えているって気持ち悪いと思うだろうが女友達とかいるわけないし仕方ないだろ。

 黒髪に純白のメイド服に凛とした腰構え、もう魅力的な女子じゃないか……。

 しかしそれが聞こえてくるということはとうとう現実と妄想の境目が分からなくなってきた証拠なんじゃなかろうか。

 まぁそうか。別に無理する必要もないか。こうやって頭の中で空想幼馴染とイチャイチャするパーティータイムで毎日を過ごしたっていいだろう。別に死ぬわけじゃないんだ。そうだろ、俺。

 あのドアを開ければイメージ通りの幼馴染が迎えに来てくれるんだ。そう念じながら俺はベッドからゆっくりと立ち上がり、ドアに手をかける。

『ちょっとー! 開けてー!』

 ってそんなわけがないだろー。扉のドンドンという音を聞いて俺は一気に妄想から現実へと戻される。ったくよ、こっちは愛猫が死んだというのに気が利かねえな! 誰だこの野郎!

「はいはい誰だよ……」

 でも怒鳴るのはもちろん心の中だけです。言ったらなんか言いかえされそうで怖いし。

 ガチャリとドアを開けると、自分より少し体格の小さい女の子がいた。

 ん?

 見た目は俺と同い年くらい。

 だがこの姿……。

 黒髪に純白のメイド服に凛とした腰構え。

 私が中学二年生の時に空想で作った幼馴染と寸分違わず、似ている。

 というか本人。

「久しぶりっ」

 扉をバタンとしめてスマートに鍵をかける。

『ちょ、ちょっと!? なんで締めんのよ!?』

 よし、とりあえず頬を引っ張ってみよう。思いっきりだ、皮と皮が引きちぎられるくらい、よくあるゾンビ映画とかに出てくるゾンビの頬がベラリとはがれた状態を目指す勢いで引っ張ってみよう。

 思い切り手で顔をつまんで引っ張ってみるとイテテテテテテめっちゃ痛いじゃねえか、なんだよこれ。普通に痛いし。よくゾンビとか皮膚削れたままで動いていられるよなってゾンビは痛覚ねえじゃん。

 とりあえず夢でないことは分かった。じゃあ何だと思ったところで一つの推測が出てきた。

 俺の黒歴史ノートを、誰かに見られたのかもしれない。

 その誰かが、こうやって嫌がらせをしに訪れてきたのかもしれない……!

 誰もが妄想を思い描きたいであろう頃に書いた中学二年生のノートがあるのだが、それは都内の実家にあって手元にはない。ということは、俺の黒歴史を知っている中学時代の同期の誰かがノートの秘密を知った。そうなればコスプレを工夫すれば簡単にできると思う。イラストとか書いてたから無駄にまねできる確率が高い、へたくそだけど。

 ということは中学の時に黒歴史を知った人物が何らかの手で俺の住所を割り出し、わざわざこうやって嫌がらせをしにきたということか。くそ迷惑な話だろ……。

「貴方はどこの誰ですかね?」

『はぁ!? あんた、覚えてないわけないでしょうね!?』

「何か私に恨みでも?」

 こうやって我を通しているうちは何を言っても通じない。俺は徹底的にこの娘の言葉を否定し続ける。

 にしても誰が俺のノートを見たのだろうか。中学時代に友達を部屋に入れたことはあるが、さっきも言った通り女子の友達は一人もいないし、だからといって「友達の友達」みたいな繋がりで俺を嫌がらせに来る意味も分からない。

「いやあの、マジでどなた?」

『私よ』

 少女はふんっと鼻息たてて悠々と手を腰にあてる、ようなイメージがドアごしで浮かんだ。へぇー、『私』って名前なんだー、すごく斬新だねー。アホか。わかるわけないだろ。

「警察呼んでいっすか?」

 らちがあかないと思い、通報という名の圧力手段を使わざるを得ない。俺は携帯をスチャっと片手に持つ。

『なんで通報すんのよ!? いいから開けなさいって!』

 穴があくんじゃないかと思うほど少女はドンドンとドアを叩いてきた。つかなんで知らない人に追い詰められてるの? この子ヤンデレなの? でもフラグなんて立てたことないし現実のフラグの立て方は攻略ウィキでもない限り全然わかりません。

『お主やー。そこのお主やー。扉を開けなされー』

 うわー。今度はすげぇおじいさんキャラの声が聞こえてきたよ。俺の妄想もここまで来ると精神鑑定ものだな。と、仙界の仙人みたいな声がどこからともなく聞こえてくる。おじいさんの幻聴とか一体なんなんだよマジで。

 しかし本当に聞こえていたわけで、その声の主は部屋の中に居たことに俺は気づかなかった。

 ドアから顔を背けて恐る恐る振り返ってみる。

「ここじゃよ、ここ」

 部屋のベッドの上で、ヨボヨボの犬が喋っていた。

 雑草のように毛を生やした犬の手や足はすげーブルブルしてて、今にも骨折とかしてしまいそうだ。この子大丈夫なのって言いたいけど、なにこの急展開。

 まず、なんだこいつ。

「とりあえず、扉を開けなされ」

 普通に喋ってんじゃねえかよ。

「い、いや、開けたら変なのが入ってくるし……」

 人生最大に冷静さを保って会話を繋ぐ。なんで犬と喋ってんだよ俺。

「これこれ。変なのと言うでない。お主の大切な命じゃよ」

 貫禄のありそうな台詞の割にめちゃくちゃフラフラしてるおじいさん犬。いやあんたも十分おかしいよ。マジで何者だ? 動物?

「わしの事はええから、早く入れてやりなさい」

 これが人生経験豊富な年寄りの勘なのか、と俺の心を読んだ犬はブルブル震えている手をゆっくりと動かしてドアを指し示す。いやマジで大丈夫かよ。もう焦りを通り越して心配になってきた。

「つか、大切な命って?」

 俺の復唱におじいさん犬はコクリと頷く。心に暖を与えるような微笑ましい表情をしているが体が震えまくってて台無しだった。

 俺は言葉に身を任せ、少しドアの合間を開ける。少女がキィィィっといいたげに睨みつけてチェーンを乱暴に掴む。

「やっと出てきたわね。ほら、さっさと開けなさい!」

 やっぱり変なのは訂正しなくていいわ。

「なに馬鹿にした目で見てんのよ? 惨殺に処すわよ!」

 チェーンを片手に拳を握り、大型犬の如く吠えてこちらを見る。辞めろそれ、俺が昔ノートに書いた決め台詞じゃねえかうわぁぁぁぁぁ。

「お前なんでそんな色々知ってんだよ? 悪いことしたなら全部謝るからさ。本気で誰だ? いつの友達だ?」

「私よ!」

 彼女はえっへんと腰を手に当てる。もうそのパターンいいから。

「だから、名前は!」

「ミミよ!」

「そんな名前の人が日本にいるわけないだろ! アメリカでも行って来い!」

「元は人間じゃなかったんだから当然でしょ!」

「はぁ!?」

 ミミと名乗る少女は顔色一つ変えず、自分の正しさを曲げない信念を持っているかのような面構えでこちらを見る。

 もうホントになんなんだろうか。ミミが亡くなった事で落ち込んでいたのに、それどころじゃなくなった。

「その子が言っている事は本当じゃよ、神梨君」

 俺の名前を読んだおじいさん犬はか細い声で呼びとめる。

「いや、つか。え? なんであんた俺の名前知ってるの?」

「わしもお主と共にいたからの、そしてその子も同様じゃ」

「はぁ」

「とりあえず、ドアを開けなされ」

 俺は不思議な気持ちを抑えつつ、鍵のチェーンを外すと勢いよく少女が飛び込んできた。

「やーっと入れたわ〜。うーん、この空気! 二か月ぶりね〜! っつか! なんでさっさと入れないのよ!」

「いや、そんなこと言われても……」

 それより『さっさと入れないのよ!』という表現ちょっとエロいよね、とにやにやした口を抑えながら彼女の谷間を見る。そこそこでかい。そしてよく見たら美人だ。可愛いようで端正な顔立ち、青に染まりそうな瞳の輝きに一瞬我を忘れそうになった。

 本当に誰だ?

「さてさて、神梨君、とりあえずこっちにきて座りなさい」

 おじいさん犬に言われてベッド近くまで移動する。俺の部屋なんですけどね。

「で、何が一体どうなってる?」

 おじいさん犬はプルプル震わせながらおすわりする。

「わしはお主のお守りについておった、神様じゃよ」

「神様? お守りって、これか」

 俺はポケットから健康祈願のお守りを取り出す。というかこの中に神様いたのかよ。なんつーコンパクトな神様だ。

「そう。そして、その子はお主が飼っていたミミちゃんじゃ」

「えっ?」

 ポカンとなった俺はミミと呼ばれた少女を見る。彼女はうんうんと首を縦に振りまくった。

 そういえば自分のことをミミって言ってたな。まさかそのミミなのか?

 信憑性は低い。当たってるかどうかも分からないけど、ポーンと頭に浮かんできた予測をおじいさん犬に言ってみる。

「もしかして、このミミって少女は俺が飼っていた猫で、それが人の形になって現れた……ってこと?」

「その通り」

 当たっちゃったよ。

「その子はお主の飼っていた猫。そして今の姿はお主の空想を元に、わしが現したのじゃ」

「俺の空想? いやいや、どうやって」

「わしはお主と共にいた。いわば健康祈願の神様といってよい」

 健康祈願の神様ってなんだよ。

「お主の悲しげな姿を見ておるといたたまれなくての。かわいそうじゃし、ミミちゃんをわしの力で魂を呼び戻し、人間の姿に変えたわけじゃ。お主と共にいたわしは、お主の頭のイメージが読みとれるんじゃよ。わしゃ神様じゃからの」

 おじいさん犬はどうどうと喋っているが正直かなりファンタジックなことを言っている。いやもう今の時点で結構ファンタジック。

 だがこの犬の言い方からすると嘘をついているようには見えない。喋っているだけでも有り得ないことだし。

 おかげで少しずつ頭が冷えてきたので、考えをまとめてみる。

「つまり、あんたは俺が肌身離さず持ってたお守りの中にいた神様で、あんたの力でミミを復活させたってことか」

「復活というよりは魂の形を変えたと言うべきかの」

「いやでも一応死んだわけだし……」

「ほっほっほ」

 笑ってごまかされた。

「でも待てよ。こいつがミミって証拠は……」

「あるわよ」

 いつのまにか隣に来ていたミミははっきりと答えた。彼女は立ちあがり、俺のベッドの下に手を伸ばす。その仕草が少しエロくてたちまち興奮してしまいそうだ。

「あんたのエロDVD、ここでしょ」

「うわぁぁぁぁぁぁ辞めろぉぉぉぉぉ!」

 我を忘れてミミの手をどかす。

「何で知ってんだよ!」

「だって一緒に見てたし」

 うわぁ、このストレートな発言、見事です。

 俺は諦めて現実を認めた。こいつはミミだ。だって隠し場所知ってるの俺だけだし、そもそも隠し場所とか教えないし! 逆に言うと動物のミミしか知らない。

 しかし一緒に見てたって言われると顔から火がでそうだ。確かに見てたのは認めます。でも女の子に一緒に見てたって言われると……って元は動物だから仕方ないのか。

「なに顔赤くしてんのよ? 今更じゃない」

「いきなりそんなこと言われたら照れるだろ」

「あぁー、照れてるのね。この格好あんたの妄想なんだっけ」

 ミミは全身を嗅ぐようにくまなくメイド服の見る。

「わしがなんとか形にしたのじゃよ、ほっほっほ」

「でも外に出さずに家の中に出してくれればよかったのに……おかげで中に入るのに一苦労したじゃない」

「すまんの。なにせ神梨君が頭の中に浮かべたイメージをそのまま表しただけじゃからの。ほっほっほ」

 俺は溜め息を吐いてベッドに腰をかけた。

「はぁ……なんでこんなファンタジックな展開に」

 死んだかと思った愛猫が、なぜか俺の妄想少女の姿になって、それでまた未知の力を持った健康祈願の神様が犬になって俺の前に現れる。『ねーねー! うちの猫が美少女になって生き返ったのー! すごく可愛いんだよー! 同居生活だよー! うふふー!』なんて言ってしまった次の日には社内孤立が確定する。

 信じる人はいないが、信じられないことが起こっているのが、今の俺の現実ということなんだろうか。

「現実は時として夢のような事が起こるのじゃよ、ほっほっほ」

 こんな時だけ年配者っぽいことを言うおじいさん犬は足を崩して伏せた。

 俺はだらーと転がっているミミを見る。病気で死んだような感じには見えないし、本当に猫だったのかよとか、このファンタジックな現象は何がどう起こっているのか? とか色々と疑問は浮かんだ。

 しかし、確かにこの光景はどことなく昔のミミを感じさせるものに近かったような気がした。

 ミミはごろごろ転がった後に、何かを思い出したような顔でこちらを見た。

「あ、一応……ただいま」

 少しだけ顔を赤らめたミミを見て脳が熱くなった。

 ふと、俺の懐に飛び込んできた猫のミミの姿が脳裏に浮かんできた。

「お、おかえり」

 懐かしさから、俺は自然と声を発していた。

「ほっほっほ、愉快愉快」

 おじいさん犬は完全に他人事のような顔をして笑う。

「ん? でも待て。この展開って俺がこれからお前らの面倒見なきゃいけないってことか?」

「わしは疲れたからのぅ……。この部屋の居心地は悪くない。しばらくこの姿でいさせてもらうとするかの」

 無視かよ。

 おじいさん犬は眠るように目をつぶる。この野郎、俺の許可なしに居住宣言しやがった。

 仕方がないと思いながらベットから立ち上がり、外へ出ようとする。

「何処か行くの?」

 ふとミミが尋ねてきた。

「エサを買いに行くんだよ。そでぐっすり寝てる神様のな。寝るんだったら喰ったりもするだろ」

「あたしのもなんか買ってきてくれない?」

 さっそくパシリですか。お前本当に元俺のペットかよ。

「分かったよ、何が欲しい?」

「あんたに任せるわ」

「それ一番困るんだけど……」

「変なの買ってきたら惨殺に処すわよ?」

「その台詞本当に勘弁してくれ」

 俺は頭を掻きながら、ドアノブに手をかける。

「いってらっしゃい」

 ミミの温かな声が、耳元に入ってくる。

 いつもの朝、仕事に行く俺を一声鳴いて見送るミミの姿が鮮明に出てきた。

 ふと、目尻から熱いものが流れそうになる。

「ん? どーしたのよ、立ち止まって」

「なんでもねえよ、目からコーヒーが出そうになっただけだよ」

「はぁ?」

「んじゃ、行ってきます」

 不思議に思うミミに俺は一声かけ、外へ出かけた。


ここまでお読みくださりありがとうございます。

愛猫が神様のスーパーパワーで美少女になって戻ってきた話でした。

今回のテーマはタイトル通り「コーヒーは目からでません」です。多分違います。


飼ってたペットが亡くなった主人公の日常に超常現象を加えてコメディ風に書いてみたという話にしてみました。

かなーりぶっ飛んだ方向に話が進みましたが……。

お涙頂戴の感動的な雰囲気でなく、こういうドタバタな報われ方もあったりするのかなぁと思いながら書きました。






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