再会 -REUNION-
帝が麻也のもとに現れたのは陽が傾くころだった。 帝は浅葱色の直衣を召され、前のように強引に御簾の中に入って来ようとはなさらなかった。
「今宵はようこそお越し下さいました。……あの」
「私は御簾の中に入りたいが、嫌われるくらいなら、ここにいる」
麻也は黙って、御簾を少し上げ、手招きをした。
「…どうぞ」
帝は御簾の縁から、中へするりと入った。
帝の容姿は以前とあまり変わらなかった。
沈黙が二人を貫いた。
「「……あの」」
第一声が重なり、二人は顔を赤らめた。
「先にどうぞ」と麻也は帝に言った。
「…私は、あの日から、ずっとそなたのことを忘れることができない。文で十分だったが、今こうして本人と向かい合うと…無理だ」 麻也は頬の朱を隠すように、扇を広げた。
「…私も、です」
羞恥心から瞳を伏せる。帝を前に、何もかも捨てようと思った。
優しい手つきで扇を持つ指がほどかれ、扇がカタンと音をたてて床に落ちた。長い指が空いた右手に絡まった。
まつ毛がひとりでに震えて、潤んだ瞳をさらけだした。
帝が笑んでいた。いとおしそうな目で見つめられ、頬がカッと熱くなる。
耳に指が触れただけで、敏感に反応してしまった。帝の指が顎の線を伝って、頤に添えられる。
いつの間にか腰に手を添えられていて、ゆっくりと床に押しつけられている。 相手の顔が近づいてきて思わず目をつぶる。瞳に溜まった涙の粒が目尻を伝うのと、唇が繋がったのは、惜しくも同じ瞬間だった。
初めての体験に何もかもが甘く溶け出していく。短い口づけを幾度となく繰り返す。深い口づけは、突然訪れた。帝はうまく麻也の頭をもたげて、相手の負担を少なくさせていた。帝の息はとても熱を帯びていた。 帝の指が袴の帯にかかり、麻也は肩を震わせた。
「大丈夫だ。楽にしていろ。痛ければ、私に掴まれ」
帝は被さるように麻也を抱き締めた。そして麻也は瞳を閉じて、帝の背に手を回した。