竹取物語 -THE BAMBOO PRINCESS-
目を覚ましたとき、目の前は真っ暗だった。手を伸ばすとすぐさま硬いものにぶつかった。
滑らかな表面に一筋の節目がある。腕を上に伸ばすとまた節目。そこで麻也は思い付いた。
(……竹!?)
・かぐや姫の扇
・夢の中の竹
このふたつは案外裏で繋がっているのかもしれない。 (…そんなわけないよね。考えすぎか)
夢よ、夢。『竹取物語』の世界なんて、あるわけな…。
ス、パーン!!
頭上から光が射し込んだ。上を見上げると、老翁と目があった。
「姫じゃ、姫じゃ!竹から姫が生まれた!」
それは『竹取物語』の「かぐや姫」と同じ始まり方だった。
物語を狂わせてはならない、麻也は自分の中でそう感じた。何ヵ月も経つのに一向に夢から覚める気配はない。身体だけが大人の女性になっていく。老翁である竹取の翁に竹から見つけられたときは精神年齢15歳肉体年齢5歳だったのに、いまでは肉体年齢が精神年齢と同じになっている。とは言うものの、体つきは眠る前よりも女らしい。具体例はあえて言わないが。平安時代では数え年15歳は結婚適齢期。満年齢15歳の麻也は数え年で17歳ぐらい。竹取の翁と嫗が早く結婚させたいと思うのも無理はない。麻也が翁と嫗の家に引き取られてから、二人の家はどんどん裕福になっていった。美しい十二単を身に纏い艶やかな髪をした彼女は数年ぐらい前から都人や民人の噂の的になった。平行して求婚者も一気に倍増した。
麻也はいい加減うんざりしてきていた。おびただしい求婚者の数や好奇の目。初めは普通の平民だけだったのに、今では高級官吏、すなわち貴族が歌を送ってくる。現実の麻也は歌が詠めないけれど"夢"なので、それなりに順応しているらしい。それに、最近は外に出るだけで誰かに顔を見られる恐れがあるので御簾は下げたまま、とても窮屈である。
「か~ぐ~や~!石作りの皇子様と庫持の皇子様と右大臣阿部御主人様、大納言大伴御行様、中納言石上麻呂足様がいらっしゃったよ!」竹取の嫗の声が足音と共にやって来る。
「この御五方は皆、将来有望な方々だよ。きっと幸せになれるさ。今、外にいらっしゃるから一回会ってみたらどうだい」
退屈しのぎにでも一回会ってみようかな。