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涙 -TEARS-

 その事実に気がついたその日から、麻也の瞳からは勝手に涙が零れるようになった。

体が物語に支配されていると思った。否、考えずにはいられないのだ。羽衣を羽織った自分が帝を忘れてしまうということを。

自分はおかしい。その事はずっと前からわかっていたのに。

「…ばか。」

ばかばかばかばかばか!自分に対しての罵りの言葉は心の中を渦となって駆け巡る。

「……嫌だ。月になんか行きたくない。…朔哉さま」

もう遅かった。麻也がどんなに思っていようと朔哉と麻也は一生会えない。今宵も朔哉は女御と甘い夜を過ごすだろう。麻也は一人、使者を待つしかないのだ。

「…好きです。愛しています。私を連れていって…」

麻也の呟きを嘲笑うかのように乾いた秋の風が通り抜ける。


朔哉は褥の上で一人横たわっていた。

あれだけの美しい女に触れたのは久しぶりだった。柔肌の感触が今でもまだ手に残る。

梅壺の女御とは比べるまでもなかった。どう見ても、麻也の方が上だった。

「子が授かってほしい…」

 そうなれば、麻也を子と共に召し上げることができる。



仲秋の名月まで、あと3日となった。

麻也はこの日も頬を涙で濡らす。

麻也の涙にただならぬ気を感じた翁と嫗はオロオロとして、麻也に近寄った。

「かぐや姫や。なぜそれほど泣いているのじゃね。…御上のことかね」

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