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扇 -OHGI-

2011年7月14日〜

 その日の空は一点の雲もなく晴れやかだった。しかし縁側の石畳には雨粒の痕跡が多く残り、空からは微かに雷の音まで聞こえてくる。そんな中、足早に街道を進む少女が、一人。     

「も~。何で晴れなのに雷が鳴んのよー!」      彼女が向かう先は時雨殿。

 申し遅れた。その少女の名は華宮夜麻也。中学三年生だ。彼女は夏休みに京都に住む叔母一家に預けられているのだ。

入場料を払い、ハンカチで濡れた服を拭う。雨だからなのか観光客は少ない。静かな廊下を摺り足で歩く。展示品はどれも素晴らしいものばかりでいちいち立ち止まって中を覗いてしまう。何度来ても飽きない。 

「いつ見ても、綺麗ね」

 やはり国風文化は好きだ。 不意に遠くから足音が聞こえた。だんだんと近づいてくる。そっとそちらの方に眼を向けた。

えっ……!?

 美しい顔の男がそこにいた。歳は二十歳程であろうか。少し長めの黒髪は後頭部で結わえ、紺絣(こんがすり)の和服に身を包んでいた。切れ長の瞳と目があった。深い漆黒の瞳に吸い込まれそうになる。先に視線を反らしたのは相手だった。後ろを通り過ぎるとき微かに梅の香りが鼻孔を掠めた。その香りが何故か妙に懐かしかった。       

 コ…トン

「……?」

 音のした方に目線を落とす。屈み込んでそれを手に取った。

「…扇子?」

 いや、違う。(おうぎ)だ。 「今の人が落としていったのかな」

 麻也は男の曲がった廊下を見る。しかし、そこには誰もいなかった。念のため出口の係員に尋ねてみると「存じません」(=いませんでした)らしい。あまりしつこく尋ねると嫌がられるので深くは尋ねなかった。               

「この扇どうしよう…」

 麻也は自分のベッドに横たわりながら考えた。あの後、出口の係員に渡しても意味がないと思った彼女は扇を自宅に持ち帰ったのだ。

 そっと開くと月と平安女性が描かれている。「月と平安女性」といえば――。

「かぐや姫!」

 でも、どうして男の人がかぐや姫が描かれている扇を持っていたんだろう。

 時計を見ると11時を超えていた。毎日9時に就寝する彼女には痛手だった。 布団の中にもぞもぞと入り込む。扇は枕元に大切に置いておいた。明日にでも、また二条城に行けばいいやと思って。

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