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好きだと、言って。  作者: 水樹ゆう
(Ⅰ)~忘れえぬ人~亜弓編
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  【再会】懐かしき友。-2


 今の病院って、土足のままで良いのね。

 大きな病院がみんなそうなのか、新しい病院がそうなのか知らないけど、玄関でスリッパに履き替える小さい個人病院しか知らないから、ちょっとしたカルチュアー・ショックだ。

 近代的な大きな病院の雰囲気に圧倒されつつ、私は浩二の後に続いて、三階にある外科の入院病棟に向かった。

 が、エレベーターで三階に着いたのは良いけど、広すぎてどこに病室があるのか分からない。

 確か、ハルカの病室は315号室。

 エレベーター前のフロアで思わず立ちすくんでいたら、「こっちだ」と、浩二が迷う風もなくスタスタと歩きだした。

 なんで浩二が、ハルカの病室の場所を知っているの? と、不思議だったけど、よくよく考えれば、親友である伊藤君の彼女だもの。前に、お見舞いに来ていたっておかしくはないと、思い当たる。

「あ、待ってよ!」

 置いて行かれそうになった私は、慌てて浩二の後を追った。

 それにしても。もっと早くに教えてくれたら良いのにっ!

 誰に口止めされたのか知らないけど、私にまで秘密にしておくことないじゃない?

 なんて考えながら歩いていたら、浩二が立ち止まったことに気づかずに、背中に『ぐしゃっ』っと、激突してしまった。

 って、ぐしゃっ!?

 嫌な予感がして、浩二の背中と自分胸の間に、恐る恐る視線を落とす。

 そこには、見るも無惨に押しつぶされた、ミニ向日葵の花束。

「うわぁ、花がっ!」

 慌てて一歩後ろに飛び退いて、抱えていた花束を覗き込む。

 潰してしまったかと心配したけど、ありがたいことに向日葵は強かった。

 つぶれた包装紙をバリバリと元に戻すと、最初から何も無かったかのように元通りに復元した。

「よかったぁ……」

「ここだ」

 浩二は、私の一人漫才を見ない振りして、パステルピンクのスライドドアの前でくいっと、あごをしゃくった。

『三池ハルカ様』

 ドアのネーム・プレートに、ワープロ打ちされたハルカの名前が貼り付けられている。

 ここに、ハルカがいるんだ。

 ごくり。

 思わず、唾を飲み込む。

「じゃ、俺は喫煙室にでも行ってるから。面会が終わったら、声を掛けてくれ」

「え?」

 なぬっ!?

 ポソリと呟いて、スタスタ歩き出す浩二の行動にギョッとした私は、逃すまいとその腕を慌てて掴んだ。

「な、なんで? お見舞いしないの浩二!?」

「――俺は、前に来てるから、いいよ」

 思わず声を荒げてしまった私に、浩二は少し苦笑めいた表情を向ける。

「だって、せっかく来たのに……」

「亜弓は、三池に会うのは久しぶりだろう? 女どうし、積もる話でもすれば?」

 そ、そりゃ、そうだけど。

 こ、この薄情ものっ。

 一緒に来てくれたって良いじゃない!

とは、さすがに言えない。

 私だって、二十五歳の、いい大人なんだから。

「……わかったわよ」

 私は腹を据えて、病室のドアの前に立った。

 コンコン。

 すうっと一つ深呼吸をして、ドアをノックする。

「どうぞ」

 すぐに返ってきたのは、聞き覚えのある懐かしい声。ハイトーンの澄んだ声に、ドキドキと鼓動が早まる。

 よし。

 行け、私!

 意を決して、

 パステルピンクのスライドドアに手を掛けて少し力を入れると、思いの外軽やかに、音もなくドアは開いた。

「こんにちはー」

 なるべく何気ない風を装いながら、明るく声を掛けつつペコリと頭を軽く下げて。私はなんとか笑顔を作ると、病室へ一歩、足を踏み入れた。

そして。ドキドキと暴れまくる自分の心臓の鼓動を聞きながら、視線を上げたその先に、ハルカがいた。

 まるで、時が戻ったみたいに。

 あの頃とぜんぜん変わらない、ハルカが居た――。




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