【凶報】どうか神様。-3
あれは、そう。
高校の入学式だった。
抜けるような、青空の下。
ハラハラと、薄桃色の花弁が雪のように降りしきる満開の桜並木の中で、私は、ポツリと佇む一人の女生徒を見かけた。
一目見たら、たぶん絶対忘れないだろう、これ以上ないってくらいの印象深い、そんな『美少女』。
まだ、幼さを残している小柄で華奢な体。
セーラー服から見え隠れする素肌は、どこもかしこも抜けるように白くて滑らかで。
春の優しい風に吹かれてサラサラと舞っている、色素の薄いストレートの 長い髪も。
長いマツゲに縁取られた、ライト・ブラウンの大きな瞳も。
丸みを帯びた頬のラインも。
可憐な、ピンクの唇も、何もかも。
本当に綺麗で、
まるで『天使みたい』だって、そう思った――。
「ねえ、どうしたの?」
少しためらった後、私は、その子に声をかけてみた。なんだか、困っているように見えたから。
「え? あ、あの……」
そう言って、彼女は恥ずかしそうに、白い頬をポッと上気させた。
うわっ。
色が白いと、ほっぺってピンク色に染まるんだ。
可愛いーっ!
それに、澄んだハイトーンの声も、まるでアニメの主人公みたいに可愛いすぎっ!
本当に、こんな子って居るんだなぁ。
高校入学時には、身長168センチ。
ひょろひょろと、背ばかり伸びるのがコンプレックスだった私は、小柄な子を見ると何だか嫌~な気分になるんだけど、ここまで可愛らしいと、いっそコンプレックスなんて感じない。
しっかし、ホント、お人形さんみたい。
思わず、彼女の美少女具合に感動していると、彼女がすっと右手を上げた。
「あの人の名前、分かりますか?」
「え? どの人?」
彼女の白い指先が指し示す方に視線を巡らせた私は、そこに良く知っている二人連れを見つけて、ちょっと驚いた。
そこに居たのは、三ヶ月年下の従弟の浩二とその親友、伊藤貴史くんだった。
そもそも、幼稚園からの腐れ縁だから浩二が従弟であることを差し引いても、二人のことは良く知っているんだけど。
いわゆる、『幼なじみ』ってやつ。ちなみに二人とも、三度の飯よりもサッカーが大好きな『サッカー・バカ』だ。
「えっと、どっちの人? にやけた顔をしている垂れ目のツンツン頭は、佐々木浩二って私の従弟なの。で、色黒の大きい方が、伊藤貴史くんだけど……」
「伊藤くん……、伊藤貴史くん」
彼女は、その名前を確かめるように呟いた。
ピンクの唇が、伊藤くんの名を呼ぶ。
私は、なぜかドキンと鼓動が大きく跳ねるのを感じた。
「おーい、亜弓、何してるんだぁ? もう、入学式始まるってよ!」
「今行くよー!」
浩二に大きく手を振り、私は彼女に向き直った。
「あ、私は、佐々木亜弓。よろしくね!」
右手を差し出すと、彼女は一瞬驚いたように目を見開き、再びその頬をピンクに染める。
そして、零れるような笑みを浮かべた。
「わたし、三池ハルカです」
『ペコリん』
そんな表現が似合うような可愛いらしいお辞儀をして、彼女は小さな白い手を差し出し私の手に添えた。
ギュッと握ったその手は、とても小さくて、とても柔らかかった――。




