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好きだと、言って。  作者: 水樹ゆう
(Ⅰ)~忘れえぬ人~亜弓編
22/33

  【凶報】どうか神様。-2


『ハルカが危篤だ』

 浩二の震える声が、凶報を告げた。

 頭の中が真っ白になった私は、すぐには反応できなかった。

 そんなの信じられるわけがない。

 だって、ハルカと電話で話をしたのは、つい一昨日のことなんだから。

 その時のハルカから、変わった様子は全く感じられなかった。いつもの、明るいハルカだった。なのに。

 こんなに急に、危篤だなんて、信じられるわけがない。

『あーちゃん』

 私を呼ぶ、少し舌っ足らずでハイトーンの澄んだ声。

 少女のような、可愛らしい笑顔。

 ――ハルカ。

 ハルカが、死んでしまう?

 この世界の、どこからも消えてしまう?

 居なくなってしまう?

『二度と、会えなくなる』

 わきあがる恐怖で、何をどうして良いのかわからない。

「ど……しよ……う」

 全身に震えが走って、私は、もう切れている携帯電話を両手でギュッと握りしめて身を縮めた。その両手さえ、ブルブル震えてしまいままならない。

震えを止めようと、両腕で自分を掻き抱いた。それでも。震えは止まらない。


 私の異変に気付いた直也は、事の成り行きを聞くと、すぐにハルカが入院している中央病院に向かってくれた。

 渋滞を避けて、一般道の裏道を通っておよそ一時間の道のり。まるで押しつぶされそうに恐ろしく長く感じる時間の重みに、私は車の助手席で必死に耐えていた。

 怖くて、こっちから病院へは確認が入れられない。

 浩二から連絡がないことが、『最悪の事態に至ってないことの証明』

 そう自分に言い聞かせ、助手席でただ自分を掻き抱くことしかできない。

「……ごめんね。せっかく、ご両親が呼んで下さったのに……」

 おそらく、私のために、心づくしの持てなしを用意してくれているはず。それを、無駄にしてしまった。

「そんなことは、気にするな。それに、こういう緊急時の対処法は教えてあるだろう、佐々木さん?」

 私の気持ちを引き立たせようとしてくれるように、直也が、聞き覚えのあるビジネス口調で言う。

 不器用で。

 一度に二つ以上のことを頼まれると、あたふた慌ててしまってまともに仕事がこなせない新人OLだったころ。直也は良くこういう口調で、厳しいけれど、的確な指示を出してくれた。

――緊急時の対処法。

『君だけじゃない。俺だって、一度に二つの事は出来ないんだ。いいかい、一度にやろうと思ってはダメだ。こう言う時は――』

 七歳年上の『篠原先輩』がそう言って教えてくれたこと。

「……優先順位を考える?」

「そう、正解」

 前方に視線を固定して、ハンドルを操る直也の横顔には、穏やかな笑みが浮かんでいる。

『今、一番大切なこと、一番にしなければいけないことを考えるんだ』

 そうだった。

 それが、一番最初に、私が篠原直也から教わったこと。

 ふうっと一つ大きく息を吐き出し、目を瞑る。

 浮かぶのは、ハルカの笑顔。

 そうだね。

 今の私にとって、一番に考えなきゃいけないのは、ハルカのこと。

 ――どうか。

 どうか、ハルカが無事でありますように。

 神様でも、誰でも良いから、

 お願いだから、

 私の大切な友達を、助けて下さい――。




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