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好きだと、言って。  作者: 水樹ゆう
(Ⅰ)~忘れえぬ人~亜弓編
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07【逢瀬】残酷な夢でも。-1


 ハルカとの再会。伊藤君との再会。

 そして、バカ浩二の、痛い質問攻め。

 あまり、色々なことが一度にありすぎだ。

 心のキャパシティは、いっぱいいっぱいで、もう飽和状態。

 これで、熟睡できたら、私は自分の神経を疑う。

 翌日。まんじりともできずに、実家の二階にある自室のベッドの上で、私は最悪の朝を迎えた。

「……頭、痛いー」

 腹這いに枕を抱え込んで、肌掛け布団を被ったまま思わず呻いた。寝不足のせいか、頭の芯にガンガンと、二日酔いに似た痛みが走る。

 今、何時くらいだろう?

 最後に時計を見たのが、五時過ぎくらいだったけど。 もう、だいぶ気温が上がってきたから、九時か十時か、それくらいか……。

『今の彼氏のこと、本気で愛しているのか』

『伊藤を、好きなのと違うか?』

 浩二も、意地悪な質問を投げてくれる。

 親しき仲にも、礼儀があってしかるべきじゃない?

 気持ちなんて目に見えないものを、どうやって量ればいいって言うのよ?

 好きか、嫌いか。

 本気か、そうじゃないか。

 そんなにかっちりと自分の気持ちに線引き出来たら、誰も苦労はしないっつうの。

 ふと、直也の優しい眼差しが脳裏に浮かんで、酷い罪悪感に襲われた。

 直也……。

 直也を、本気で愛している?

 好きと、愛してるの違いって、いったい何だろう?

 自分に問いかけてみても、答えは出ない。

「はぁっ……っいてて」

 そんな複雑なことを考えるんじゃないと、脳細胞がお怒りになっている。

 今は、深く考えるのをよそう。

「亜弓、お客さんよー」

 ベッドの中で、そんなことを悶々と考えていたら、階下から母が私を呼ぶ声が聞こえてきた。

 んあ? お客? 誰だろう?

 私が実家に帰ってることを知っている人間なんて、そんなにはいない。

 直也と、礼子さんと、ハルカと、浩二と――。

「亜弓ーっ、伊藤さんて方がいらしてるわよー!」

『イトウサン』が『伊藤さん』に脳内変換された数秒後。脳内が一気に漂白された。

「ええええっーーーっ!?」

 なんで!? なんで、伊藤君!?

 ちょっ、ちょっと待って!!

 思わずベッドから跳ね起きた私は、窓の所まですっ飛んで行って庭を見下ろした。

 忙しなく走らせる視線の先には、見覚えのある、大きな四輪駆動車が停まっている。濃紺と灰色のツートンカラーのボディ。

 昨日、伊藤君が病院に乗って来ていたのと、同じ車だ!

 や、やっぱり、伊藤君っ!?

 右往左往しつつ超特急で身支度を整え、一気に階段を駆け下りた。

「い、い、伊藤君っ!?」

 居間のちゃぶ台を挟んで、母と談笑しながら麦茶を飲んでいるのは、間違いなく伊藤君だった。

 デニム地の半袖シャツに、ブラックのジーンズ。ラフな格好も様になっている。なんて、見とれてる場合じゃないっ!

「これ、何ですか、いい年してドタドタと落ち着きがない!」

 母のお小言なんか、耳に入っちゃ来ない。

「ど、どうしたの伊藤君!? ハルカに何かあったとか!?」

 慌てふためいて、シュタッっと母の隣に座り込む私に、彼は心持ち不思議そうに小首を傾げた。

「三池? いや別に、何もないんだが……」

 ああ、良かった。

 安堵感で思わず脱力してしまう。

 肩の力がドッと抜けた私は、大きく息を吐き出しながら、ちゃぶ台の上に視線を落とした。

 よく考えれば、ハルカの具合いが悪くなったのだったら、何も伊藤君が直接来なくても、電話1本で用は足りるのだ。

 じゃあ、じゃあ、どうして伊藤君は、ここにいるのだろう?

 昨日、病院で伊藤君とは、ほとんど個人的な話はしていない。もちろん、会う約束なんてするワケもなく。もしかして知らず知らずのうちに、伊藤君の気に障るようなことでも言ったのだろうか? それで、文句を言いに……。ううん。

 そこまで思考を巡らせて冷や汗が吹き出しそうになった私は、自分の考えを思いっきり否定した。

 伊藤君は、例え私が気に障る事を言ったのだとしても、それに対して文句を言うような、そんな人じゃない。

 じゃあ、なぜ?

『伊藤君が自分を訪ねてくる理由』。

 いくら探しても答えが見つからない私の思考は、忙しなくグルグル巡る。けど。やっぱり納得のいく答えには行き着かず、私は、おずおずと視線を上げて、伊藤君の顔にチラリと視線を走らせた。

 少しだけ伺い見るつもりが、バッチリと視線が捕まり、見事にピキンと体が固まってしまう。

 伊藤君の黒い瞳に、まるで悪戯盛りの少年めいた愉快そうな光が揺れる。キュッっと下がる目じりと、微かに上がる口角。形作られる笑顔に、鼓動が早まる。

 やだ、どうしよう、何か話さなきゃ!

 こんな時こそ、お喋り好きの母が話題を振ってくれたら良さそうなモノなのに。肝心のご本人様は、気を利かせたのかなんなのか、『お茶を入れてくるわね』と言って部屋を出ていったまま戻ってこず。

「え、っと、あのっ……」

 私は、どっかんどっかんと暴れ出す心臓をどうにかなだめすかし、自力でこの状況を脱出するべくとにかく口を開いた。が。

「天気もいいことだし、もし予定がないなら、今からどこかに出かけないか?」

 モシ、ヨテイガナイナラ、イマカラ、ドコカニ――デカケル?

 は、はいっ!?

 ニッコリと爽やかすぎる笑顔攻撃で半凍結状態の私の脳細胞は、その爆弾発言で、完全に永久凍土と化した。




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