表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きだと、言って。  作者: 水樹ゆう
(Ⅰ)~忘れえぬ人~亜弓編
11/33

06【暴露】暴かれた想い。


 伊藤君が病室に来て一時間ほどたったころ、ハルカに疲れの色が見えてきたため、お見舞いと言う名の束の間の同窓会は、お開きになった。

 私は、ハルカに、また来週お見舞いに来ることを約束して、浩二と伊藤君と共に、病室を後にした。

『久々だから、今から三人で飲み会でもしようや』との浩二の提案は、伊藤君の予定が合わなくて、実現ならず。 正直、私は少しだけホッとしていた。このまま、伊藤君の側でお酒なんか飲んだ日には、どんな酔い方をするか、分かったものじゃない。 きっと、悪酔いするに、決まっている――。


「……なあ、亜弓」

 帰りの車中。 病室でのはしゃぎっぷりが嘘のように沈黙していた浩二が、赤信号で止まったときに、不意に声をかけてきた。

 できれば今、話したくないんだけど。でも、さすがに無視するわけにもいかず、私は、助手席の窓から雨に霞む町並みを見るともなしに見つめながら「うん?」と、気のない返事をした。その私の反応に、浩二が一つ、長いため息を吐く。

『おいおい、浩二君、辛気くさいなぁ。ため息の数だけ、幸せが逃げていくそうよ』なんて、いつもなら滑るように出てくる軽口を叩く気力もない私は、ただ、浩二の次の言葉を待った。

「一つ、質問していいか、亜弓」

 その声にはいつになく真剣な響きがあって、私はゆっくりと窓の外から運転席の浩二の方へ視線を移した。

 私を見つめる浩二の眼差しも、今まで見たことがないくらい真剣そのものだ。

「お前、今の彼氏のこと、本気で愛しているのか?」

「……え?」

 何を、藪から棒に。

 そんなマジな顔をして冗談言っても、笑えないよ。

 そう言おうと思ったけど、言葉が出ない。

 浩二の目が、まるで嘘を見抜いてやるとでも言いたげに、恐いくらい真っ直ぐに私を見ていたから。

 なんで浩二は、こんな質問をするのだろう?

 今の私に、そんな質問に答えられる心の余裕なんか、これっぽっちもないのに。

「な……んで?」

 自分のモノとも思えないような、掠れた声が喉から絞り出される。

「単刀直入に聞く」

「……」

「お前、伊藤のこと、好きなのと違うか?」

 な!?

「なに言ってるのよ、馬鹿馬鹿しい!」

 あまりに鋭いツッコミに、私は思わず声を荒げてしまった。

「本当に、そう思ってるのか?」

「あ、当たり前よっ。伊藤君は、ハルカの彼氏でしょ? ホント、冗談でもそんなこと言うのやめてちょうだい! それに、私、この前彼にプロポーズされたのよ。でっかいダイヤの婚約指輪も貰ったし、今度は彼のご両親にも会うことになってるの! 分かった!?」

 取り乱し過ぎて、思わず、弾丸トークしてしまった。

 これじゃ、後ろ暗いのが丸分かりじゃない。挙動不審も良いところだ。その辺を突っ込まれたら、なんて答えよう?

「そいつと、結婚するってか?」

「する!」

 あまりに意地の悪い言いようにむかっ腹が立って、思わず、勢いで断言してしまった。

「ふうん……」

 おまっ。

 何だその気の抜けた『ふうん』は!?

 これだけ人の心の中を引っかき回しておいて、『ふうん』だぁ!?

 怒りの頂点に達しようとしている私の心中を、知ってか知らずか。

 信号が青に変わり車をスタートさせた浩二は、運転に集中しながらも、話をやめようとはしない。

「で、それで?」

「何が、それでよ?」

 前方を、厳しい表情で見つめてハンドルを操る浩二の横顔を、睨み付けて言う。浩二はその厳しい表情のまま、情け容赦なくズバリと核心を突いてきた。

「俺はまだ、質問への答えを聞いてない。俺は、亜弓が伊藤を好きかどうか聞いたの。はぐらかすのはナシな。男として、好きか、嫌いか、どっちかだ。分かった?」

「うっ……」

 もう、『ぐうの音も出ない』とはこのことだ。

 この時、私は確信した。

『浩二は、私の本当の気持ちを知っている』

 なら、察してくれてもいいじゃない。

 いとこでしょ?  姉弟同然に育った仲でしょ?

 確かに、伊藤君を好きだけど。ずっと片思いしてるけど。それがイケナイの?

 私だって、好きで思い続けているわけじゃない。 直也を愛してるって、他の誰も好きじゃないって、心から言えたら、どんなに良いか。

 だけど、 忘れようとしたって、忘れられないんだもん。 私に、どうしろって言うのよ!?

「そんなにいじめるな、ばかっ!」

 思わず、本音がボロリと飛び出した。


 鼻の奥が痛い。 目頭が、ぶわっと熱くなる。

 もう、涙腺も崩壊状態に突入完了!

 くそっ。

 泣くもんか。

 泣いてなんかやるもんか。

 どんな質問でもしやがれっ!

 ギュッと唇を噛んで身構えていたけど、それっきり。

 浩二は、『私は貝』とでも言うように、ダンマリを決め込んでしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ