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妄想部的「梅雨」

梅雨 久藤模様

作者: 久藤雄生


今年の梅雨は長いらしい。

どうせ家から出ない引きこもり生活3年目の私には関係ないのだけど。

そう思っていた1週間前。




梅雨ばいう戦隊、シッケター!!」


年齢様々な5人の男女が揃って決め台詞、決めポーズ。

あぁ、なんて痛々しい。

ネーミングセンスもおかしいし。

この名前、敵によって毎回変えてるらしい。

暇人め。

しかも博士作のこのボディスーツ、あっつい。

じめっとするし、もう最悪。

自称天才なんだから温度調整機能もつけときなさいよね。


いい年して何やってるんだろう。

この辺りは民家もないし、田舎で深夜だから人通りはない。

そうじゃなきゃやってられないわよねぇ。

私は後から拝み倒されての参入なので、これが初戦闘である。

各自博士開発の武器を装備。

私の武器は何故か鉄扇。

他のメンバーもヌンチャク、トンファー、警棒、スタンガンと何故か色モノ。

博士の趣味がわからない。


敵はもちろん人間ではない。

かといって全身黒タイツでもない。

イ-って言えよ。

とまぁそこは置いていて。

敵の容貌は青鬼だ。

頭がでかいシュールな青鬼。

ちなみに人間を食べます。


「ねぇ……敵って青鬼なの……?」


これはゲームか。そうですか。


「おねぇさんは青鬼が怖いのね。あたしはアレが怒ってるママに見えるの」


「え?」


ピンクな女子中学生は遣り難いったら、と嘆く。


「ぼくにはゾンビに見えます……」


ブルーな小学生は溜息を吐く。

バイオなんてするんじゃなかった、と。


「おれはねー、見えない!」


「は?」


「どーしよ。攻撃対象見えなきゃ戦えないよねー」


グリーンな高校生がけたけた笑ってる。


「あれ、自分の苦手なものとか怖いものに見える仕様なんだって」


だから俺には見えないんだよね、と呟く。

苦手なものも怖いものもないのだろうか。


「俺にはな、ピーマンに見えるんだよな。あっはっは!」


「秀樹アンタいい年してまだ食べられないの……」


レッドなサラリーマンこと秀樹(友人)は豪快に笑う。

お前31だろうが、ピーマンくらい食べろ。

そういう私はしいたけが無理な31歳である。

人のことは言えない。


私の目に青鬼が見えるのは、まさか直前まで実況動画見てたからだろうか。

そうに違いない……。



使い物にならないグリーンは放っておいて、4人で戦闘開始。

各々武器を手に奮い立つ。

しかしあれだ、チームワークも何もあったもんじゃない。

それぞれ好き勝手に攻撃し放題である。

ストレス解消とばかりに皆攻撃に力が入ってる。

あ、皆ひどい。

グロテスク。

いやグロテスクに見えてるのは私とブルーとピンクの3人だけか。


容貌の割りには弱くて山場もなく、あっけなく戦闘終了。

誰にも怪我はなく、目撃者もなく。

これ大事。

良かった良かった。


『あ、みんなー? お疲れ様ー! これでようやく梅雨明けだよー! シーツ洗わなくちゃ!』


通信機もとい携帯から聞こえる能天気な声。

あ、いらっとする。


『初戦闘、初勝利おめでとー! 今からうちおいでよ、祝賀会しよーよ』


「しない。久しぶりの外は疲れたわ、帰る」


3年ぶりに外へ出た。

早く帰りたい。


「送ってくよ」


「いいわよ、近いんだし」


「いいから。一応女だろ」


一応ってどういうことだ失礼な。


秀樹とは博士も含め実家が近所の幼馴染だ。

今では実家住まいは私だけで、現在進行形のご近所さんではない。


「あがってく?」


「いやもうこんな時間だし。……来週、来るよ」


来週。

来週は私が引き篭もって3年目の日。


秀樹と博士が私を戦隊ごっこ(一応異常気象の解決というまっとうな理由がある)に引き入れたのは、心配してくれているからだと、わかっている。

私がいつまでもじめじめしてるから無理やり引っ張ってくれたんだって。


「うん……ありがと」


静かに玄関を閉めた。





「おかえりなさい」


「……ただいま」


お母さんの目が赤い。

心配させてるよね、ごめん。

31にもなる娘が引き篭もりだなんて世間の目も気になるだろう。

ご近所さんで良くない噂だってきっとあるに違いない。


外に出ることが怖かった。

忘れてしまいそうで怖かった。


小学生の頃、祖父が亡くなって、すごく悲しくてたくさん泣いた。

だけどそれも時がたつと薄れていった。

祖父が亡くなったことを忘れたわけでも、存在を忘れたわけでもない。

だけど悲しみが薄れてしまったのは紛れもない事実で。

私は薄情なんだろうか。


だから怖かった。

あーちゃんが亡くなって、忘れていくことが怖かった。

家の中に閉じ篭ってあーちゃんとの2人部屋で過ごした。

仲の良かった私たち姉妹は、両親により二部屋ぶち抜いた部屋を使っていた。


忘れたくないから。

忘れないように。

それが良くないことだとわかっていても、そうしたかった。


「お母さん」


「なあに?」


「梅雨明けだって」


「そうなの? 今年の梅雨は長かったわね」


「うん。梅雨も明けるし、明日の昼、出掛けて来るね」


お母さんが驚いて私を見る。

目にはだんだんと涙が浮かぶ。

ごめんね、お母さん。

3年間、面倒かけてごめんなさい。


まずは一歩。

青鬼も倒したことだし、私の梅雨も明けると良い。



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