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だいなまいと  作者: 篠義
5/6

そのご

 次の日、案の定、浪速はパニックに陥った。そりゃ、まあ、それなりにやった形跡、とはいっても、本番まではやってないが、が、互いの身体に残っている状態で目覚めれば、青褪めるもんだろう。

「・・・あ・・・え?・・・こっこれ・・・」

 ジタバタと暴れるので、俺の分の布団がなくなって、俺も寒さで目が覚めた。やっぱり、きっちりすっぱりと泣いたことは忘れているらしい。酔っ払ったら、あんなに可愛いのに、なんで忘れるんだろうと思うと笑えてきた。

「花月っっ。なっなんで? 俺、襲われたんか? 」

「あほ言えっっ。同意の上じゃっっ。おまえ、昨日、俺の嫁に就職したから、こうなった。以上。」

「しゅっ就職? 」

「思い出したか? もう転勤するような会社はやめてまえっっって、俺は言うた。」

「・・あ・・」

「ほんで、俺の嫁に就職したらええって言うた。」

「え? 」

「とりあえず、既成事実というものを作ろうと思ったんで、こうなった。」

「はあ? 」

「ああ、本番まではやってないで。俺も知識があらへんかったからな。」

「い? え? 」

 困ったような、なんだか複雑な顔をして、浪速は俺を見下ろしている。本音がわからないながらも、たぶん、心の奥のどっかでは納得しているのだろう。それが証拠に、怒鳴りもしない。ただ、呆然と俺を眺めている。

「俺、水都と一緒におりたいと思う。まあ、世間一般で言うところのホモってやつやけど、かまへんやろ? でも、強姦したわけやないからなっっ。おまえも触ったんやからなっっ。」

「あ、ああ・・・せやろうな・・・せやけど・・なんで? 」

「おまえとおるのが楽やから。俺、子供はあんまり好かんのや。それに、べたべた始終されるんも苦手やし。その点、おまえやったら、まず孕まへんわなぁ? ほんで、べたべたもせぇーへんと来てる。ついでに、無口やし、静かでええ。なかなか理想の嫁やから。」

 そして、「寂しいから離れたらあかん。」 と、泣いて縋るおまえが可愛いと思ったから、と、内心で付け足した。誰かに、こんなに必要とされることは、滅多にない。 それが、たまたま同性で、たまたま壊れている相手だっただけだ。

「・・・・俺・・・おまえの嫁になったんか? 」

 恐る恐るというような態度で、浪速が口にした。

「おう、昨日の晩から、俺の嫁や。せやから、遠いとこに就職するなんて、旦那の俺が許さへん。」

「・・でも・・・その・・俺・・・男とやったことは・・・・」

「まあ、それはおいおいに調べてみよか、と、俺も思うわ。やりたい気持ちはあるんやし。とりあえず、おはようのちゅーぐらいさせろ、俺の嫁っっ。」

 両手を差し出したら、「どあほっっ。」 と、浪速は立ち上がって、風呂に逃げてしまった。浪速は、誰かと結婚して死ぬまで生きていればいい、と、考えていた。それなら、立場が逆転してもいいだろう。結婚して旦那にはなれないが、嫁にはなるのだ。

・・・死ぬまで生きてたら、ええっちゅーのは撤回させるけどな、おう、それは全力で阻止したるわっっ・・・・

 人生なんか楽しいことがあらへんとあかんと俺は思う。まあ、別にずっと笑ってるわけにはいかへんやろうけど、それなりに楽しいことも悲しいこともあってこそ、生きているとは思うのだ。

 しばらくして、シャワーを浴びてきた浪速は、腰にバスタオルという姿で、俺の傍にべったり座り込んだ。

「おまえが、そんな物好きやとは思わへんかった。」

「うるさいで、嫁。しゃーないやろ、愛想の欠片もない壊れた生き物なんて、滅多にお目にかかれへんのや。」

「・・俺・・・おかしいねんで?・・」

「はいはい、わかってます。」

「すぐ殴るしな。」

「ああ、凶暴やんな。」

「料理あんまり上手やあらへんし。」

「俺、料理上手やからええやんか。おまえ、掃除と洗濯担当しとけ。」

「花月。」

「ん? まだ、なんかあんのか? 」

 ぐちゃぐちゃぬかしても、おまえは「俺の嫁」 に決定なんじゃっっ、と、叫ぼうとしたら、浪速は左手を重ねてきた。

「・・・なんでやろ? 俺、嬉しいみたいや・・・」

 と、はにかんだように笑って、それから、「おおきに。」 と、涙を零した。忘れていても、どっかで感じているものはあるんだろう。

「ほしたら、問題あらへん。これでええ。・・・さて、メシ食おうか。」

 なんだか、俺まで泣きそうになって、照れ隠しに立ち上がって、風呂場へ逃げた。本人が自覚してなくてもいい。ただ、その気持ちがあることがわかってくれているのなら、それでいい、と、俺は満足した。







 二月になって、大学のほうも本格的に暇になった。四月から、ふたりで生活するのに、アパートを借り直すことになって、バイトに精を出した。なんだかよくわからなかったが、俺は、花月の「嫁」に就職させられた。

・・・せやけど、嬉しいんやな? 俺は・・・・

 なぜだか、ホモになるのだということに抵抗がなかった。というか、身体のことは、あまり気にならなかった。やりたいと言うならやりましょう、と、俺は思ったので、大学のコンピューター室で、インターネットで、いろいろと調べたのも、俺のほうだ。調べた結果を報告したら、花月は、「そんなことして、身体は大丈夫なんか? 」 と、首を傾げていた。

「実際やってる人がおるんやから、できるんやろ? とりあえず、試してみぃーひんか? 」

「はあ? おまえ、何言うてんねんっっ。」

「花月のほうは、女とやる時と、さほど変わらへんからな。」

「え? いや、待て。」

「あ? 」

「・・その・・・別に嫁が女役せんなんてことはあらへんねんで? 」

「ああ、まあ、どっちもやるっていうのもあるらしいけどな。でも、おまえ、元からノーマルやろ。そしたら、それに近い形のほうがやりやすいと思うねん。」

「おまえかって、ノーマルやんけっっ。」

「うん、でも、俺は、どっちでもええから。たぶん、俺のほうが下になったほうがええと思う。・・・ということで、これ、つけて。ほんで、これ、俺に塗って。」

「待てぃぃぃぃぃぃっっ。いきなしかぁーーいっっ。」

 俺が用意したものを、目にして花月が慌てた。それはもうおかしいくらいに慌てたので、俺は腹を抱えて笑い転げた。意外にも花月は、こういうことに、ロマンチックなものが入用だったらしい。しばらく、俺が笑いの波に翻弄されている間に、花月は、「コンビニまでっっ。」 と、逃げてしまった。帰ってきて、ビールを手渡されて、俺はくいっと一本空けて、それから、花月に、濃厚なキスをかましてやったら、それなりの雰囲気にはなった。


「しかし、ある意味、柔軟体操っていうか、プロレスってちゅーか・・・おい、水都、生きてるか? 」

 お試しにやってみたら、かなり重労働だった。ついでに、うっかりと盛り上がってしまって、加減を忘れられてしまったので、とんでもなく身体がギシギシしていた。

「・・・すまん・・・起きられへん・・・」

「ごめんっっ、ほんま、すまんっっ。」

「・・いや、ええねんけどな・・・・できるもんやねんなあー・・・・」

「痛かったんちゃうか? 」

「ああ、まあ、処女やったし、俺。・・・資料によると、そのうち、慣れるらしいから、ぼちぼち慣れるやろ。」

 そして、不思議なことに、俺は、痛かったはずなのに、満足していた。今までだって、女とセックスはやっていたが、こんなに充足した気分にはならなかった。気持ちがいいというのと、溢れるような充足する気分とは違うのだと理解した。

・・・花月やからなんやろうなあ・・・・なんでやろ?・・・・

 身体中、ギシギシと油の切れた機械みたいに感じているし、あそこも痛いし、なんか泣きすぎて、目も痛いのに、それだけではない、何かがあって、俺は満足していた。

「ずっと、これでええわ。俺、こっちのほうがええみたいや。」

「そうか、気が変わったら言うてくれ。」

 誰かをこうやって、完全に受け入れたことはなかったんだろうと思う。花月だけが、そこへ侵入してしまったから、気持ちいいのではない、何かの気持ちを、俺に与えてくれた。

「・・・俺、おまえの嫁に就職してよかったような気がする・・・・」

 疲れ果てて眠りに引き摺りこまれそうになって、言いたいことだけ言った。

「当たり前じゃっっ。」

 そんな怒鳴り声みたいに声が、耳に聞こえて、俺は笑ったまま、眠った。

・・・すっごく温かいな・・・・

 名前の知らない感情が溢れていて、とても心地よかった。花月は、俺が今まで知らなかったものを、いろいろとくれたんだろう。どんなものなのか、実際には判らない。けど、いいものなんだろう。

 

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