肝試しと後悔 【月夜譚No.414】
幽霊の方がまだマシだ。青年は走りながら、友人に誘われてこんなところまで来たことを後悔した。
友人が肝試しをしようと言い出したのは、つい数時間前のことだ。隣町に使われなくなった団地があり、そこが心霊スポットとして有名なのだと学校の先輩に聞いたらしい。面白そうだからと青年は話に乗り、日が暮れてから車を走らせてここまでやってきたのだ。
外壁には蔦が覆い、所々が剥がれて落ち、玄関脇には乗り捨てられた自転車が錆びて横たわっていた。いかにも不気味な様子に、車を降りる前に帰りたくなったが、友人がいる手前そんなことはできなかった。
中を探索しようと階段を上がりかけた時、三階の一室の窓の隙間から細い明かりが見えた。他に肝試しに来ている人間がいるのではないかと言って、友人はその部屋を目指した。こっそり近づいて、驚かせてやろうということらしい。
いざその部屋に辿り着いて少しだけ開けた玄関から中を覗き、青年達は見てしまった。そこにいた数人の男達が、拳銃らしきものを幾つも手にしているのを――。
流石に不味いと引き返そうとしたが、靴の底で地面を擦って音を立ててしまい、男達に見つかった青年達は団地内を逃げ回っている最中である。
きっと、車はもう彼等に見つかって見張られている。朝まで身を隠すか、どうにかして団地から抜け出すか――青年は泣きそうになりながら、朽ちかけた自転車置き場の陰に身を隠した。友人とは、いつの間にか逸れてしまった。無事だと良いのだが。
後悔先に立たず、という言葉がこれほどまでに身に沁みたことはない。顔を上げた先には満月が浮かんでいる。夜が明けるまで、まだまだ時間がある。
青年は満月に祈り、近づいてくる足音に息を殺した。




