3. ミナトとツムギ
「あ。びっくりさせてごめんね。こんなところに人がいるの、初めてだったから」
「…君は?」
「わたし?わたしはつむぎだよ!」
気配がしなかった。
足音も。
多分、この山で生きるためにこの子どもが自然と身につけたものだろう。
「つ、つむぎさん?」
「うん!お兄さん、ここでなにしてるの?山道はあっちだよ」
ツムギはまっすぐ、先ほどミナトが歩いてきた方向を指していた。
ミナトはそれを確認してからツムギに向き直る。
「ありがとう。君はいつもそうやってるの?」
「ううん。初めて。でも、人間をみたらそうしなさい、って母様にいわれてるの」
「そうなんだね。母様はどこにすんでるの?」
「母様についてはほかの誰にも教えちゃいけないっていわれてるの」
「そうか」
改めて山全体に意識を向ける。
こんな子どもが山で過ごしているというならば納得の雰囲気だ。
目的の妖気を探ろうにも山全体が穢れた気に満ちている。
ずいぶんと、たまりきっている。
「じゃぁ、君はこの山ですんでいるのかい?」
「うん。生まれたときから山にいるよ」
「山については詳しいの?」
「よく知ってるよ」
「今、山で困っていることはない?」
「ん~」
考え込む子ども。
とてもお困り、ということではないようだが、否定もしない。
幼い顔がゆがんでいる。
多分、どこかで感じ取っているのだ。
この山のおかしなところ。
「…最近、木の実がとれないんだ」
「うん」
「動物たちも、少なくなった。子どもがあんまり生まれないんだって」
「うん」
「母様は、山道に人が増えたからじゃないかって言った。でも、母様も調子悪そうなの」
「そうか」
この子の母親が何者かはわからない。
しかし、この山に感じる悪い気と、実際に起きている異変は、ミナトの推測と合致する。
来た甲斐があったってもんだ。
「母様はいつからこの山に住んでいるんだ?」
「ずぅっとまえから。私が生まれるよりも前からすんでるって言ってた」
「私はね、ツムギさん」
ミナトはツムギの瞳に自分の瞳をあわせた。
ツムギの瞳の奥には何もなくて、純粋だった。
まだ、何も知らない瞳。
「私は調子が悪い人や動物、妖怪を見るのが得意なんだ。実は、この山の異変もそうだと思ってここにやってきた。君の力になりたい」
「わたしの…?」
「そう。私はそのために来た」
「でも、母様は…」
「にんげんじゃない」
ツムギはそういいかけて言葉を止めたが、ミナトの耳には最後までその言葉が届く。
ミナトは安心を感じられるように両肩に手を乗せた。
「私は、人間も、妖怪も、動物も、関係ない」
「……」
だめか?
ツムギの瞳は揺れているが、“母親”の言葉を裏切ることに恐怖があるのだろう。
無理なら、次の手を…。
「わたしは、母様を助けたい。あんな母様、みたくない」
「力になるよ」
ミナトの手をぎゅっとツムギが握りしめる。
冷たい手だ。それに、ずいぶんと妖気を含んでいる。
このままでは、ツムギも体が壊れて、動かなくなるだろう。




