意地悪なお姫様
周りが噂する...。
「第二皇女のリリー様は、陛下に寵愛される第一皇女のココ様に嫉妬して、毎日のように虐めているそうよ。」
彼女を知らない者達が、悪い評判を鵜呑みにする...。
「何人もの人を痛めつけて殺して来た大悪女と聞いたわ...」
「容姿が酷すぎて、部屋の外からは出たがらないみたい。見た人の話によると、傷んだ濁色の髪に霞んだ瞳、顔のパーツは歪んでいたとか...」
根も葉もない噂を鵜呑みにした国の者達は、第二皇女である彼女を一方的に蔑み、忌み嫌った。
そんな噂が渦巻く世界で、1人の少女が、ベランダの小鳥と戯れていた。
輝く銀白色の髪とガラス玉のように澄んだ空色と桜色が混じった瞳を持つ見目麗しい彼女は、悪名高き第二皇女で噂のリリー・フローリス・ルルディだ。
「今日は風が心地良いですね。」
ーチュンッチュンッ...チュン...ピッ!
彼女の話に返事をするかのように、小鳥は鳴いた。
「いつもベランダに来てもらって申し訳ないわ...もし外へ出れたら、貴方とは自然の中でお話できたのですが...」
リリーは、部屋で軟禁されている。
部屋から出ようとするも、扉は固く閉ざされていて、外へは出してもらえない。
これは、実の父親である皇帝がリリーを見ると機嫌を悪くするからだと使用人達は言っている。しかしそれは、使用人達が憂さ晴らしにリリーを虐める為の言い訳に過ぎなかった。
その為、外の風に当たれるベランダは、リリーにとって特別な場所の一つだった。
しかし、そんなベランダも、1人の使用人によって、遠い存在となってしまう。
「リリー様!」
使用人が、血相を変えてリリーの元へ駆け寄って来た。
「......どうかされましたか?」
使用人は、ベランダにいたリリーの髪を鷲掴みにすると、そのまま勢い良く部屋へ投げ入れた。
「痛いッ!」
ーピッ!
突然の事態に驚いた小鳥は、青い空へと飛び去ってしまった。
「小鳥さん...ッ!」
ベランダの方へ手を伸ばそうとした瞬間、使用人はベランダの扉に鍵を掛け、カーテンを閉め切った。
「どうして...」
「外出許可は降りていません!」
リリーは困惑した。
「しっしかし...外には出ていません...!」
「ベランダはお部屋の中だと申すのですか?」
リリーは黙り込んだ。
「陛下はよく、ココ様と庭園に赴かれます。その時に、ベランダにいる貴方の姿が目に映れば、機嫌を損ねて終われるからです。」
使用人の話に出て来た''ココ様,,と言う人物は、この国の第一皇女であり、リリーの腹違いの姉でもあるココ・クランベル・ルルディだ。
ココは、太陽のように眩しい笑顔と優しい性格を持ち前に、父親からの寵愛と周りからの信頼を一心に受けている。
「姿を隠すので、ベランダは許して下さい...!」
「はぁ...自己中心的な考えはおやめ下さい。楽しみなら、もっと他にもあるはずです。」
使用人からそう言われ、リリーは困惑した。
何故なら、リリーが監禁されている部屋には、趣味を作れる程の物がなかったのだ。
この部屋は、皇帝の正妻である皇妃が生前まで使用していた部屋で、欲がなく、物持ちの良い人物だったリリーの母親は、趣味である本と実家から持ち出して来た古いソファー以外は、何も置かなかった。
それもあり、城で3番目に広いと言われているこの部屋は、余計に広く感じられた。
「とにかく、許可が降りるまで外へは一歩も出ないで下さい。」
使用人はそう言うと、そそくさと部屋から出て行ってしまった。
1人取り残される部屋は、余計に広く感じた。唯一孤独を感じなかったベランダは、出ることを禁止され、仲良くなった小鳥とも戯れる事が出来なくなってしまった。
「お母様...」
母親のソフィア・フォリウム・ルルディは、リリーが3歳の頃にこの世を去っている。
ソフィアの優しい眼差しは、リリーに孤独を感じさせない温かさがあった。
しかし、それも昔の事。全てを包み込んでくれたあの温もりは、ソフィアの死と共に失われた。