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 愛用の黒いジャージを着、腰にネット通販で取り寄せた軍隊仕様のホルスター付き革ベルトを巻く。

 

 テレビ台に置いた刃渡り30センチの黒いサバイバルナイフをそのホルスターへ納め、ぐるりと背中側へ回した。

 

 ジャージと同じ色合いの革ジャンを上から羽織れば、外へ出ても刃物を見咎められる事は無い。

 

 なぁ、良い感じだろ。やたら物騒な世の中で、護身用の道具も持たず外へ出るなんて、あまりに不用心過ぎるって思うんだよね。

 

 反撃能力、必須っちゅうか、さ。

 

 アレっ?

 

 何だか、こんな身なりをした奴、夢の中にも出て来た気がしたけど……誰だっけ?






 カタカタ。

 

 一定のリズムを刻む風の音、目障りな光の瞬きを無視し、二階の部屋を出て階段を降りる。

 

 その気配を察したのか、玄関へ向かう俺の背後から、

 

「ねぇ、何処行くの?」


 八十才を過ぎた俺の母親が、及び腰で居間から顔を覗かせていた。声も恐る恐るという感じなんだが、顔を見せるだけ、まだマシだわな。


 八十五才の親父は、ひたすらシカト。


 多分、居間のソファにふんぞり返り、そ~っと聞き耳を立てて、廊下の様子を伺っているんだろう。


 上場企業の社員だった経歴と多目の厚生年金だけが誇りで、息子にビビりまくりの老害。死ぬまで家族の為に年金を貢ぐしか、あいつには生きる価値がない。

 

 サバイバルナイフを抜き、今すぐ居間へ雪崩れ込んでやったら、あいつ、どんな顔するかな?


 何時だったか、口喧嘩の勢いでぶん殴った時、次にやったらお前を殺して俺も死ぬ、なんて息巻いてたけどさ。

 

 できやしねぇよ、あの根性無し。

 

 俺は鼻で笑って、玄関のスニーカーをつっかけた。


 母は怯え声で外出の行先を聞いてくる。外で何かヤバい真似やらかすんじゃないか、と勘ぐっているのが見え見えだ。


「なぁ、俺が行くっていったら、コンビニに決まってんだろ? 他に何処があんだよ」


「そ、そうね……気を付けてね」


 毎度おなじみ、腫物へ触る様な母の言葉を背に、俺は玄関から外へ出た。






 家から一番近いコンビニなら三分で行けるが、俺はまず使わない。以前、気紛れでバイトの面接を受けた時、店長が顔を見るなり落としやがったから、二度と行かない決心をした。


 んで、二番目に近い所、開園して間もない幼稚園の傍にあるコンビニがお気に入りだ。

 

 歩いて家から五分足らずの道すがら、俺は、あの奇妙な悪夢のループについて考え続けた。

 

 家族を残酷な形で失うのと、親以外の身寄りに縁が無い無様な人生と、一体どっちが不幸なのか?

 

 今時、家族なんて……ましてや子供を持つなんて、勝ち組にだけ許される贅沢じゃねぇか、え?






 いつものコンビニ手前、交差点の近くまで来た時、四才位の女の子と手をつなぐ若い母親の姿が目に飛び込んできた。

 

 短髪の、中々いい女だ。何処かで聞き覚えのある童謡を歌いながら、繋いだ手を前後に振ってる。

 

 ほんの一瞬、微笑ましく思ったよ。

 

 でも後がいけない。子供とまともに目が合い、怖そうな、バッちい物を見るような顔をされてさ。

 

 そりゃもう素直にムカついたわ。

 

 んで、そっぽを向いたら、交差点の斜向かい、細い路地の反対側から俺と似た黒ジャンパー、黒ジャージの男が近づいているのに気付いた。

 

 もうね、一目で挙動不審なんだよね。

 

 何を物色しているやら、キョロキョロ視線が辺りを彷徨い、いきなり舌なめずりなんかしやがる。

 

 無視しようにもしきれない、デジャブって奴が胸をよぎり……


 交差点で青信号を待つ間、男はジャンパーの中へ片手を差し入れ、腰の後ろをまさぐった。


 ベルトの後ろに刃物のホルスターを付けていやがる。似たような仕込みをしてる俺には、動作の意味がお見通しだ。


 やるぞ、あいつ。


 あの事件通りにやる。

 

 もしかしてあの夢は、前に起きた惨劇の影響じゃなく、これから起きる事の予知夢だったのか?






 今更、言うまでも無いだろうけど、二人は夢の中の「俺の妻子」と似てた。

 

 もうそのまんまの瓜二つ。つまり俺がいつか持ちたいと憧れ、遂に手に入れられなかった家族の形。

 

 それが今にも壊されようとしている。

 

 あの少女が抱えている可愛いテディベアのバッグは、これから二人分の血に塗れた挙句、ぺしゃんこに踏み潰される。

 

 あの悪夢のループの中で……

 

 金縛りになり、成す術無く二人の死を見せつけられた「三十代の俺」、あの絶望感が蘇ってきやがる。

 

 関わるな、バカ! あれは俺の妻でも、娘でも無い。

 

 そう叫ぶ自分の声が、遠くから聞こえた。

 

 それでも俺は黒いジャンパーの内側へ手を突っ込み、腰の後ろに差したサバイバルナイフの柄を掴まずにいられない。


 夢の中では止められなかった。でも、今なら、きっと。


読んで頂き、ありがとうございます。

物語も後半に差し掛かりました。読んで頂ける皆さんのおかげで、何とか今回も最期まで書けそうです。

ヘンなお話なのに……もう感謝しかありません!

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― 新着の感想 ―
これもループ?? 恐ろしいです(゜Д゜;)
ここからまだどうなるか分からないので、まだ安易に考察的なことは書けないですが、一言だけ。 続きが気になる!
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