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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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7/11

7 旨い話には裏がある

「えっと?」

今日、ゲートを通ってやってきたプレーヤー、つまり、旅人は、この世界とは別の世界の住人だ。その彼らの頭上に見える小さな赤い炎、それが視えたのがクレハが狙われた理由だと、バトラーは言う。

「でも。」

クレハはそこで口ごもった。


クレハは改めて、アンとバトラーの頭上を見る。そこには何も視えない。毎日、鏡で見る自分の頭の上にも、当然何も視えない。

あれは、ライフゲージか何かで、アンたちはNPCだから、視えないのだろう。プレーヤーとNPCの区別がつかないように、マーカーは付けないと聞いていたが、予定を変えたのかと、最初は単純にそう思った。


けれど、クレハはそっと、アンの手元、いつでも追加でお茶を淹れられるように、整えられたポットを見る。

魔石を燃料に湯を沸かす魔道具のポット。それに目を凝らすと、魔石をセットする箇所がほんのり赤く色づいているのがわかる。クレハはずっとそれが魔力の色だと思っていた。

旅人たちの頭上に灯る赤い炎と同じ、魔力。

そして、この世界で魔力を持つものは・・・魔物のみ。


「襲撃者たちから得た情報は多くはありません。ですが、ご主人様が ”旅人に視たもの” それが理由らしいとはわかりました。”赤い炎”が、何なのかはまだ不明ですが、ご主人様の安全の為にも暫くは私もここに詰めさせて頂いてよろしいでしょうか?」

バトラーのその言葉に、クレハはコクリと頷いた。


そうなのだ。この世界は魔神王が倒されても魔物が全滅した訳では無い。魔物は何時でもどこでもこの世界に湧いてくる。そして、その中で力のあるモノが魔神となり、魔神王となる。その周期はほぼ200年。前回の魔神王が倒されてまだ、30年ほどの今、世界にはまだ魔人すら生まれていない筈だ。けれど、魔物と同じ色を持つ旅人たちが大量にこの世界に現れた。それは何を意味するのだろう。彼らの中から魔神が生まれ、やがて200年の周期より早く、魔神王が誕生する、のだろうか?


「私を狙ったのは、旅人受け入れ賛成派の人たちって言ってたよね。」

「はい。」

「それって、王家って事?」

「領主邸で襲ってきた者達は王家の影と呼ばれる者達です。彼らは王命でしか動きません。」

「でも、気が付いてから、襲ってくるまでめっちゃ早かったよ。まるで、見張っていたみたい。」

「まるで、ではなく、実際、見張られていたのでしょう。」

バトラーのセリフにぎょっとなる。


「私、何か王家に不安を抱かせるようなことしたっけ?」

アレクの前足の付け根を持ってぶらーんと抱き上げる。猫は液体。信じられないほど、びのーんとその胴体が伸びる。エメラルドグリーンの瞳をじっと見つめて、クレハは尋ねた。

「みゃ?」

そっと視線がそらされた。

その態度からこれが最初から計画されていた事と想像がつく。


思いつくのは、AI搭載型NPCがプレーヤーに不安を抱えている、安易な接触は不幸な事件を起こすのではないか、と報告した件だ。

対立を防げれば、と思って報告し、後日、運営から、感謝とゲート解放当日の領主邸で開かれるパーティへの招待状が送られて来たから、ちゃんと仕事が評価されたと喜んでいたのに。


確かに、仕事は評価されたのだ。そして、クレハが望むのとは全くの反対方向に、運営は舵を切った。


楽しみにしていたゲームにログインしてみれば、いきなり、旅人の受け入れに反対するNPCの帰れコールを浴びるとか。

「折れる。」

クレハは、ゆらゆらと抱き上げた子猫を左右に揺らす。

『運営は、やる気あるのかな?チュートリアルで嫌になってゲームをやめる人も出るんじゃないの?』

『むしろ、それが狙いなんですよ。』

ガイド猫の言葉に、えっとクレハが固まる。

『ちょっと、お話ししましょうか。』

そう言うとアレクは体を捻って、クレハの手を逃れると、しゅたったっと部屋の外へ出て行ってしまった。


少し一人になりたい、と伝えると、アンは夕食は早めに用意すると心配そうに言い、バトラーには、助けてくれた感謝と共にゆっくり休むように命じた。


アレクは図書室の前で待っていた。

「早い話、最初の予想より、人が集まり過ぎたんです。」

中に入ると、身も蓋もない事を言われた。

「サーバーを用意するのも、サポートの人数を出すのも、限界なんですよ。それでも、何徹もして頑張ってたんです。でもね、クレハ様のレポートで、皆、気が付いたんです。」

「何に?」

恐る恐るクレハは尋ねた。


「いきなり、大量の見ず知らずの人間が街に湧いて出て、喜んで受け入れるなんて出来ないって、当たり前のことに、です。

現実にだって、外国人労働者問題とか、違法移民とか、あるでしょ。

元々のコミュニティを破壊しかねない異物を、もろ手を挙げて歓迎って、頭に花でも咲いてるのか、って話です。」

アレクがぶちぎれた。

「だったら、旅人受け入れ反対派の行動も、理解できますよね。だから、この流れは実に自然な事、なんです。それでも、あの世界に来たい、っていうプレーヤーだけが、来てくれたら、それでいいかなって。それに、王命だから、多くの国民は、仕方なくとも受け入れてますよ。」

ふーふーとガイド猫が全身で息をつく。


「それとは別に、クレハ様が狙われた理由は、これです。」

アレクの可愛い前足がたしたし、とテーブルを叩くと、そこに一冊の本が現れた。


『魔神王の発生と二元論』 著者クレハ・デ・ノースヴィラ


二元論とは、世界や事物の根本的な原理として、それらは背反する二つの原理や基本的要素から構成される、または二つからなる区分に分けられるとする概念のこと。 例えば、光と闇、善と悪、精神と物体。そして、表と裏。


「あー。」

EECシリーズのゲーム外イベントの一つ。エターナル・エデン・クロニクルの世界に関する考察論文投稿で、クレハこと猫アレクが投稿した論文だ。


このEECの世界とプレーヤーのいる現実世界は表と裏の関係で、現実世界の澱みが裏の世界のエターナル・エデンに染み出て魔素となり、魔神が産まれる。だから、プレーヤーが操る勇者は魔素に対して耐性があり、魔神を倒す頃が出来る、と言う、いい年をして中二病満載のノリで書いた文章だ。


「やだ。まさか、これ。」

「この世界の真理です。」

どどーん、と自ら効果音付きで、ガイド猫が立ち上がる。

「エターナル・エデンの人間が使えるのは星の力、星力です。それは、この星、この世界を構成するあらゆる存在が、この星で生まれる故に持つ力。

では、魔力、とは?魔力を持つ魔物、魔神、魔神王とは?

クレハ様の考察によると、この世界エターナル・エデンと裏表の関係にあるのが、プレーヤーの住む世界。そちらの世界の負の感情が、こちらの世界に滲み出て、魔力となり、魔物を産む。

それ故、向こう側の世界の存在、つまり、勇者(プレーヤー)は、魔力に対する耐性があり、魔物を倒す事でその魔力を己の中に取り込み(経験値を得)、強くなる。レベルが上がる、とは、魔物の魔力を奪い取った結果。でしたか?」


「素晴らしい!まさにその考察を今回採用させて頂きました。なので、プレーヤーは魔力持ちです。視る人が視れば、魔物と同じです。クレハ様が視た旅人の頭の上の赤い炎は旅人の魂です。そして、クレハ様、いえ、猫アレク様に、ご用意させて頂いたEEC16の現地人の戸籍は、この考察に対する褒賞なのです!」


納得した。


どうして、別にトップクラスの攻略者でもない62歳のいい歳した、おばあちゃんに、あんな案内が来たのか。

「この事は?」

「勿論、トップシークレットです。」「ですよねー。」

「でも、旅人の魂が視える能力なんて、普通のエターナル・エデン人には無いですよ。これは、クレハ様への特別サービスです。」

「そんなサービス要らないっ!・・・。ねぇ、アレク。私が旅人受け入れ賛成派に狙われたのは、魂の秘密に気づいたから?」

「ゲームが始まった以上、これから起こる事は全てがシナリオのない()()です。けれど、その可能性は高いですねー。」

「いや、それしか、理由ないでしょ!」


クレハは盛大に溜息をついた。どう考えても、旅人受け入れを決めた各国首脳陣にとって、自分は危険人物だ。更に、旅人に対する不安を感じているAI搭載型NPCの存在が、その()()()から報告された。旅人の本質が魔物と同じ、等と広まれば、折角受け入れた旅人との間に軋轢が生じる。


のんびり第二の人生をゲームの中でスローライフと目論んでいた筈なのに、これではスローライフどころではない。


「これのどこが褒賞なのよ。」

「まあまあ、そう落ち込まないで。大体、その”クレハ”と言うキャラ自体、褒賞なんですよ。」

ぱちくりとクレハは目を丸くする。


「いいですか?今回、クレハのキャラクリで、制限なんてかかってないでしょ。普通は、そうはいきませんよ。全て、猫アレクさんのご希望通りです。ハーフエルフ、なんて種族、クレハ様以外いませんし、ましてや父親が、ハイエルフの王族とか。」

「え?そうなの?って言うか、そんなの私知らないよ。」

「そうなんです!こっちもついノリで色々盛っちゃたらしくて。って、それは置いといて、クレハ様の安全の為に、ちゃんと護衛も付けてますよ。アンもバトラーもNPCとしては最高戦力です。それに、この家にも認識阻害がかかってるって最初に教えたじゃないですか。」


だから、さっき、帰還陣を使って、帰宅した時に、一緒についてきた槍を、直ぐにデリートしたんです、とガイド猫は、続けた。


「なんか、波乱万丈なゲームライフになりそう。」


やはり、上手い話には裏があった、と言う事か。

妙に納得してしまった。




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