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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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6/11

6 クエスト?

ブレーメンのマルクト広場の市庁舎をモデルにしたヴァルゴの領主邸。その一角に用意された部屋で、クレハはバトラーが屋台で購入してきた串焼きや魔物肉とゴロゴロとざく切り野菜の入ったシチュー、鳥皮をパリパリに焼いたスナック、果物のコンポートをテーブルに並べ、出窓からゲートを通って現れる旅人たちを眺めていた。ワインや何種類ものチーズ、生ハムなどの軽食も領主から提供されてはいたが、祭りならではの食べ物は心が騒ぐ。


ゲートとは言うものの、実際に旅人たちが現れるのは、噴水広場の地面にモザイクで描かれた魔法陣からだ。魔法陣が淡く輝くと、そこに何十人と旅人たちが現れる。人種、性別、年齢、体格、職業。それぞれ、千差万別な旅人たちだったが、共通するのはその頭上に、赤い火の玉のような物が見える事だ。

「え?あれ?」

慌てて、隣のアンの頭の上を見る。

何も見えなかった。

「あれ?旅人にだけついてる?」

「ご主人様、どうされましたか?」

何やら様子のおかしいクレハにアンが身構える。


「アンちゃん、旅人の頭の上に何か見えない?」

出窓から身を乗り出して、アンが次々とゲートから現れる旅人たちを目を細めて見つめる。

暫く、真剣にそうして観察していたが、やがて、アンは残念そうに小さく首を振った。

「申し訳ありません、私には見えないようです。」

「見えない・・・。そう、見えないのね。バトラーは見える?」

「いえ、私にも何も見えません。」


ガイドキャラのアレク猫は今日は自宅でお留守番だ。クレハに見えている”あれ”はどう考えても、プレーヤーマーカーだ。

『EEC16はプレーヤーとNPCの区別がつかないように、そう言うの(マーカーとかHPバーとか)付けないんじゃ無かったっけ?』

ここしばらく、この世界の現地人をする為に、ガイド役であるアレク猫から色々教わってはいたが、プレーヤーとNPCは見分けがつかないように作り込んだ、筈だった。

『と言うか、あれ、ま』


「失礼いたします、ノースヴィラ女男爵。」

クレハに見えている旅人たちの頭上の赤いマーカーに似た物がある事を思い出した所で、廊下に通ずる扉がノックされた。

「領主さまがご挨拶を、と。」

その言葉に、扉脇に立っていたバトラーが、しゅるりとアスコットタイをほどくと、ドアノブに巻き付けた。

「バトラー?」

「アン、ご主人様を頼みます。」

「バロネス?いらっしゃいますか?」

ノックの音が大きくなり、ドアの向こうの誰何の声が微かな苛立ちを帯びた。


「ご主人様、こちらへ。」

そう言って、クレハの手を握りしめ、アンは、広場に面した窓に向かった。片側のカーテンを引きちぎり、もう一方にぎゅっぎゅっと結んだ。その後、呆然とするクレハをテーブルクロスでぐるりと包み、その端を自分の服のベルトに挟み込んだ。髪に刺したピンを抜いてザクザクと荒く縫い留める。

バキバキと扉が割れる音がした。アンは振り返ることなく、右腕にクレハを抱え、左手におしぼりを広げそのままカーテンを掴んで窓枠を飛び越えた。


「○▽◇※☆ー!」

クレハの喉から、声にならない悲鳴が上がるが、広場の喧騒に紛れ、誰も気が付かない。

クレハがいたのは領主邸の5階部分だ。そのまま落ちれば、ゲームの中と言えど、墜落死判定間違いなしだ。ゲームの中とは言え、落下の恐怖に震える。しかも、アンは真下では無く、斜めに助走をつけて飛び越えた為、カーテンで作った簡易ロープは前後左右に大きく揺れた。その中を二人分の体重で滑り落ちているのだ。支えているアンの左手はおしぼりでガードしていても、摩擦を受け、チリチリと痛みを訴えている筈だ。

咄嗟に切り取って作ったカーテンのロープは当然、地面に届く長さは無い。

アンは振り子のようにカーテンロープを揺らして、階下のバルコニーに着地した。この階には貴族階級以外の招待客が割り振られている筈だが、助けを求めて覗き込んだ目に室内の惨状が映る。幸い、彼女の大切なご主人様は、半分腰が抜けていて、状況に気が付いていない。出来れば武器が欲しかったが、彼女と体を結び付けてしまったため、武器を物色するなら、あの血の海の中にご主人様も連れ出さなければならない。


左手をぐっぱっと握って閉じて、感覚を確認する。

ワインで濡らしたおしぼりは十分に役割を果たし、手の皮は剥けることは無かった。足を絡ませて降りた事もあり、左肩も痛めてはいない。

『大丈夫、いける。』

アンは伝って来たカーテンをチーズナイフで引き裂くとそのままナイフの柄に結び、左手首にクルクルと2回巻き付けた。今ある唯一の武器だ。無くすわけにはいかない。クレハを縦抱きに抱えると再び、バルコニーを端を目指して駆ける。領主邸の中から飛び出してきた追手の喉めがけ、チーズナイフを投げる。手首を引いた事で、的確に敵の喉を貫いたナイフが結ばれたカーテンに引かれて、又、すっとその手の中に戻って来た。おびただしい血を流して、どさりと倒れる音がする。


「ご主人様、帰還陣を」

アンに促されるまま、クレハは愛猫の待つ家への帰還陣を展開した。バルコニーを蹴り、アンとクレハがその中に飛び込む。彼女たちを追って槍が吸い込まれていった。


ゴロンと転がり落ちたのは、土蔵のある中庭。

訳が分からぬまま、クレハが呆然とする横で、アンがガクリ、と膝をついた。その横にザスリと突き立つ槍。

「アンちゃん!」

クレハの叫びに縁側からアレクが飛び出してきた。抱き合って倒れているクレハとアンの横に突き立っている槍を認識すると、いきなり、その槍に猫パンチを食らわせた。槍は一瞬でキラキラした破片となって降り注いだ。

「追跡用のタグが付いていたけど、大丈夫。この場所はバレていないよ。」

ガイド猫は普通の子猫の様に、クレハにその小さな頭を擦り付けて囁いた。


「何なの、これ、イベント?」

まだ、心臓がバクバク言う。それでも、右わき腹から、血を流すメイドを放っておく訳にはいかない。

「アンちゃん、大丈夫?とにかく手当しよう。中に入って。」

「問題ありません、ご主人様。これぐらい、自分で手当て出来ます。」

気丈に立ち上がったアンに、うろうろと差し出した手をどうしたものかと彷徨わせ、「なら、お茶。そうだ、お茶を淹れよう。私、喉が渇いたなぁ。」とクレハは家の中に駆け込んだ。


「ねぇ、アレク。なんか最初の話と随分違うくない?」

まだ、日は高い。外は、建国祭とゲートの解放で随分とにぎやかだと言うのに、この家の中は、不穏な雰囲気が漂っている。

気分を上げようと、香りのよい茶葉を選んではみたものの、領主邸に残してきたバトラーの安否も気にかかる。

「なんか、のんびりスローライフ。趣味全開。って言うのを想像していたんだけど。」

「流石に、都合よくそんな事にはならないんじゃないですかねぇ。」

「アレキュが冷たい。」

「いやー、一応、こちらも慈善事業じゃないんですから。やる事はやってもらわないと。」

「うえー。まあ、そうだよねぇ。で、何をすれば良いの?」

「僕が決める事じゃないでしょ。ゲート解放と同時に命を狙われたクレハ様が、自分でどうするのか決めて下さい。この世界はシナリオがある訳じゃ無いんですから。死にたくなければ、どうするのか。死んでも良ければどうするのか。」


そんな会話をキッチンでしていると、メイド服に着替えたアンが戸口に現れた。

「失礼いたしました。ご主人様にこのような仕事をさせてしまい、申し訳ございません。」

「アンちゃん!ごめんね、大丈夫?助けてくれて、ありがとう。私も、状況が良く分からないんだけど、ちょっと、座って話をしない?」

お茶を淹れる、と言いながら、何の準備も出来ていない事実に、主婦歴35年が突き刺さる。

はい、と頭を下げながら、テキパキと整えるアンに流石だなあ、と思いながら、クレハはアレクを抱っこしてただ隣に立っていた。


中庭に面したお気に入りの和室にアールグレイの香りが漂う。昼食代わりの屋台飯を食べ損ねているので、ハチミツたっぷりのカステラが添えられている。

流石に楽な服装に着替えて、軽く汗と汚れを除き、クレハはほぅっと深い息をついて、座椅子に背を預けた。膝の上には当然、アレク。その背を無意識で撫でながら、脇に控えるアンにもお茶を勧める。

遠慮するアンにゆっくり話をしたい、と言えば、渋々と頷かれた。


「さっきも聞いたけど、怪我は大丈夫?」

「はい、かすり傷です。」

「なら、良かった。でも、無理はしないでね。絶対だよ。」

そして、思い出す。

「本当にありがとう。アンとバトラーがいなかったら、私、どうなってたんだろう。」

ゲームと言えど、流石に高性能のVRMMO。思い出しただけで、心臓がバクバク言い、アレクを撫でる手にじんわりと汗をかく。


「何が起こったのかなぁ。」

ポツリと呟いた声に、反応したのは中庭からの声。

「ご報告致します。」

「バトラー!?」

すっと縁側前に控えるバトラーは、領主邸で別れた時と、あまり変わっていないように見えた。ずりずりと縁側まで這って行って、まじまじと観察する。

アスコットタイと手袋は無かったが、見た目、大きな怪我をしている様子は無い。

「良かった。怪我はない?」

「申し訳ございません、ご心配をおかけしました。ですが、あれしき、問題はございません。」

顔を上げてにっこりと微笑むイケおじ。ちょっと銀色の尻尾が揺れている。

何故か、背後でチッと舌打ちする音が聞こえる。アンちゃん?何故そこで舌打ち?


「それで?報告って?」


「はい、領主邸襲撃の主犯はゲート解放反対派の仕業と判明いたしました。ですが、ご主人様を狙ったのは賛成派。理由は、ご主人様が視た旅人たちの頭上の炎にあるようです。」







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