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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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5/11

5 配信開始

いよいよ、今日、12月24日0時にエターナル・エデン・クロニクル16が配信された。日付が変わって直ぐなので、未成年者からは苦情が来た、と言う。ただ、全世界同時配信の為、開始時刻には如何なる苦情も受け付けない、と運営は突っぱねた。

事前予約だけで、300万件を超えるプレーヤーが一度にログインすれば、サーバーはパンクする。真夜中の配信開始は、ある程度分散させるのに、有効だろう。更に、EEC16にはサーバーは7つ用意されており、クレハが住んでいるのは、藍色のサーバーだ。他に赤・橙・黄・緑・青・紫の虹の7色に由来したサーバーがある。


それでも、単純計算で30万人以上が一度にアクセスすると、パンクしてしまうのではないかと思うのだが、その為、3日間のチュートリアル期間が設けられている。その間はログインしたゲートのある街でこの世界のありようを学ぶ、と言う名目で、街の外へは移動できないようになっている。

ゲーム内時間で3日間、現実では18時間、つまり、日本時間の12月25日12時にならないと、街から出られない。勿論、配信と同時にログインして、始まりの街を堪能する事も可能だ。少しでも、人が集中する時間帯を少なくする、その為の方便だが、クレハには関係ないのでふーん、と聞き流した。

文句も出そうな処置だが、その3日間は、キャラメイクは修正し放題の特典が付く。

良いと思って身長を高くしてみたものの、実際は動きにくい、とか、職業を剣士にしてみたものの、魔法使いの方が楽しそうだ、とか。最終的に、納得のいく自分になるまで、色々試せるのが、この期間だ。


建国祭の初日、クレハの住むシデリアンでは、国王が演説後、各地のゲートを解放する。

プレーヤーはその後、ゲートを通って、こちらの世界に現れる。

「ゲートをくぐって初めて見る世界が、建国祭のお祭り、って楽しそう。」

現地人であるクレハはこの日、朝9時からログインしている。普通に仕事をしている時と同じ勤務時間だ。この役割は遊びであり、仕事だ。そう考えて、溺れ過ぎないように自分を律している。

ゲーム配信前に、この世界に深くかかわった。

これから、プレーヤーが大挙して押し寄せることで、この世界は明らかに変わる。それが、この世界にどんな影響を与えるのか、答えられないNPCに対して、現地人として生活するクレハはそれを運営に伝える事が出来る。それを参考に今後の運営方法を検討すると聞いている。


アンに、ゲートから旅人を受け入れる事をどう思うのか、と聞いた事を自分自身にも問いかけてみる。

今のこの現地人生活は、とても心地よい。報酬の先貰いだと思うが、この生活を乱されたくはない、と思ってしまっている。

自分の選んだ仕事、考古学者で歴史学者は、あまり人と関わらない、引きこもってても許されると思うが、折角なので、現地調査にも行きたい。その時の護衛依頼を冒険者ギルドに出す事もあるだろう。そうやって、プレーヤー=旅人と絡んで、この世界に馴染んでもらうのも良い。


「アンちゃんはこの後、建国祭のお祭りにはいかないの?」

今日は午後から、アンにはお休みをだしている。本当は丸一日、休んで良い、と言ったのだが、きっぱり断られた。領主邸に招かれているクレハの支度は外せない、と言われてしまった。

「パーティは昼過ぎだけど、ゲート解放の様子も見たいから、私は、午前中から領主邸に入ろうと思うし。時間はゆっくり取れるよ。」

そう言うクレハに、少し悩んだアンだったが、「ご一緒してもよろしいですか?」と同行を申し出た。


旅人が大量に押し寄せる噴水広場に行く、と言うのは、例え領主邸内で過ごす予定であっても、アンの不安を掻き立てたらしい。

運営の招待状に加え、一応、貴族の身分があるので、領主邸の一室を借り受けてはいる。そこから、建国祭を楽しむつもりだった。

「構わないけど、それじゃあ、休みにはならないよ。」

「ご主人様をお一人で人混みに行かせると考えただけで、気が休まりません。」

と、眉間に皺を寄せて言われる。


ここ数か月、この世界に暮らして、顔見知りも出来たし、街と自宅の間位なら迷子にもならない自信はついた。

首を傾げると、アンはクレハの美貌を心配している、と言う。

『これから、やって来る旅人たちは、きっともっと美形度が高いだろうから心配はいらないと思うけど。』

実際に、ゲートが解放されたら、アンの不安も消えるだろう、とクレハはのんびりと考えて、仕方が無いなあ、と、二人で一緒に建国祭を楽しむ事にしたのだった。


建国祭は秋の豊穣の祀りも兼ねて極陽きょくよう月、10月末に3日間かけて執り行われる。神事も兼ねているが、最終日はその年に取れた収穫物を神々に捧げる、と言う名目で、飲めや歌えのお祭りになる。

王都や領都で為政者主催で行われる建国祭とは別に、各地の農村や漁村で収穫祭の方が、祝い事として、一年の行事の中でも特別な位置づけになる。

但し、今年は、建国祭に合わせて、ゲートを解放し、旅行者を受け入れる、と言うので、田舎からわざわざ足を延ばして領都の祭り見学に来る者も多かった。

そんな人々で、街に向かう乗合馬車はぎゅうぎゅう詰めの満員で、農耕用の牛や馬も借り出されて、荷馬車に人を乗せて運ぶ臨時の馬車で小遣い稼ぎをする者もいた。


クレハは、のんびり歩いて行っても良かったのだが、流石に領主邸でのパーティにも参加するとあって、きちんとした正装で一時間ちょっとを歩くのは遠慮したかった。

ので、領地からバトラーに来てもらっている。

バトラーは銀狐族の獣人である。獣人は、この世界におけるどの種族より身体能力が高い。クレハとアンを前後に張り付けて駆けても、息一つ乱さず、余裕で領都ヴァルゴの東門にたどり着いた。

クレハは、バトラーに運んでもらう事で、徒歩一時間の距離を馬車で押し合いへし合いすることなく、ものの十分ほどで、領都に着く事が出来た。因みにクレハはお姫様抱っこ、アンは背中におんぶで、街道脇の森の中を運ばれた。ヴァルゴの手前で降ろしてもらい、体裁を整えてから門をくぐったので、誰も、そんな三人の移動方法に気が付いた者はいない。


「帰りは帰還陣を使いましょうね。」

ぐったりとクレハが言う。

銀狐族のイケおじは、耳と尾を楽し気に動かして、帰りもお運びしますよ、等と言うが、クレハの心臓がもちそうにない。

遊園地の絶叫マシーンは絶対に乗らなかったのに、バトラーに運ばれての移動は、きっとそれ以上の迫力だ。何せ、時間がアトラクションより断然、長い。後半は半分、気を失っていたと思う。


EECシリーズでは主人公は魔法を使えるが、NPCはネームドであっても魔法を使えない。この世界で魔法に代わるものが星の力、星力と呼ばれるもので、クレハの種族、エルフ(ハーフエルフ含む)は、星力を生まれながらにして使うことができる。一方、他種族では後天的に獲得できる者もいるが少数だ。星力は、プレーヤーの持つ四大元素魔法に比べると、威力は低いものの、自然にある事物に対し、干渉することができる力だ。

例えるなら、ちょっと風を強く吹かせて洗濯物の乾燥を助ける、とか、水やりの為に小さな雨雲を呼んでくる、とか、今、燃えてる炎の火力調整が出来る、と言った類の補助系が多い。


只人族で星力を使えるのはまれで、生活全般に応用できるアンは、実は非常に貴重だ。

その代わりと言う訳では無いのだろうが、この世界には魔法陣がある。

その中で、クレハが一番有益だと思っているのが、この帰還陣、だ。

仕事(発掘)も遊びも、行く時が一番、ワクワクして楽しみだ。だから、クレハは行きはどんなに馬車がゆっくりでも苦にならない。けれど、帰りは駄目だ。さっさと帰って、資料をまとめたり、疲れを癒したりしたい。ので、帰ると決めたら、帰還陣一択だ。帰還先は自宅しかないので、例えどこに出かけてもこの帰還陣が一枚あれば、いつでもどこでも家に帰れる、と言う訳だ。

難点は、基本、一人の帰還には一枚が必要な点で、実は重量制限があったりする。


そんな帰還陣をクレハは自分の星力で拡張し、重量制限を大幅に緩和したものを個人では使っている。

今日も、ゲート解放を確認したら、それを使ってアンと帰宅する予定でいた。

「バトラーはどうするの?」

「私の事はお気になさらず。」

とにっこり微笑むので、また、あの調子で森の中を疾走するのだろう。

「旅人たちに遭遇するかもしれないから、気をつけてね。」


実際のプレーヤーがどう動くのか?

これは、始まってみないとわからないことだ。

配信と同時にログインしてくるような熱心なプレーヤー、所謂”攻略ガチ勢”と呼ばれるヘビープレーヤーは、誰よりも早くゲームクリアを目指している、とクレハは思っている。ならば、始まりの街・ヴァルゴでは、所属ギルドを決めて、手持ちのパスポートにギルドの登録が終われば用済み、と思っているのだろう。

所詮、この辺りで出没する魔物はレベルも低く、狩った所で、経験値も少ない。武器や防具もしょぼいモノばかり、と来ては、ガチ勢は、さっさと次の狩場に移動するだろう。VRMMOにおけるレベルアップで、一番手ごろなのが、魔物狩りなのだ。

クレハの自宅は、次の都市スコルピウスとは反対方向にあるため、そんなプレーヤーが来るとは思えないが、念には念を入れろ、とはよく言われる。


特に、このEEC16では、NPC表記が開示されていない。プレーヤーと間違われる事も十分あり得るのだ。

レベル1の旅行者でも、集団になれば、NPCを倒すことは可能だろう。

フィールドへの制限がかけられているEEC16の時間で3日間に、レベルをあげたい旅人が、PKやNPC狩りをしないとは限らないのだ。予約登録時に、この世界でも現実世界同様、殺人や強盗は処罰の対象である事は、通知されている。けれど、そのタブーを侵した時にどうなるのか?それを検証する、そんな事の為に無差別な暴力が振るわれる可能性もあるのだ。


十分注意するように、バトラーに告げて、クレハとアンは領主邸に入った。


そして、事件は、起こった。




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