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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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25 受けるべきか断るべきか

「ちょっと、クレハさま?」「バロネス?」

黙り込んでしまったクレハに、ル・ルーもリ・リーも不安そうな表情だ。


非常識かと思いながらも、今日、猫のアレクをここへ連れて来たのは、根の国についての講義を受けていた時の事が軽いトラウマになったからだ。ゲームのガイドキャラである以上、猫アレクが死んでしまう事は無いのだが、それでも怖くて、離れたくなかった。今も思い出して、気分が落ち込んでしまったクレハだったが、大きく深呼吸をすると、顔を上げた。


「あのね、リ・リーちゃん、今回、根の国が旅人に迷宮探索を依頼した理由は、私達エターナル・エデンの住人は魔力耐性が低いからなの。それでも、高ランクの冒険者や傭兵、騎士は、魔力耐性を持つ装備を所持しているから、根の国でも、短時間の活動は可能よ。あなたのオネエさん、ル・ルーさまもそう。

だけど、私は違う。種族的に星力の多い私は特に魔力の影響を受けやすいから、地下での活動はほとんど不可能なの。とても、残念な事にね」


そうなのだ。これまでのエターナル・エデンシリーズでは、こんな縛りは無かったのに、いきなりEEC16

で導入されてしまったのだ。

これは、恐らく、今回のイベントが、グロテスクな表現を極力排するための設定だ。

旅人はEEC世界で死んでも、キラキラとポリゴン化するだけで、血しぶきは飛ばないから。

もし、迷宮で戦闘になっても、NPCがいなければ、スプラッターな映像にはならない。ならば、NPCは地下に行けない事にすれば良い。


「それは・・・。じゃあ、やっぱり、バロネスもル・ルー姉と同じく現地の人、なんですね」

信じたくない、とリ・リーの瞳が語る。

「でも、もし、バロネスも、その、魔力耐性のある装備を手に入れる事が出来たら。そしたら、迷宮探索に一緒に行っていただけますか?」


「どうして、私、なの?」

諦めないリ・リーに、クレハは首を傾げる。魔力耐性を付与する装備は高価だ。最もネックとなるエンチャントを凄腕エンチャンターのル・ルーが請け負うとしても、付与される装備にそれなりの性能が無いと付与は成功しない。例えるなら、木の枝にいくら硬質化をエンチャントしてもオリハルコンの剣には勝てないのと同じだ。

そうまでして、自分をパーティに誘う理由がわからない。

お宝分配の関係で、同じ旅人を誘えない、のはわかる。けれど、ル・ルーの伝手があれば、有名な冒険者や傭兵などを雇う事は出来る筈だ。NPCル・ルーの妹を名乗るぐらい、NPCに対して思い入れのあるリ・リーなら、それで何も問題ないだろう。何故、戦闘職でもない自分を?


ひゅっと、リ・リーの喉が鳴った。

「あ、あの、ご、ごめんなさいっ」

勢いよく頭を下げたリ・リーが目の前のテーブルに、頭をぶつけた。

「リ・リーちゃん?」

少し、咎める様な口調になったかもしれない。怯えさせてしまったか、と慌てて腰を浮かせるクレハにル・ルーからも声がかかった。


「気分を害したなら、アタシからも謝るわ。ごめんなさいね、クレハさま」

ル・ルーにまで謝罪されてクレハの困惑は益々深まった。

「別に、騙してどうこうしよう、とかでは無いのよ。ただ、さっき貴女も言ったでしょう、GWイベントって」

「あ⁉」

そう言えば、リ・リーが魚人族の衣装の話をした時に、そんな事を言ったかも知れない。


顔色の変わったクレハに、ル・ルーの額に青筋が立った。

「わかる、わかるわぁ。ホント、腹立つわよね。一部の旅人たちは、あの海底牢獄の暴動が、”イベント” ”お遊び”、なのよ」

こちとら命がけだって言うの、と、どすの利いた低音が、部屋の温度を下げる。

「こんどの迷宮探索も、そう言う連中にとっては”イベント”で”お遊び”なのよね、きっと。だけどね、リ・リーちゃんは、そんな連中とは違うの。それは、アタシが保障するわ。でも、クレハさまには、不快だったわよね。ホント、ごめんなさい。」


クレハの背筋が冷たくなる。ポスン、と再びソファに座り込み、ぎゅっとアレクを抱き締めた。


そう、確かに迷宮探索を”イベント”と、”お遊び”と、思っている。

だってここはゲーム、VRMMOの世界だ。

でも、それは、現実の、紅葉、にとって、であって。

今、ここにいるEEC16の住人クレハ、にとって、では無い。

EEC16の住人のクレハなら、海底牢獄の反乱を ”GWイベント”、などと軽く扱って良い筈が無いのだ。


それをあえて口にし、リ・リーの反応見た。楽しそうに話すリ・リーをクレハはどう思ったのか。その後に続いた沈黙から、二人はクレハが怒っている、と解釈したのだろう。

実際は、全く、何も考えずに、口から出た単語だったのだが。


『拙ったぁ。どうしよう。凄い解釈違いだけど、なんか深刻な状況』


なんて言い訳しよう。どう説明したら良い?頭の中で色々な考えがぐるぐると回っている。

これは、不味い状況だ。

焦れば焦る程、ドツボに嵌る。

それは、わかってる。伊達に、62年の人生で黒歴史を積み重ねてきたわけでは無い。

だけど、


『クレハさま、クレハさま』

胸元から小さく猫の鳴き声がする。

『落ち着いてくださいよ。心臓バクバクしてますよ。ほら、猫吸って~、吐いて~』

『それは、息』

思わず、ツッコミをいれつつ、アレクの首元に顔を埋め、猫を吸った。


「はあ」

クレハの溜息に、目の前の二人だけでなく、息を殺して様子を窺っていた商人ギルド長のリコもびくり、と震える。

「私こそ、ごめんなさい。GWイベントって、深い意味で言った訳では無いのよ。旅人たちが、あれをそう呼んでいるのは知っているし。今回の迷宮探索も、そう言う、旅人の特性を生かしての依頼、イベント扱い、なのだと理解しているわ。リ・リーちゃんが、悪意をもって私を誘ったとも思ってない。

だから、単純にどうしてなのかな、って聞いてみただけなの」

ね、と笑って、リ・リーに微笑みかければ、彼女は強張りながらも、つられたように笑った。


「えっと、バロネスなら、迷宮攻略も簡単かなぁ、って。だって、今回は、あまり戦闘は無いらしいんです。それよりも、トラップ回避とか謎解き能力が求められると思うんです。僕たちそっちの方はからっきしで。ル・ルー姉の知り合いも、どちらかと言うと脳筋ばかり。それに、バロネスは、エターナル・エデンの遺跡とか専門ですよね。根の国の迷宮についてもそうかな、って」


うん、実に実利的な考えからのご指名だったようだ。


「うーん、と。遺跡と迷宮は別物だと思うけどなあ。それに、私、かなり方向音痴だから、あんまり役に立つとは思えないけど・・・」


「バロネスの安全は、保障します。ル・ルー姉のエンチャントは凄いんです。この帯留や半襟なんかも、みんな、バロネスの安全を守るために、ル・ルー姉が、魔力耐性を付与してくれたアイテムなんです。これがあれば、バロネスも僕たちと同じ時間、地下で活動できます。

それでも。ダメ、ですか?」

テーブルの上に並べられた和装小物の数々が、ル・ルー曰く "とっておき" らしい。


「まあ、今日の所はリ・リーさんの気持ちと言うか、覚悟を聞かせてもらった、と言う事で。その上で、後日、ノースヴィラ女男爵様からのお返事を待つのはいかがでしょうか」

時間です、と商人ギルド長のリコが間に入ってくれて、取り敢えず、この場は解散となった。


「ごめんなさいね、クレハさま。あの子、旅人だから、星力と魔力の関係をちゃんと理解できないみたいなの。アタシたちエターナル・エデンの人間に魔力がどれほど危険か、本当の所、わかってないのよ。断っていいからね。このアイテムは、話を聞いてくれたお礼。受け取ったからって、迷宮探索に同行しろ、なんて言わないから。安心して受け取って頂戴。むしろ、迷惑料と思ってくれた方が、すっきりするわ」

ル・ルーは、自信作、と胸を張った帯留等、持ち込んだアイテムをクレハに押し付けた。

これらと同じデザインの廉価版の販売について、この後、リコと相談する予定だと言う。

一つの行動に二つも三つも意味を持たせるのは、流石、仕事のできるオネエさまである。


自宅に戻り、猫を膝に、縁側で一服。竹筒に入った水羊羹を、時期的にこれが最後かな、と思いながら味わう。至福の時間だ。

「あー、油断してた。と言うか、全く、意識してなかったよ」

つい、ポロっとこぼした言葉。”イベント”

こんな大事になるとは、思わなかった。


「アレクはどう思う?私の正体がプレーヤーって、バレたかなあ」

『大丈夫だと思いますよ。リ・リーさんは、まだ転生者説を疑ってますし』

「はぇ?まだ?」

『だから、一緒に行動して、探ろうとしてるじゃ無いんですかね。まあ、もし、クレハさまがプレーヤーってバレそうな時には、ちゃんとサポートしますよ』

「うん、ありがと。今日も、助かった」


「うなぁ」

と眠そうな鳴き声が返って来た。

ゆったりと暖かな猫の背を撫でる。背骨のごつごつした感じ、お腹のぷよぷよした感じ。全てが愛おしい。生きている、と感じてしまう程、このEEC16世界はリアルだ。


根の国。

その名から予想するなら、そこは死者の国。その響きだけで、安全とは言い難い。

更に、世界中の神話で死者蘇生は、ことごとく失敗して終わる。そんな場所だ。

根の国で死ねば、旅人ですら復活は不可能?

そんな予感が頭をかすめる。


今回のイベントは危険性の低さが売りだが、全くペナルティが無いとは言い切れない。それをリ・リーは理解しているのだろうか?ル・ルーのエンチャント装備だけで万全、とはいかないのだ。

クレハは小さく首を振った。

クレハだけなら、何かあれば、直ぐに帰還陣で帰る事が出来る。けれど、リ・リーを含む子供達三人+アンとバトラー(クレハが行くのにこの二人の護衛が外れる選択肢はありえないので)は移動可能人数を大幅に越えてしまう。

はっきり言って、安全に連れ帰る自信が無い。


クレハは、暮れゆく初秋の空を見上げた。

引きこもりほのぼの異世界生活を楽しむには、多くの人と関わり過ぎたなあ、としみじみ思った。




予約投稿を中止して書き直ししていたら、そのまま、投稿されてしまいました。

先程、気が付いて、あうあう。

誤字、脱字ありましたら、すみません。

因みに、次話も・・・。

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― 新着の感想 ―
現地の人はイベントについて全く認識していないものと思っておりましたが、きちんと『イベント』として認識していたのですね。 イベントの単語からそこにつながるとは思っておりませんでした。 ダンジョン探索を…
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