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VRMMOで現地の人やってます  作者: ゆうき けい


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24 根の国

「それで、根の国の迷宮探索なんですけど」


すっと、姿勢を正して、リ・リーが切り出す。

「僕と、ロメオとビッグ・Mの三人と一緒にパーティを組んでもらえませんか?」

ロメオは、星都の学園に通うリ・リーの親友となった少年で、ビッグ・Mは同級生の少女だ。

EEC16時間の去年の夏、学園の特別講演に講師として招かれた時に、知り合いになったゲーム依存症の子供達だ。

「仲良しなんだね」

「はい!ロメオとは、海底牢獄でも一緒に裏方の仕事をしたんです。ビッグ・Mちゃんは、前線で戦いに行ったんですけど、風魔法は海の中じゃ、全然役に立たなかった、って」


三人とも、それなりに現実とゲームの付き合い方を、確立しつつあるようだ。

今回の迷宮探索イベントの目玉はドワーフの至宝と呼ばれる四つのお宝だ。勿論、迷宮を踏破した、全員に配られる訳では無く、初回踏破者のみにオリジナルが、その以降の踏破者には数段落ちるレプリカ、が報酬として用意されている。オリジナルを目指して、激しい争奪戦が予想されている。

ソロで挑むもよし、パーティで挑むもよし、ではあるのだが、パーティで挑んだ時でも、出るお宝はたった一つ。

攻略後に誰が、お宝を所有するかで、仲間割れも起こりうる、のんびりに見えて、何気にえげつない仕様になっている。


「その辺は、わかってる?」

イベントが終われば、また、学園で顔を合わせる事になるのだ、仲たがいをさせたくはない。心配するクレハにリ・リーはしっかり頷いた。

「僕たち、それぞれ欲しいお宝が違うんです。戦士のロメオはグングニル(槍)。風魔法使いのビッグ・Mちゃんはスキーズブラズニル(船)。テイマーの僕は自分専用の武器が欲しくてミョルニル(槌)。何が出ても恨みっこ無し。もし、ドラウプニル(黄金の腕輪)だったら、それは、僕たちのパーティ資金にする、って話は決まってるんです」


「どの迷宮に挑んだにせよ、どんなお宝が出るかは、ランダムだよ」

「わかってます。だから、楽しいんですよね」

にこりと笑うリ・リー。

隣では、ル・ルーが、困った様な表情を見せていた。リ・リーの望む事なら応援したい。だけど、危険な事はさせたくない、と言ったところか。


「根の国について、どれ位知っているの?」


イベントの詳細はまだ正式に発表されていない。根の国の四つある迷宮のどこを選ぶかはプレーヤーである旅人に任されているが、根の国のゲートが解放されていない為、移動は北のオルドビス国経由になるのは間違いない。

何故ならは、地底にある根の国は、オルドビス国とのみ交流があるからだ。元々、地底に住んでいたドワーフ族が地上に移住して興した国がオルドビスだ。地の底のかつての祖国に似せて、オルドビス国の都市は、峻険な山脈に洞窟を掘って作られている。こう書くと非常に原始的な印象を与えるが、その実、映画『インディジョーンズ』で舞台になったペトラ遺跡を参考に設定された、山の岩肌を削って作られた、非常に荘厳な建物が並んでいる国だ。


「根の国、ですか?」

そう不思議そうに首を傾げる彼女から、迷宮にしか興味がない事が伺える。

クレハはル・ルーを見る目に険を込める。どうしてちゃんと教えておかないのか、と言う意味だ。

ル・ルーは、気まずそうに視線を逸らした。

「あの、あのね、アタシも言おう言おうとは思っていたのよ。だけど、ほら、旅人独自の情報網と、アタシたちの情報って齟齬がある事もあるでしょ。だから、リ・リーちゃんから聞かれるまで、待っていようかなーって」

言い訳としては悪くない。

そう思ってしまう。確かに、ゲームイベントの会場として設定される根の国は、クレハの知識の外にある。


根の国。

その名から予想するなら、そこは死者の国。日本ではイザナミが、ギリシャ神話ではハデスが、北欧神話ではヘルが治める国である。いずれも地下にある寒々しく暗い世界。

その響きだけで、安全とは言い難い。

更に、日本神話でイザナギがイザナミを、ギリシャ神話でオルフェウスが妻を、北欧神話ではヘルモーズがバルドルを蘇らせようと向かい、ことごとく失敗して終わる。そんな場所だ。


その根の国を、今は、鬼人族が管理している。

過去のエターナル・エデンシリーズで、地下を探索する事が出来たのはシリーズ6以降。それも、かつてドワーフ族が住んでいた時の鉱山跡地ぐらいで、そこに出た魔物は、ゴーレム系が多かった。その場所でしか得られない鉱物もあったから、クレハは結構、通っていた場所ではある。


そして、先日のガイド猫との勉強会で、クレハが得た知識では、

地下に魔力汚染が広がり、住んでいたドワーフ族はそれから逃れる為に、地上に移り、北のオルドビス国を興した。地下に残ったドワーフ族は、体の一部を変化させて魔力に耐性のついた肉体を得、鬼人族と言われる亜種に変化した。彼らによって、地下の魔力汚染はこれまで抑えられていたが、やはり、過酷な環境に鬼人族の人数も減って行き、これ以上の防衛が不可能となった。その為、鬼人族の長は魔力耐性のある旅人を召喚し、魔力の除去に協力してもらおうと、ゲート解放に賛成した。その報酬として、地下迷宮を解放する。地下迷宮の奥には、古のドワーフの名工が作成した秘宝が隠されている。地下で最も魔力濃度が濃い迷宮は、そう簡単に攻略されない筈だ。魔力を使用して戦う旅人が魔物を倒す。魔力自体も消費され、魔物の体の中で魔力が凝縮した魔石を回収してくれるのだ。一回一回の魔力の減少量は微々たるものであっても、多くの旅人が参加してくれれば、それは、地下世界にかつてのドワーフの都市を再興する事も可能だ、と希望を抱いて。


ヴァルゴの自宅の図書室で、地下の地図を広げながら、ガイド猫にこの世界の地下の国についての一般常識を習い、その後、自分のこれまでのゲーム経験と突き合わせていく作業の中で、クレハは迷宮の場所が、かつての鉱山跡地である事に気が付いた。


「ある意味、再利用です」

その事を指摘するとガイド猫アレクはあっさりと白状した。

「地下の地図を一から作るのは骨が折れるんですよ。妙にそう言う造形にこだわる奴がいるんで、イベントまでに終わらない可能性もあって。それよりは、シリーズの流れに乗って、元の鉱山が迷宮化した、とする方が簡単だったんです」

「ふーん。でも、鉱山って確かに迷路っぽいよね。子供の頃、夕張の炭鉱や佐渡の金山観光で坑道に行った事あるけど、まさにアリの巣だったわー」

それに、元が鉱山なら、鉱山の地図=迷宮の地図、で過去のシリーズの攻略本を参考にすれば、意外と簡単に最奥に到達できるかもしれない。


「うわっ、そんな事考えます?それはちょっとまずいですね」

焦るガイド猫。

「え?逆に、何の手も加えないで、そのままは手抜き過ぎでしょ。って言うか、迷宮化したんだよね、トラップとか作ったんでしょ?」

「その辺の見極めが難しいんですよ。イベント期間中に全く攻略されなくても問題ですし、簡単すぎても困るし。今回は戦闘少な目で、魔物のレベルを抑えているので、微調整が効かないんです」

いや、運営の苦労話を聞かされても困る、とクレハは思った。

バイトとは言え、それはあくまでゲーム世界でのお手伝いで、イベントの内容にまで関わるつもりは無い。こちらも遊ぶ側、なのだ。


そう言えば、EECシリーズでは魔物を倒すと魔石が得られるけど、魔物は魔力が生き物に取り込まれて変性した姿で、心臓が魔石になる、んだったっけ?それとも魔力放出器官みたいのが出来るんだっけ?

そう確認の為に尋ねたクレハにガイド猫は転げ回った。

「うにゃあー、どうして、ここで、今、そんな事を聞くんですか?知りたいんですか?知りたいんですよね。僕も知りたいですよ」

逆ギレされた。

「魔物を倒したら、魔石が取れる、もうそれでいいじゃないですか。どうして、そこで突っ込むんですか」

「あー、ごめんね。ちょっと、ほら、魔力汚染が~とか、高密度の魔力が~とか、今回の地下迷宮イベントで出て来るし、6時間以上いれば旅人が魔物化する、って言う、設定がね、うん。

それに、ほら、魔石って、色々な魔道具に使われてるでしょ。魔物から取れた、と言っても数的におかしいかな~って思って」

「ああああー!」

ぷちっとガイド猫は固まった。


「ひっ」

突然、動かなくなった愛猫の体を、クレハは驚愕の目で見つめた。

もう長くない、とわかっていて、それでも、仕事に行かなくて行けなくて、出勤した日の朝を思い出す。

行ってきます、と声をかけたアレクが、間違いなく自分を見た。その目の透き通った緑色に、行きたくない、一緒にいたい、とバス停に歩きながら、何度も戻ろうかと考えた。

必死でやりくりして、半日で帰宅した紅葉を待っていたのは、冷たくなったアレクの体で。

硬直したあのこを抱き締めてわんわん泣いた。


「ア レ ク?」

思い出すだけで、涙が出て来る。

「クレハさま?」

再起動したガイド猫は、自分の体を抱き締めて号泣する主人に、不思議そうに尋ねるのだった。

「やだよぉ、アレク。もう、どこにも行かないでよ」









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