22 宣言の影響と夏休みイベント
現実世界で溢れた悪意がエターナル・エデンに魔力となって染み出で、魔物を産んでいた。エターナル・エデンと現実世界は、表裏一体の関係にあり、旅人は、その魔物を討伐するために招かれた。その事実を受け入れた者のみに、エターナル・エデンの星力が与えられる。
この星王の宣言は、エターナル・エデン・クロニクルのゲームコンセプトを明らかにし、同時に、それに納得出来なければ、ログインしなくて結構、と言うもので、営利主義的観点からすると、真逆を行くものだ。
通常はユーザーの意向を受けて、より、多くのユーザーの希望に添うような内容のイベントを開催する、課金したくなるような特別なアイテムを用意する、など、気持ち良く遊んでもらって、お金を落としてもらう、そう言う方向になる。
今回で言えば、あまりにも本物に近いために、離れて行ったユーザーを呼び戻す為に、流血シーンをポリゴン化する、匂いや音など、五感に与える刺激を和らげる、などの対策もその一つだろう。
ところが、運営は星王と言う、EEC16での最高権力者をもって、この世界に納得出来なきゃ来るな、と宣言させたのだ。しかも、質の悪い事に、それでも、エターナル・エデンを訪れ、魔物を狩るならば、NPCのみが持つ星力を与えよう、と言う、飴、もちらつかせている。
そして、7つのサーバーの7人の星王。
EEC16における謎の一つ、を公開したのだ。
紅葉が見たCMの星王は、20代前半金髪碧眼の宗教家の様な男性だったが、別の局では、深紅の髪に緑眼のアマゾネスの王の様な20代女性、他にも、仙人のような地に届く白髪白髭の老人男性、豪華な衣装が悪目立ちする幼稚園児のような子供など、7人の星王が登場したのだ。
その中には、黒髪黒目の少年もおり、特番で彼を見つけた時、紅葉は藍サーバーの星王を自称していたセイが、本当に星王だったと、やっと理解した。
結果的に、EEC16のユーザーの何割かは復帰し、新規ユーザーも大量に獲得する、と言う、運営にとってはまさに狙った通りの効果があった。一方、マイナーアップデートとして、グロテスクな表現をポリゴン化する設定も追加され、強気で主張するスポンサー(星王)と、問題点は解決したいスタッフのせめぎ合いも垣間見ることが出来たのだった。
GWイベントでの激戦を経験し、EEC16には暫くログインしない、と言っていた息子だが、あの星王のメッセージをどう受け取ったのだろう。
「あんな風に、エターナル・エデンの裏側!みたいなの聞かされちゃったら、行くしかないって思うよね。一応、グロ設定は切ったから、これで、現実感もかなり薄れるでしょ。
それに夏休みには、根の国が解放されるし、地底の迷宮で宝探しって楽しそうじゃん」
結果。
息子は復帰していました。
GWイベントが血なまぐさい物だったせいか、夏休みイベント(ゲーム内時間でゲート解放2年目)はほのぼの探索系、と言う事で、地下の根の国を舞台にした迷宮探索・ドワーフの宝物探しと、発表されたのは、星王の宣戦布告の翌日。
地底の根の国にある4つの迷宮:アウストリ(東)、ヴェストリ(西)、ノルドリ(北)、スドリ(南)の最奥に隠されているドワーフの宝物
ミョルニル: トールが持つ、絶対に外れない、戻ってくるハンマー。
グングニル : オーディンが持つ、決して的を外さない槍。
ドラウプニル : オーディンの黄金の腕輪。9夜ごとに同じ重さの腕輪を8つ生み出す。
スキーズブラズニル : フレイの持つ、畳めばポケットに入るほど小さくなる船。
を見つけ出す、と言うものだ。
勿論、迷宮であるからには、魔物も出れば、トラップもあり、危険が全くない訳では無い。
けれど、致死的な罠は仕掛けられておらず、発動すれば、迷宮の入口に強制転移される、の一択だ。
逆に言えば、トラップに引っかかっても ”振り出しに戻る” でやり直しが出来る。
ヌルゲーになった、と憤るグロ上等!なプレーヤーで、ネット上は炎上しかかっていた。
と息子は言う。
だが、待って欲しい。
迷宮内にいくつのトラップが仕掛けられているのかは、わからないが、宝箱を目の前にして、迷宮の入口に強制転移された、と仮定してみよう。それが繰り返されたとしたら?
確実に、心が折れる。
クレハの意見に同意した息子は、一枚の4コマ漫画を通話画面に表示した。
「イラストの上手なプレーヤーが、こんな4コマ漫画を投稿して、騒いでた連中も、これが結構な鬼畜使用って理解したんだ」
延々と繰り返されるそのやり直しイラストで、イメージ出来たのか、ヌルゲー論争は鎮火した。
『多分、このイラスト投稿したの運営関係者だよねー』
多少、運営とつながりのある紅葉は、想像だけですっかり心を折られたプレーヤーを思って、同情するのだった。
因みに、4つの迷宮のどれに4つのお宝の何が隠されているかは公表されていない。そして、7つのサーバーで、その組み合わせは異なる事は匂わされている。故に、クレハの藍サーバーで東のアウストリにミョルニルが見つかったとして、息子・龍樹の赤サーバーのアウストリにもミョルニルがあるとは限らない。そこにあるのはスキーズブラズニルかもしれないのだ。この迷宮とお宝のランダムな組み合わせ。
「宝探しはロマン、だよね」
例によって、縁側で日向ぼっこをしている猫アレクの前足をぴっとつついて、自分も寝そべってクレハは言う。
「はぁ⁉・・・まあ、ロマンですね」
「私、大丈夫かなあ。方向音痴なんだよね。角を2回曲がったら、もう自信ない」
「いやいやいや、流石にそんな事は無いでしょう?」
クレハはにっこり微笑んだ。
「ところが、あるんだなぁ~。と言う訳で、私を宝箱まで連れてって、ってね」
クレハはこのイベントを聞いた途端、参加する気満々だった。迷う前提ではあるが、元々、地道な探索・採掘は大好きなのだ。
そして、思う。
次回のイベントが北欧神話のドワーフに関連して、作られているのは、迷宮の名前やお宝から明らかだ。
そうなれば、ドワーフの宝にはまだ、有名な物が最低二つはある。
アンドヴァラナウト: 財宝をもたらすが、所有者に呪い(破滅)をもたらす魔法の指輪。
シフの金の髪: 本物のように伸びる金の髪。
『呪いの指輪と伸びる髪って、どちらもお宝と呼ぶには微妙だから、今回のイベントの褒賞からは外れたのだろうけれど』
と、クレハは考える。ひょっとして、どこかの迷宮に、こっそり、隠し部屋なんかがあって、そこにこの外れのお宝がある、なんて、あり得そうだ、と。
「宝探しはロマン、だよね」
繰り返してニマニマするクレハを、アレクはちょっと引き気味に見上げて、言った。
「クレハ様は、迷宮には潜れませんよ」
「えっ⁉なんで?」
がばっと起き上がったクレハに、隣室のアンが何事かと顔をのぞかせた。
それに、何でもない、と軽く手を振って、クレハは座椅子に座り直すと、アレクを目の高さにまで持ち上げた。
「ねえ、さっきの、どういう意味?」
小声で尋ねる。
「夏休みイベントは、旅人限定のイベントなんです。
EEC16では、地下世界は、”根の国”と呼ばれていて、他のどの国よりも広い領土を有していますが、その大部分が魔力汚染を受けていて、殆ど、人の暮らせない場所になっています。特に、迷宮の魔力濃度は高く、星力を持つエターナル・エデン人では、半日と持ちませんよ。ましてやハーフエルフのクレハ様ではいいとこ数時間。迷宮探索なんて無理でしょうね」
ガーン。
クレハは崩れ落ちた。「ロマンが・・・」
「まあ、やり方が無い訳では無いですけど」
「?アレク、何か言った」
「いえ、大したことでは。それより、根の国について、少し、勉強しましょうか」
アレクは呟きを誤魔化す。クレハが ”やり方” を知るのは、もうしばらく後の事だった。




