17 初イベント
その後、クレハの祈りで急成長した挿し木の森に、リ・リーのティムしたデザートモス・エリサンの幼虫・黄金丸が突撃していき、あっという間に蛹になり、溢れる星力を取り込んで、羽化すると言う異常事態に紛れて、クレハ達は学園から逃げ出した。
当然、帰宅後に各方面から問い合わせが来たが、クレハは知らぬ存ぜぬを通した。
実際、あんな大事になるとは思わなかったのだ。
ただ、ル・ルーにだけは、理由はわからないが、自分の祈りが思いがけず、多くの星力を引き出してしまった為に、挿し木を含めたあの辺り一帯の木々を成長させてしまったようだ、と説明した。
「まあ、あそこは子供達を預かる為に、星都の中でも特に星王陛下の加護の強い場所だから、そう言う事もあるのかもねぇ」
テレビ電話の様な機能の転送陣の向こうでル・ルーが溜息をつく。「どうせ、貴女の事だから、子供たちの安全とか成長を願ったんでしょう?」
図星を指され、クレハが目を丸くすると、彼女は何度も頷いた。
「納得したわぁ~。リ・リーの黄金丸の行動もね。あの子伸び悩んでいたのよ」
「え?黄金丸が?」
「そぉなのよぉ。キヌの生産が軌道に乗り始めて、これまで以上に多くのエリサンの幼虫が必要になったのだけれど、リ・リーは学園にいるし、ティムされた黄金丸だけでは制御できる幼虫に限りがあってね。制御されていないエリサンの幼虫は害虫でしかないの。それで、生産量が制限されてしまう事を気にしていたのよ」
魔物が?とは思ったものの、そこはティムされ、召喚に答えるほどリ・リーと絆を結んだ黄金丸なのだから、そんな事もあるのか、と無理矢理、納得する。
「羽化すると、その能力がアップするの?」
「そりゃあ、幼虫と成虫じゃあ、次元が違うわ。
お陰で、養蚕場が3つは増設できるわ。まあ、その他の設備も必要だから、いきなり、増産は出来ないけどね」
益々忙しくなるわ~、と壮絶な笑顔で手を振って、最後にクレハをオアシスに招待して、映像は切れた。
「アレク、初めて聞いたと思うんだけど、星都とか学園の設定って?」
「ハイ、ソウデスネ。ついさっき、そうなったみたいですよ」
「ごめんなさい」
また一つ、EEC16の世界にクレハの都合で設定が追加されてしまった。
ゲーム依存の子供達。その救済としての学園クエスト。
EEC16の別サーバーで遊んでいる息子の龍樹にそちらのサーバーでの影響を尋ねてみる。
やはり、同じようにゲーム依存気味の未成年者は星都に集められ、学園に通っているが、概ね、トラブルは無いようだ。あの位の年齢の子は、熱しやすいがその分色々な物に興味を持つせいか、うまい具合に、気持ちがそらせているようだ。
星王についての情報は、息子も持っていなかった。息子の赤色サーバーでは、星王は白いひげの老人として語られているらしい。星王の偽物を語る不届き者もいない。こちらのサーバーとはえらい違いだ。
ガイド猫もこの件に関しては沈黙を守っている。
それは、星王がEEC16の世界の中でも魔神王に匹敵する重要人物で、彼の人の情報自体が、最終クエストのヒントになり得るから、と考えられる。
それとは別に、星王がクレハと同じ現地人枠で参加しているプレーヤーだと言う考えをクレハは捨てきれない。それ故に、情報規制されているのではないのか?
「ところで、母さんは、ゴールデンウイークのイベントには参加するの?」
真面目な話は早々に切り上げて、息子の話題は、ゲーム内でゲート解放一周年を記念した大規模レイドに移る。
これは、海中国・竜宮から、発せられた緊急クエストに由来する。竜宮は、長期に渡り凶悪な魔物を海中監獄に封じて来た。それが、旅人の大量流入で魔力と星力のバランスが崩れ、監獄の一部が崩壊し、そこから封じていた魔物が逃げ出した、と言うものだ。それらの捕獲・討伐が依頼され、海上・海中バトルと、海中監獄での大規模レイドが予告されている。戦場が海上、もしくは海中となる為、有利に進めるための必要なスキルや魔法、と言った情報が、あちこちで飛び交っている、と息子が教えてくれた。
「ゴールデンウイーク中は、ゲーム内時間も現実時間に揃うらしいよ。普通は強制ログアウトにならないように、戦闘前に休憩に入るけど、この前のゲーム依存の一件で、休憩は最低一時間、って決められただろ。こっちの時間で一時間は向こうの四時間だから、そんなに時間があれば、戦場は動くからさ。再ログインしたら、死んでた、なんて目も当てられないし」
バリバリの戦闘職の息子は、NPCが団長をする傭兵団に所属しており、今回のイベントには、傭兵団として参加するらしい。その傭兵団は、最初に街を移動するときに彼を拾ってくれた旅芸人一座からの紹介で加入した経緯がある。一般には、ユニークと呼ばれるクエストを受注しなければ、所属できないと言われている特別な傭兵団だ。
楽しんでいる様で何より。
そして、時間の同期は周年イベントに参加しないプレーヤーでもそうらしい。
クレハは、その期間は天空島で発掘三昧の予定だ。
勿論、そんな事を息子に言う事は出来ない。
古地図と照らし合わせてマップの作製。旅人に見せても良い遺跡とそうでない遺跡の区別。発掘された遺物の収集、リストの作成。立ち入り禁止区域の設定、そういった諸々の調査と提案が、クレハの仕事だ。
同行するのは、星都の騎士団を中心とした各国から派遣された騎士たち。クレハ個人には当然、バトラーとアンが同行する。
そして、Aランク以上の冒険者数名。
ゴールデンウイーク、一周年記念イベントの初日。星都の星王庁、天空の間に集まった調査団の面々の中に、クレハは見知った顔を、しかも2つも見つけて驚いた。
一人は、Aランク冒険者のオーラン。シデリアン国の冒険者ギルド所属のエルフ。
もう一人は、星都の学園に通う自称星王を名乗るセイ。彼は、何と星都騎士団枠での参加だった。
確かに学園に通っていない日は騎士団の鍛錬に参加している、と用務員のベンさんは言っていたが、まさか、騎士団に所属する程の強さとは、クレハは思ってもみなかった。
「でも、未成年」
「あ”?俺は16になった!」「いや、だから、それ未成年」
「俺の国では16で成人だ!」「え?セイ君、日本人じゃないの?」
「違うわー!」「えー!?!?!?!?!?」
確かにEECシリーズは海外でも人気が高く、今回のシリーズ16も全世界同時配信だった。だが、クレハはこれまで、プレーヤー=旅人に外国人がいるとは、欠片も思わなかった。これまた、60を過ぎたおばあちゃんの視野の狭さの影響だろうか。
「言葉が通じてる」
「ムカつく、何この女。この世界、旅人はどの国から来ても、自動翻訳が働くんだよ。そう言うシステムを組んだに決まってるだろう」
「へー、知らなかった」
と、そこまで会話をしてふと気が付く。
あれ、この会話が成立するのおかしくない?
ゲームの設定に従えば、クレハは現地人、つまり、NPCだ。
セイが16歳で成人だと言うのなら、それは、何処の国?と尋ねるのが、普通だ。少なくとも「日本人では無いのか?」とは聞かない。
そして、それを不思議に思わないセイ。
そーっと上目遣いで見上げると(16歳設定でも、セイの身長はクレハより頭一つ高い。クレハはどちらかと言うと背は低いのだ)、ふふん、と鼻で笑われた。
以前、食堂で嗤われた時の様な、馬鹿にした笑い顔では無く、してやったり、と言った自慢げな笑顔だった。
「星王、なんだ」
「最初から、そう言っている」
「私の事も知ってるんだよね」
「当然」
「・・・感謝、すべき?」
「別に、いらん」
「じゃあ、怒っていい?」
「何故!?」
こんな会話が邪魔されず成立しているのは、星王の結界と認識阻害の魔法が、重ねがけされているから、と本人が説明した。
傍から見れば、クレハとセイは、近くにはいるものの、それぞれ、別の人と会話をしている様に見えているらしい。
「で?今、お互いの素性を知る意味は何?」
「そんなに警戒するなよ。俺は、ただ、あんたに直接会ってみたかったんだ」
「は?何それ?」




