16 ゲーム依存 親の立場
あまりの威力にクレハ達が呆然としていると、「こらーっ!学園の備品を壊すんじゃない」
振り向けば、用務員さんに叱られている金髪碧眼のスレンダーな少女がいた。横で、リ・リーもロメオも一緒になって怒られている。あのスレンダーな少女が、体に溜めている空気を出し切ったビッグ・Mの本当の?姿だった。
「ほら、修復に行くよ」「「「はーい」」」
三人の少年少女は元気よく窓から外に飛び出した。「ちゃんと出入口を使いなさい!」
恐らくもう聞こえてはいないだろうが、律儀に注意して、用務員さんがクレハに並んだ。
セイと取り巻き達はいつの間にか、消えていた。
「すみませんね、バロネス。セイ君は、悪い子じゃ無いんですけど、大人に対して不信感が強くて。学園には週の半分ぐらいしか来ていないのですが、あれで、貴女の公演が聞きたくて、今日は来たようですよ」
その割には酷い態度だったと内心、信じていないながらも、クレハは表面上はにこやかに相槌をうつ。
残りの半分は、騎士団で鍛錬してるらしいが、基礎訓練ばかりらしいで、しごきだ、と文句をよく言っている、と用務員さんは続けた。
「すみません、聞き耳を立てていた訳では無いのですが、あの子たちの話を聞いてしまって」
と用務員さん、ベンさん、はビッグ・Mの風魔法がなぎ倒した木々を片付ける為に外に向かいながら、クレハに話しかける。
「私の息子はあの子たちの様な深い事情があるわけではないんですが、このゲームにのめり込んでしまいまして」
またしても重苦しくなりそうな話に、クレハはピクリと身を震わせた。
「ああ、いえ、バロネスに対して文句がある、とかでは無いのです。先程、ビッグ・Mさんも言っていた様に、バロネスがクエストを発生させた訳では無いでしょう?」
ベンは、外に出ると深呼吸するように大きく息を吸った。
「本当にこのEEC16の世界は良くできている。息子がのめり込むのもわかります。でも、少し前の私は、そんな事、思いつきもしなかった。ただ、ゲームギアを被って、ベッドに横になっている息子に、とても憤りを感じていたのです。ゲーム会社にも、はた迷惑なゲームを作りやがって、と思いましたね。
そしたら、運営がゲーム依存の未成年に向けて、アクセス制限をかけて、この”学園クエスト”と言うものを導入したでしょう?これで、息子もまともになる、そう思ったのです。ですが、息子は抵抗しましてね、私と妻はどうしたものかと、頭を悩ませる日々が続いたのです。
そんなある日、私は、自分もこの世界を経験してみよう、とふと、思ったのです。本当に唐突に。
息子が食事も摂らずに夢中になるゲームとは、どんなゲームなのか、と」
いい年してVRMMOか、と妻にも言われましたよ。
そう言ってベンさんは頭を掻いた。
真面目な人なのだろう。
ゲームの中だと言うのに、黒髪黒目で、眼鏡をかけた40代の、いかにもサラリーマンと言った印象のキャラクターを作っている。
「信じられないくらい、素晴らしい世界でした。
そして、納得しました。これは、息子が帰ってきたくなくなるわけだ、と。
お恥ずかしい話ですが、私も妻も、仕事人間で、息子は小さな時から、一人でした。休日はその穴埋めをするように、あちこちに連れ出しました。けれど、今、考えるとそれは私達大人の自己満足でしかなかったのでしょうね。
この世界に来てみて、現実の柵から離れて、一人の人間として世界に立つと、息子の気持ちが少しはわかるような気がしたのです。
少しずつ、息子と話をしました。このEEC16の世界の話です。最初は身構えていた息子も段々、警戒を解いてくれて、今では、頑張ってゲームの時間を減らしています。その分、私がこの世界の話を話して聞かせているのですよ。
息子とはサーバーが違うので、一緒に冒険をする事は出来ませんが、私はこの星都で学園の用務員に採用され、息子と同じような子供たちに関わって行こう、そう思っているのです」
「ベンさーん、折れた木を片付けたよー」
ビッグ・Mが大きく手を振る。
「挿し木用の小枝は用意した?」「はーい」
「ビッグ・Mさんは、入学当時、随分暴れましてね。この植林も何度目か」
過去の逸話を話すベンにビッグ・Mは赤くなったり青くなったりしながら、小枝を地面に刺していく。同じようにからかいながら、リ・リーもロメオも挿し木をする。
「私は植物の成長を促す魔法が使えるのですよ」
そう言って、ベンは両手を広げ、魔法を使う。キラキラとしたエフェクトで、地面に刺さった小枝が、定着する。
「能力がまだ低いので、この程度なのですけどね」
「でも、ベンさんのおかげで、ビッグ・Mは退学にならないんだと思うなー」とロメオが軽口を叩く。
クレハは、無言で、前に進み出た。
この星都は星力が溢れている。魔力で定着した小枝も、やがて、星力を汲み上げて大きく育つだろう。だから、クレハは少し、手伝う事にした。
彼女の種族、エルフ、のもつ特別な星力。それを、挿し木の魔力に馴染ませる。
仲間たちと語らうリ・リーの姿に、彼女の成長を感じる。
ゲーム依存になる人達にはそれぞれ、理由がある。そうは言っても、やはり優先されるべきは現実社会で、この仮想現実の世界が少しでも、少年少女たちが現実社会で生きていくための助けになれば良い、と思う。ただ、やはり、セイの様に自由なゲームライフを邪魔された、と感じる人がいるのは間違いなく、それは真実なので、批判は受け入れようと思う。だからと言って、傷つかない訳では無い。きっと思い出しては何度も落ち込むだろう。
だけど。
少しでも、この学園で学ぶ未成年のプレーヤーたちの力になるように。
現実の社会に立ち向かう強さを養えるように。
そんな願いを込めて、クレハは祈る。
祈りは、星都の大地と大気から星力を集め、根付いたばかりの挿し木に注がれる。
枝が揺れ、葉が踊る。周りの木々が歌い、鳥たちが唱和した。
星が生命を育む音楽を奏でる。
クレハの祈りが終わった時、そこには、神聖な星力を湛えた森があった。
『うそ。こんなすごい事になるとは聞いてない』
周りの人々の熱狂の中、クレハは一人、青くなっていた。




