1 依頼
【新しく発売するVRMMOで第二の人生を楽しんでみませんか?】
そろそろ、覚束なくなってきたゲーム操作に限界を感じていた紅葉は、画面に表示されるその文字に首を傾げた。
家庭用ゲーム機の初期から、RPG主体に遊んできた紅葉は60歳の定年を迎え、更に2年務めた後、それなりに出来た時間を、読書とゲームに費やしていた。
その中に、ドット絵と蘇りの呪文(延々、アルファベットと数字の羅列を入力する)で苦労して世界の破壊者を倒す有名RPGシリーズの最新作(と言っても5年前に発売された)がある。もうすぐ、最新作(本当の)が発売になり、それがシリーズの集大成となる、満を持してのVRMMOらしい、と既に、予約で登録コードが300万件を超えたと噂になっている。CMで超美麗な風景と滑らかな人物の動きなどが流れ、興味を惹かれているのは間違いなかった。
けれど、
「VRMMOかぁ、まともに走れないのに、今更だよねぇ。」
もう還暦を過ぎたばあちゃんが、今更、魔神王退治に行くのも、2Dならまだしも3D、バーチャルは辛い。
【この案内は、エターナル・エデン・クロニクルシリーズをご愛顧いただいているプレーヤーの皆様の中から、特に、戦闘よりミニゲーム主体に楽しまれた中高年の方に送らせて頂いています。】
「なんか胡散臭いなあ。詐欺っぽい。」
エターナル・エデン・クロニクルシリーズは、全15シリーズあり、特にシリーズ11からは、オンラインゲームとの併売で、魔神王討伐の旅に向かう本シナリオとそれに付随して各地で発生するイベント、ミニゲームシナリオのどちらも楽しめる贅沢な作りになっている。そして、脳筋で戦いはとにかくタコ殴り系の紅葉は、あまり戦闘は得意では無かった。ミニゲームでコツコツアイテムを集めたり、ハロウィンイベントのお化け屋敷づくりに凝ったり、そんな横道を満喫しながら、何とか、エンディングまで到達するのだ。勿論、攻略勢のようにタイムアタックを競う訳でも、職業をカンストする訳でも無く、多分、普通の人の倍、3倍、5倍?以上の時間をかけて漸くエンディングに至る。
実際、ついさっき、シリーズ15を終えた所だ。
そのエンドスクロールを見終わって出てきたのが、この案内だ。
「5年前だよ、今更だよね。」
しっかり、年齢と遊び方の傾向が知られているのね、そう思いながらも、興味がわいて、つい”詳細を聞く”をクリックしてしまう。
すると、いきなり画面が切り替わって、CMで見るシリーズ16のチュートリアルキャラが現れた。
『初めまして、アレク猫様。私は、エターナル・エデン・クロニクル16のナビゲータをさせて頂いているナビ16です。今回は、アクセスありがとうございます。』
可愛らしい蝶の羽をもつ妖精キャラが、ニコリ、と笑いかける。
「あ、ども。」
つい、画面に向かって頭を下げる。
『2035年クリスマスに発売するエターナル・エデン・クロニクル16は、当シリーズで初となるオープンワールドVRMMOです。映像の美しさのみならず、吹く風に花の香すら感じさせる再現度の高いグラフィックと細部にこだわったNPCキャラ。メインシナリオはEECシリーズを通して共通する魔神王討伐になりますが、戦闘のみならず、生産職や、モフモフとのんびりスローライフなども楽しめる作りとなっております。』
ふむふむ。シリーズ15でひたすら採掘をしていた私でも大丈夫?
『勿論です。ですが、アレク猫様には、シリーズ16で初導入となる職業をお願いできないかと、この度、ご案内させて頂きました。』
初導入の職業?
『ここから先は、秘密保持契約を結んで頂いてからのご案内になりますが、どうなさいますか?』
『これまでも、色々な取り組みを行ってきたEECシリーズですが、今回、VRMMOの導入にあたり、NPCキャラの作り込みに非常にこだわっております。』
NPCに拘り、ねぇ。
『アレク猫様には是非、NPCとして、EEC16にご参加いただきたく、ご案内差し上げています。』
いや、もうそれNPCって言わないよね。Non Playable Caracter、プレイできないキャラ、だからNPCでしょ。
『あー、そうですねー。少々お待ちください。』
一昔前のテレビ画面で不都合があった時に映されていたテロップが表示された。
そして、妖精キャラが誰かに相談している声まで聞こえてくる。『もしもーし、先輩。この人めんどくさいんですけどー。』
ちょっと、失礼かな。って、これ、テロップの意味無いよね。
『えー、では、現地人としてのEEC16をプレイしてみませんか?』
これならどうだ、と胡散臭い笑顔満載で戻って来た蝶々妖精。
まあ、今更、魔神王退治でも無いしね。
で、そんな現地人を雇ってどんな意味があるの?
『では、契約成立、と言う事で、これからは具体的なお仕事の詳細に移らせて頂きます。
当EEC16では、これまで蓄積した15シリーズの攻略者の皆様の行動パターンよりNPCのキャラ付けを行っております。ですが、運営上、色々な問題が生じる事も考えられるため、NPCの管理者を現場に派遣する予定です。勿論、運営会社からも社員が出向していますが、社員は突発的な対応が求められる攻略組が優先されるため、アレク猫様には序盤の国における新人旅行者の方のサポートをお願い致したいのです。』
具体的には?
『特にないですねー。サービス開始時には混乱が予想されるため、当然、社員出向組も最初の国におりますし、のんびりNPCに混じって現地人として暮らして頂いて構いません。時々、ワールドイベントのお手伝いや、お使いクエストなどが舞い込む事はご了承ください。』
でも、一日中、ログイン出来る訳じゃないから、現地人としても無理があるんじゃない?
『そこは、職業の選択で何とかなると思います。流石に、宿屋の主人とか、生鮮食料品の店主とかは無理ですけど。こちらでご用意しているのは以下になります。』
そうして、画面に一覧が表示される。
確かに、何日か不在でも奇異に思われない職業が並んでいる。
ふーん。
これ以外に希望しても良いの?
『え?また、この人は突然、何を言い出すんだぁ。』
引きつった笑いを浮かべる蝶々妖精キャラ。『上司に確認しますので、ご希望のご職業をお教え願いますか?』
なら、考古学者で。
『は?』
何か、昔、やりたかったのよねぇ、考古学者。エジプトのピラミッドを探していたY教授とか、奈良県の遺跡の発掘とか、幻のA城の再現とか、憧れたわー。
『はぁ?』
EECシリーズでも、初期勇者の鎧を見つけるクエストがシリーズ5ぐらいにあったでしょ。
『あぁ、はいはい、ありましたね。』
世俗に興味のない考古学者なら、自宅に引きこもっていても納得でしょ。
『まあ、そうですけど、それ、ゲームしてて楽しいですか?』
楽しいですよー。だってVRMMOなんですよね、あのシリーズ1の魔王の城跡とか、歴代の最終決戦の戦場跡とかも再現されてるんでしょう?あー、伝説の武器の欠片とか、埋まってたりしません?
『・・・』
結果、紅葉は考古学者として、シデリアンの旧王都ヴァルゴに住む考古学者として、EEC16発売前からログインした。
現地人としてのログインなので、家もあるし、お金もある、当然、身分もある。
今の紅葉は、考古学者クレハ・デ・ノースヴィラ女男爵。功績により一代貴族に序されたバロネス。62歳。種族はハーフエルフなので、寿命から考えると五分の一程。年齢詐称はしていない。身長体重は、VRMMOで実際に体を動かすことも考えて、実測値そのままだけれど、お腹周りを引っ込めた分、胸に盛って、ヒップアップしておいた。プロポーションはかなり良くなった。詐欺ではない。ついでに視力も上げたから、眼鏡は不要、瞳の色は憧れの空の青。今の白髪に抵抗は無いけれど、艶は欲しいから白に近い銀髪で。肌はやっぱり陶磁器の様な白でしょ。全体に薄めの色合いだな。
まあ、引きこもりの設定だから良いか。
でも服は着物が良いなあ。退職したら着物で過ごそうと思っていたけれど、実際には着付けの問題とか洗濯の問題とかで着れないから。あー、銀髪に珊瑚の玉簪が映える。
良い。良いよー。
テンション上がって来た。
と言う訳で、一応のキャラメイクを終え、全体のバランスを見る。
まあ、花魁みたいなド派手な着物は流石に止めよう。うん、黒地に桜の流水模様。きっちり着るんじゃなくて、上着風に片肌にして袖と丈は短く。アンダーは軍服風ノースリーブ・スタンドカラーの白の正絹シャツ、下はひざ下位のミニの袴にロングブーツ。
修正、修正。
現実の年を考えると結構、痛いが、うん、可愛い。
声は地声そのままを自分で聞くと変な感じだから、聞こえてる自分の声になるようにトーンを変える。
良いよね。よし、OK。
えーと、運営からの連絡用にガイドキャラが作れるのか。
なら、勿論、この子。
ロシアンブルーの子猫、名前はアレク。2年前に死んでしまった愛猫。
また、一緒に暮らそう。
そうして、紅葉の第二の人生・EEC16生活が始まった。




