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おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります  作者: きむらきむこ
健太の話

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 身体強化 3

「やれば良いじゃない?ダンジョンの中でならできるわよ」


田中さんが笑って言ったので、健太はムッとした。


「私は150センチくらいなのよね、身長。この間63才になったし、それでもB棟男子よりも私のほうが強いときって、あると思わない?」


 田中さんは、ダンジョンの中では筋力が上がるし、持久力もアップする気がすると教えてくれた。そしてダンジョン省から資料を取り寄せてみる?と聞いた。


 健太はそれを断り、その日から仕事の合間にダンジョンに籠もり、各魔法の制御を練習し、体力作りのために走った。自分が身軽に動けるようになったと気がついたのは、採取の佐藤さんに言われてだった。


 佐藤さんは健太より後になって入社してきたパーティメンバーのリーダーさんだった。ポーション作りの為に出向で来たユキさんと結婚して夫婦揃って会社に勤めている。


「最近、前よりも動きが良いんじゃないか?魔法もすごく使えてるし、前衛も任せられると思うから、やってみない?」


 佐藤さんに言われて、一度試しにパーティーで前衛をやってみた。連携はもっと練習が必要だけど、このままやってくれると助かるよ、とダンジョン上がりに言葉をかけてもらった。健太がダンジョンに篭って走るようになってから1年以上が過ぎていた。


 新設された社屋のシャワールームで体を洗いながら、健太は声を抑えて泣いた。やった、やったぞ、と泣いてシャワーブースからなかなか出てこない健太を、佐藤さんたちが心配して見に来たので、泣いてたのはバレたのだった。



 それからも自分が思うように身体強化を使えるようになるまでは、色々と試してみた。聴覚が強化されたことでモンスターへの警戒が楽になって、会社で広めてみたりもした。身体強化を使える人自体が少なかったが。



 やっと暗くなってきた夏の夜に、ボンヤリと灯りのついた玄関を入ると、健太は小さい声で「ただいまー」と言った。


「マサルー、おむつー」妻のエリカの慌てた声がした。


 健太の足元に向かって裸の優が、元気にハイハイをして来た。

「ただいまー、優、お母さんがおむつしてないって言ってるぞー」優を抱き上げながら、リビングに行くと、エリカが優の双子の妹のまゆみの着替えを終えたところだった。


 そろそろ1歳になる双子は、風呂上がりだったようで着替えの最中に優が脱走したらしい。


「ごめん、帰るのがちょっと遅かったな」


「おかえり。ご飯食べてて、壮絶なことになったから、ちょっと早めにお風呂に入れたのよ。気にしないで」


 エリカは、施設の先輩の明里の治癒士の専門学校の後輩だった。

身体強化について勉強していて、それが縁で付き合いだして、3年前に結婚した。


 エリカは治癒士で、ダンジョン省の治療室で働きながら時々、身体強化についての講習を行う専門家だ。今は双子のために育児休暇を取っている。先月までは健太が育休を取っていて、交代したところだ。


 健太の微調整の効いた水魔法は、オムツ替えのときに重宝した。密かな自慢だったりする。


 昔、田中さんにやりたいことを聞かれた時のことを思い出す。今の健太は、モンスターを狩り、倒して、仲間を守り、好きな女の子と暮らしている。


 優を着替えさせながら健太は、幸せだな、と思った。





 


 


 

 

 

 

お付き合い下さってありがとうございます。


また、何か思いついたら投稿します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結お疲れさまでした。面白かったです。
[一言] 地方の会社の立志伝みたいで面白かったです!地方新聞に小さいコラムで連載されるやつですね…!!ステキだなあ。こともが会社で手伝ってくれるのもいいな〜!
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