恵美のお仕事事情 4
「恵美、結婚しないか」
高校の頃から付き合っている一つ年上の雅也から、そう言われたのは春だった。
同じ高校の先輩後輩で、文化祭の実行委員がきっかけで付き合い始めた。
雅也は卒業後電子工学の専門学校に行き、通信系の会社に就職した。とは言え、何をやってるのかは何度聞いても良く分からない。ざっくりと言うとダンジョンから取れた核を、電力に変換するような仕組みに取り組んでいるらしい。本人が言うには点検作業だよ、とのことだ。
雅也の両親は、私が雅也と結婚することに反対はしなかった。そう言うと、あまり認められていないような感じだが、あまり雅也に対しても関心がないようなので、まぁそういう人たちなんだろう。反対されなかったのと、これからもお付き合いはないだろうと思うので、良いかと思う。
結婚となると、今みたいに泊まりでダンジョンとかには行けないよな、とパーティーメンバーに報告する前に、明里に言った。
明里はおめでとうと言ってから、パーティーはどうするの?と聞いていた。
雅也とも色々話したし、明里にも相談したが、パーティーは脱退、他に仕事を探す、と言うのが一番現実的だろうという話に落ち着いた。
高卒でうまく就職出来ればよかったのだが、当時スルッとダイバーになって上手くやれてしまったせいで、進路変更が難しくなってしまった。まだコネがあればダイバー講習の講師とかもあるのだが、私たちは就職の保証人のなり手にすら困っているのだった。
雅也一人に家計を背負わせるのもなぁ、就職活動もしてみたが、ダイバーしかやったことがないので、子どもが出来ても続けられるような仕事は、なかなか見つからない。人手不足なはずなのに。
これはもうソロで4桁ダイバーをするかなと覚悟を決めた頃、明里が「恵美が辞めるなら私も、いつまでもやれる仕事じゃないし引退しようかな」と言った。
明里と私とで、パーティメンバーに2人とも、引退を考えていると相談した。体を張る仕事なので、無理に続けろと私たちに強制できない男子3人は、パーティーの今後も考えているようだった。
「田中さんに相談しよう。恵美も明里も雇ってもらえるか聞いてみようよ」
康太によると、史郎もくららも頑張ってるけど納品が多くて、大変らしい。ポーションは、大手の医薬品メーカーが出していて多く流通しているけれど、ランクの問題で田中さんの会社の製品は人気らしい。主に史郎とくららは自分たちのランク上げで大変なので、薬草とか樹の実の採取を田中さんに買い上げてもらう仕事もあると思う、という事だった。
「オレらも体力的にダイバーが出来なくなることもあるし、顔を繋いで仕事もらえる様にしておきたい」
元希や太一もウンウンうなづいていた。
私たちにとって田中さんは、やっと掴んだ「蜘蛛の糸」なのかもしれない。糸が切れないように、頼りすぎないようにしないと。




