恵美のお仕事事情 2
康太の持ってきたお茶っ葉ポーションは、ものすごく効いた。
本当に水出しのお茶を淹れるみたいに、水魔法で出した水を注ぐだけで手軽に作れた。しかも、ペットボトル並みの量が確保できる。小さいドリンク剤みたいな量ではなく。
泊まりで訪れた長田ダンジョンで、私たちはほとんどケガをしなかった。と、いうかケガをしてもすぐに治すことができた。
途中私が足首をひねった(多分折れた)時は、ポーションを足首にカケたがなかなか治らず、みんなが史郎のケガを頭に思い浮かべつつもなにも言えない時間を過ごした。
少しずつポーションを飲んでいるうちに、足の痛みが完全に消えた。
私が立ち上がり足踏みをして確かめていると、明里が「何してるのよ。もっと悪くなったらどうするの」と強い口調で、私を止めた。
「もう痛くないの、腫れてもない」半ば呆然として私は言った。
明里と康太が、私の足首を再度見た。
「腫れてない」
メンバーみんなで折れた足首が治ったことに、衝撃を受けた。あの時にこれがあったら…、口には出せなかったが、きっと全員がそう思ってたはずだ。
「康太、これもっと買って来いよ」太一と元希が言った。
「うん、田中さんに連絡先を聞いてるから、電話してみる」
「その田中さんっていう人が作ったの?」
「そうそう。スゴイよね〜。試供品だから使い勝手とか聞きたいんだって」
「これ、いくら位で買えるのかな?」
「このお茶っ葉の量で、ここ3日分確実に余るくらいあったよね」
私と明里は、いつもよりも回復魔法を使わずに済んでいた。どちらかと言うと、ポーションにする為の水を出したり、水筒などを煮沸消毒する為の水出しすることの方が多かった。使う魔力は段違いで少ない。
ケガをしないからと言って、恐怖心が無くなるわけではない。それでもケガをしてお金を稼げなくなる怖さは、失くなる。
まだ会ったことのない田中さんに、ありがとうと小さく言ってみた。
しばらくして、康太は色んな味のお茶っ葉を田中さんからもらってきた。曰く「使い方と味のサンプルだから、水を誰が出すほうが効き目が良いとかを確認してほしい」とのことだった。
「作る前にこれは記入して」と誰が出した水か、どんなケガが、どういう風に効いたか等と、記入する用紙の束があった。間違いなくサンプルだ。
水を入れるだけで常温だがレモンティーやアップルティーなんかがあって、明里と私は、選ぶ楽しみにテンションが上ってしまった。今まであの人間の味覚破壊の限界を試すようなポーションに耐えていたのが嘘のようだった。
ダンジョンに深く潜るようになって、中級のポーションをゲットしてからは、あまりあのマズいポーションの世話になることは少なかったが、中級だからって美味しいわけでもない。田中さんからもらったお茶っ葉ポーションは、美味しく飲める上に効き目もある、というありがたくも素晴らしいモノだった。




