26 おばちゃんはチョロい
「田中さん、実は相談があって…」高橋くんは切り出した。
「何かな?私で良いの?」
「場合によってお願いになるかもしれないんで」
「彼女、恵美って言うんですけど、今度結婚するんです」
「おめでとう〜」
「ありがとうございます」と言って、高橋くんの横にいたショートカットの大柄な女の子がペコリと頭を下げた。
「それで、結婚したらこれまでみたいに僕らと一緒にダンジョンに行けなくなるので、こちらで雇ってもらえないかと…」
「うーん、そこはすぐに返事できないかな。人手は欲しいけど、次の3月に退所する子に声かけようかと思ってて」と、私は児童養護施設を退所する子を雇うつもりでいる事を説明した。(取ってつけたように説明しておくと現在は7月です)
「恵美さんは、結婚後もしっかり働くつもりなの?」
「相手が普通の会社勤めの人なんで、土日休みの仕事にしたいんですが、職歴がダイバーだけなので、なかなか仕事が決まらなくて」
「それにパーティーのもう一人の女子も引退を考えてるんだって。だからパーティー自体の今後を考えないといけなくて、相談に乗ってほしいんです」
「高橋くんたちには、今後入社してくる子達のレベリング手伝ってもらうとか、くらいしか思い浮かばないわ。恵美さんと明里さん(パーティーのもう一人の女子)は、簡易鑑定取ったら、就職はどこでも出来るんじゃない?」
うちで面倒見てあげる、と言いたいところだが、家の会社にもキャパシティと言うのがあるので、残念ながら時々依頼を出すくらいしか出来ないだろう。
「鑑定は持ってないですが、水魔法と回復魔法はレベル3です。ポーション作り、教えていただけませんか」と、女子2人から切実な響きの声でお願いされた。
「即答はできないので、また後日連絡します」と、とりあえず帰ってもらうことにした。
くららさんと史郎くんはお茶ポーションはそこそこのレベルを作れる。
だが、今、納品を急かされるフルーツティーポーションは、私しか作れない。ドライフルーツを作るのは、風魔法の得意な史郎くんが上手なんだけど、紅茶の発酵の部分が苦手らしい。くららさんは反対で紅茶は良い出来になりそうだが、ドライフルーツ作りが苦手らしい。
ここで2人がフルーツティーポーションを作る方に専念してもらって、新しくパート扱いで、2人に入ってもらうのが良いかな?
来春から入社してもらう新人さんの指導やレベリングを任せたりも出来るかなぁ?
高橋くんのパーティーも男の子3人となったが、回復魔法を使える女子たちが抜けたことであまり無理出来なくなるが、慎重に行動すればそれほど収入に影響はないだろう。うちから護衛とか採取の依頼を出せば、少しは助けになるだろうし。
会社の売上自体は他社に比べると、スタートダッシュが良かった分かなりいい感じだ。だがいつまでも良いとは限らないし…。
税金と雇用にかかるお金を考えて、ため息をつきつつ、結局のところ恵美さんと明里さんを雇うことになるだろうと思ったのだった。




