21 会社の新人たち
高橋くんから紹介を受けたのは2人。
一人目は、山本くららさん、18才
回復魔法を含む水魔法に、火、風と土の基本の4種全部が使えるが、特にこれが得意、と言うこともなく全て初級なので、パーティでは特色を出せなかったらしい。
二人目は、松本史郎さん、21才
特に風魔法を得意として頑張ってたが、足にケガをして思うように動けなくなり、最近は四桁ダイバーになりつつあったらしい。
仲間の家に転がり込んだ件のダイバーは彼のことだ。
自宅の近くのダンジョンは、通称「教会ダンジョン」と言われている。正式名称はあるがあまり呼ばれないために誰も覚えていない。
ダンジョンが出来る前は多分プロテスタント派の教会があった。
だから教会ダンジョン。覚えやすいが、安易だ。
教会ダンジョンの周りは閑静な住宅街だったが、高齢化が進み、空き家が増えていた。ダンジョンが出来てからは、「湧き」を警戒してか更に空き家が増えていた。
注文住宅なのか、古くはあるが素敵なお家が立ち並ぶ住宅街の、隣り合った2軒を買った。あれほど買わない、と自分に言い聞かせていたのに。
思ったより安かったのだ。
中も個室に鍵をつけたり、水回りを改装したりと手を加えたかったし…。
2軒とも4LDKの2階建てで、2階に3部屋あるタイプで、多少のデザインに違いはあるものの似たような作りだった。きっと建てた頃の流行りだろう。
個室は全部ドアに鍵を付けた。
1軒のうち、1階の個室の8畳は全面的にリフォームしてキッチンのようにしてしまった。大きめの壁面冷蔵庫を作ったので、8畳にしては狭く感じる。
広めのリビングは事務所風に改装した。
とりあえず会社として使う方の家をA棟と呼ぶことにした。くららさんと史郎くんにはA棟に入ってもらった。B棟はひょっとしたら高橋くんたちが入るかも、と思っている。彼らじゃなくても、そのうち増えるだろう社員が使うことになるだろう。
寮の話を長々としたが、荒茶加工の特訓はそれなりに進んでいて、くららさんは割と順調に「乾燥」が使えるようになっていた。
水魔法が使えない史郎くんは、ちょっと苦戦気味。
「風の強い日は洗濯物がよく乾くでしょ、あれをイメージしたら出来ると思うんだけど」
「干物干すみたいにっすか?」
私と史郎くんの会話は、くららさんに言わせると脱力モノだそうだ。
でも、イメージってそういうものよね?
3人で毎日教会ダンジョンに薬草を取りに行き、午後から加工に取り掛かっている。私が見る限り、2人はあきらかに私より強い。
史郎くんは片足が不自由で走れないけど、歩くのには問題がない。戦闘になっても、私よりは頼りになるだろう。




