2 私でもランクアップ
紙石鹸と水のボトルで手を洗いながら、お昼ご飯のおにぎりを食べようとしていた時だった。
普段見るより大きいサイズのスライムを見た。
思っていたより近くにいたので、お弁当を含めた荷物を守る為、金槌を再度握って、突き立てた。
核とドロップが出た瞬間に、身体に異変があった。
どうやら、ダイバー講習で聞くところのランクアップ、をしたらしい。
大したアップではなかったが、初めてだったので少しばかり混乱したが、しばらくしたら落ち着いた。
ダンジョンに通って半年、ランク1がランク2になった。
これまた驚きなのだが、ランクが上がると、簡単な魔法が使えるようになるそうだ。
魔法は、倒した魔物によって種類が異なるが、この場合対象がスライムなので、しょぼい水魔法、である。
どのくらいしょぼいかといえば、1日に一回手を洗える程度だ。
呪文もなにもいらない。必要なのは、魔力とイメージだけ。
これから魔物を倒して、ランクアップしていけば、魔法の種類が増えたり魔力量が増えたりもするのだが、この先も手を洗う以上の事ができるようには思えなかった。
ランクアップもあり、今日は早めに上がると決め、再度手を洗おうと、試しに自分で水を出してみた。
「水!!」
水は出たけれど、イメージ不足なのか、水道のようには出なかった。
頭の上からびしょ濡れになってしまった。
タオルで目に入った水を拭きながら、荷物を持ちその日は帰宅したのだった。
ちなみに、その日の上がりは4200円
(税込、ダンジョン税は1割、世知辛さに泣ける)
翌日、目が覚めると世界が鮮明だった。
鮮明と言うと、ちょっと大げさ。
いつもよりは少しばかりピントが合ってた、と言うのが正しい。
近眼で老眼の私は、裸眼だとほぼ自分の顔が見えないのだが、その朝は明らかに見えた。矯正のゆるい眼鏡で見える程度には。
コンタクト入れてたっけ?と、洗面所の鏡を見直して、裸眼だ、と気付いた。
それこそ、前に使ってた古い眼鏡を出してきて掛けたら、丁度いい具合によく見えた。
近眼の人間からしたら、ほんの少しでも見える、と言うのは世界が変わる。
ランクアップの成果か、はたまた水魔法のお陰なのか、それとも全くの気のせいか、しばらく動けないくらいに呆けたのだった。