20 素直に喜べない自分。
「さーって! 祭だー! 宴会だー! スークに繰り出すぞー! ……って、私たちは繰り出せないのよね……明日も仕事があるから……」
看護係の仕事を終え、ぞろぞろと病院から使用人小屋へと帰宅する女性たちの先頭で、一人の女性が病院から出てすぐに、お祭り騒ぎの広場で両手をあげて嬉しそうに言うが、すぐにがっくりと肩を落とす。
「ねー、あたしもスークでお祭り騒ぎしたかった……」
あたしもー、私もーと、皆、軍用地への門へと向かいながら、声を上げる。
「ま、メリルとサチは、今夜は宴会よりも楽しい逢瀬が待ってるけどねー」
「え!」
ひゅー! と、皆にいわれ、肘で小突かれ、佐知子は焦る。メリルは少し嬉しそうにはにかんでいた。
「よかったねー、二人とも無事に帰ってきて」
看護係の仕事終了後に、こっそり抜け出して無事を確認したことを皆に伝えた二人。佐知子は微妙な心境であったが、皆に、おめでとうー! と言われ、愛想笑いでお礼を伝えた。
「うん、ありがとう……本当によかった……」
メリルは瞳を閉じて、幸せそうにほほえみながら、心の底からその言葉を発する。
「…………」
その様子を見て、佐知子はうつむいて地面を見つめた。なんだか自分が嫌になったような、複雑な心境だった。
ヨウが帰ってきたことを、メリルのように手放しで、心の底から喜ばないといけないのだろうか……そうなのだろう……だが、あんな姿を見てしまって、動揺してしまうのは仕方ないではないか……佐知子はそう思う。
佐知子の脳裏に、また、昼間のヨウの姿が浮かぶ。
返り血まみれの防具に、血のついた剣を持つ、ヨウ……。
そんなことを考えながら門を通りぬけ、使用人小屋へと歩いていると、遠くからやんややんやと音楽と共にとても楽しそうな男性たちの声が聞こえてきた。
「あ、食堂で宴会してるー」
「本当だねー」
食堂の脇を皆で話しながら通り抜ける。
食堂では、帰ってきた軍の一部が宴会を開いていた。ギターのような音と笛のアップテンポの明るい音楽が流れ、男性の笑い声や指笛、様々な楽しそうな明るい声が聞こえてくる。
窓から中が見えた。アズラクランプで明るく照らされた内部では、踊り子も呼ばれ、踊り、歌い、皆、笑顔で楽しそうだ……。
そんな光景を見て、佐知子の胸はなんだか複雑になる。喜ばしいことなのだ。嬉しいことなのだ。喜ばなければいけないことなのに……手放しで素直に喜べない……。
「あ……」
使用人小屋の入口の近くに来ると、小屋の入口から少し離れた薄暗い所で、一人の男性が立っていた。
「アイヤール……!」
メリルが皆に、ごめんね! と言って駆けて行く。皆はにやにやとしながら二人の脇を通り、小屋の中へと入って行った。
佐知子もちらりと、幸せそうに向かい合い話しをしているメリルとメリルの彼、アイヤールを見て、小屋へと入った。




