18 戦とは、人を殺すこと。
そして、馬小屋とは反対にある武器庫へと、人混みを避け向かうと、
(あ……)
防具を着ているが、分かった。
あの後ろ姿は…………
「…………」
少し距離を置いた近くまで行く。
そして、その背中を見つめた。
その背中は、屈んだり立ったりして、ガチャガチャと何かを持ち、部下に指示をしている……たまにちらりと見える、斜め後ろからの見慣れた顔が、涙を誘う……。
「ヨウ」
静かに声をかけた。
ガヤガヤとうるさい中で、聞こえるかわからないが、聞こえるくらいの大きさで、声をかけた。
「…………」
ヨウはピタッと体の動きを止め、静かに振り返った。
「……サチコ?」
何でこんな所に……という表情だった。
そして、佐知子も目を見開き、硬直した。
なぜなら、ヨウが手に持っていたのは、変色した赤黒い血のついた大きな鋭い剣。
そして、ヨウが着ている防具には前面にはべったりと、よく見れば背面にも側面にも、足にも……返り血らしき、時間のたった血液が変色してついていた……。
「あ……」
佐知子は言葉を失くした。
ヨウに会えて嬉しかったはずなのに、涙があふれていたはずなのに、泣くはずだったのに……涙は引っ込んで、頭は真っ白になり、後ろに少し後退った。
ヨウはハッとする。持っていた剣を下げ、気まずそうに視線をうろつかせ、少しうつむいて黙った。
そんなヨウを見て佐知子もハッとする。
「あっ! じゃ、邪魔してごめんね! 無事かどうか確認したくて! ぶ、無事で……よかった! ……じゃあ! またね!」
取り繕って笑い、そう伝えると佐知子は駆け出した。一目散にその場から逃げ出した。
走って、門まできて、外に出て、お祭り騒ぎをしている広場を抜け、重い鉄の扉を開け、病院に入った。
「…………」
病院の中は、静かだった。広場のバカ騒ぎが少し聞こえてくるが、穏やかで静かだ……。
「…………」
佐知子はさっき見た、ヨウの姿を思い出す。
(そうか……ヨウは……戦争してきたんだもんね……戦ってきたんだもんね……)
その意味を再確認する。
それは、敵対する兵士を、
人を殺してきたということ。
とぼとぼと、看護部屋に自然と歩きながら思考を巡らす。
しかし、ヨウが人を殺したのは今回の戦がはじめてではないだろう。それは断言できる。
もっと昔……ずっと以前……。
(いつだろう……)
佐知子はぼんやりとした瞳で考える。
(いつからだろう……いつから人を殺して、何人殺してきたんだろう…………人を殺すってどんな感じなんだろう……)
とても想像が及ばない世界……。
ヨウはそんな世界に生きている。




