表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の外交官  作者: 山下小枝子
第一部 第六章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/267

18 戦とは、人を殺すこと。

 そして、馬小屋とは反対にある武器庫へと、人混みを避け向かうと、


(あ……)


 防具を着ているが、分かった。


 あの後ろ姿は…………



「…………」


 少し距離を置いた近くまで行く。

 そして、その背中を見つめた。


 その背中は、屈んだり立ったりして、ガチャガチャと何かを持ち、部下に指示をしている……たまにちらりと見える、斜め後ろからの見慣れた顔が、涙を誘う……。


「ヨウ」


 静かに声をかけた。

 ガヤガヤとうるさい中で、聞こえるかわからないが、聞こえるくらいの大きさで、声をかけた。


「…………」


 ヨウはピタッと体の動きを止め、静かに振り返った。


「……サチコ?」


 何でこんな所に……という表情だった。


 そして、佐知子も目を見開き、硬直した。

 なぜなら、ヨウが手に持っていたのは、変色した赤黒い血のついた大きな鋭い剣。


 そして、ヨウが着ている防具には前面にはべったりと、よく見れば背面にも側面にも、足にも……返り血らしき、時間のたった血液が変色してついていた……。


「あ……」


 佐知子は言葉を失くした。


 ヨウに会えて嬉しかったはずなのに、涙があふれていたはずなのに、泣くはずだったのに……涙は引っ込んで、頭は真っ白になり、後ろに少し後退った。


 ヨウはハッとする。持っていた剣を下げ、気まずそうに視線をうろつかせ、少しうつむいて黙った。


 そんなヨウを見て佐知子もハッとする。


「あっ! じゃ、邪魔してごめんね! 無事かどうか確認したくて! ぶ、無事で……よかった! ……じゃあ! またね!」


 取り繕って笑い、そう伝えると佐知子は駆け出した。一目散にその場から逃げ出した。


 走って、門まできて、外に出て、お祭り騒ぎをしている広場を抜け、重い鉄の扉を開け、病院に入った。


「…………」


 病院の中は、静かだった。広場のバカ騒ぎが少し聞こえてくるが、穏やかで静かだ……。


「…………」


 佐知子はさっき見た、ヨウの姿を思い出す。


(そうか……ヨウは……戦争してきたんだもんね……戦ってきたんだもんね……)


 その意味を再確認する。

 それは、敵対する兵士を、



 人を殺してきたということ。



 とぼとぼと、看護部屋に自然と歩きながら思考を巡らす。


 しかし、ヨウが人を殺したのは今回の戦がはじめてではないだろう。それは断言できる。

 もっと昔……ずっと以前……。


(いつだろう……)


 佐知子はぼんやりとした瞳で考える。


(いつからだろう……いつから人を殺して、何人殺してきたんだろう…………人を殺すってどんな感じなんだろう……)


 とても想像が及ばない世界……。


 ヨウはそんな世界に生きている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ