17 よかった。
門まで来ると、佐知子は門番の軍人に声をかけた。
「あ、あの……使用人の者なのですが、忘れ物をして……取りに行きたいんですが……」
そう言って通行証のコインを見せる。
「……はいよ」
軍人の間では、佐知子はもうヨウの恋人か想い人として密かに周知されているので、門番はふっと笑うと渡されたコインを返し、門を開けた。
「……ありがとうございます」
もちろん佐知子はそんなことは知らないので、門番のその笑みに、なんとなく帰ってきた軍人に会いに来たことを見透かされていると感じ、恥ずかしくて、少しうつむいて門を通った。
(うわっ……)
中に入ると、中では軍人たちが武器などの荷解きをしたり、くつろいだり、着替えたり、顔や手を洗ったりと、世話しない状況だった。
(こんなところに来ちゃ……まずかったかな……)
場違い感や、状況を考え、佐知子は少し焦る。
しかし、ひと目でいい。ヨウの無事を確認したい。姿を見たい。
佐知子は辺りを見渡した。黄土色の乾いた大地を大量の軍人が歩いたり走ったりしているため、砂ぼこりが立っている。ヨウの姿は捉えられない。
(どこだろう……)
歩きながらきょろきょろと辺りを見る。しかし、いない。まさか……と、嫌な予想が頭を過る。
(こうなったら……)
佐知子は意を決した。
「あ、あの!」
「!」
佐知子は側で馬から荷を下ろしていた、たれ目の人のよさそうなアフリカ系の男性に声をかけた。
「あのっ……ヨウ副長官はどこにいますか?」
「……ヨウ副長官なら、武器庫のほうだよ」
その言葉に、佐知子は思わず息を吸い込んで、少し目を見開く。
その言葉が意味するのは、ヨウは生きているということ。そして、大きな怪我もしていないということ。武器庫で何か副長官としての仕事をしているのだ。
(よかった!)
それだけで佐知子は泣きそうだった。涙が滲んでくる。体中に緊張した時の様な張り詰めた、ビリビリとした感覚が一気に襲ってきた。
思わず、手を口元に当てた。
そんな佐知子を見て、その男性はふっとほほえむ。
「! あっ、ありがとうございます!」
「いえいえ」
佐知子は男性のほほえみの意味に気づくと、頭を下げ、慌ててその場を去る。顔が熱くなった。
ともかく、ヨウは怪我もなく無事で生きていることは、はっきりした。
(よかった……!)
佐知子は心の底からほっとする。
本当に涙がどんどんあふれてきて泣きそうだった。ヨウに会ったら泣いてしまうだろう。ここでは迷惑だろうから我慢しないとな。と、ほほえみながら佐知子は思った。




