13 無事に帰ってきて。
それから村は、閉まっていた門も店も開き、徐々に元の姿に戻って行った。
そして、軍が戻ってくるのが二日後だと知らされる。
皆は迎えのパレードと宴の準備に取り掛かった。といっても、紙吹雪ならぬ色とりどりの布吹雪と花を投げ、村全体が宴会をするだけらしいのだが……。
そんな村の様子を知りつつも、佐知子は昨日も今日も忙しく、看護係の仕事をしていた。
相変わらずのお湯汲みだったが、それでも精一杯だ。少しは慣れたが、それでも肉体的にも精神的にもつらい。浮かれた村とはどこかいる場所が違うような……世界が違うような気がしていた。
それでも、軍が、ヨウが帰ってくるのは嬉しい。朝起きた時も、仕事中も、ハンムでも、夜寝る時も、帰ってくるんだと、佐知子の胸は高鳴っていた。しかし、
「彼……無事に帰ってくるかなぁ……」
「…………」
軍の帰還を明日に控えたお昼の休憩中、一緒に昼食を食べていたメリルのそんな一言で、佐知子は目から鱗が落ちた。
「あ、ごめんね! 暗い話して! 無事に帰ってくるよね!」
メリルはあわてて明るく努め、パンを頬張る。佐知子は咀嚼していた口と手が止まった。
そうだ、戦が終わったからといって、無事という保証はないのだ。
怪我をしているかもしれないし…………死んでいる可能性だってある。誰が無事で誰が死んだという情報は入ってこない。
ただ、重傷で、戦地では治療できない戦線離脱した怪我人だけが、この病院へ運ばれてくる。あとは、戦況報告のみ……。
佐知子は急に不安に襲われた。あれだけ浮かれて、幸せだったのが真っ逆さまだ。
(ヨウ……無事かな……生きてるかな……)
生きていてくれさえすればいい……。
佐知子はそう願った。
怪我ですむならそれでいい……生きてさえいてくれれば……。




