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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第一部 第六章

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11 戦争は悲惨だ。

 その後も、佐知子はお湯汲みを延々と続けた。

 あっちの治療現場へ、こっちの治療現場へ……おかげで血や肉、骨を見ることには慣れた。看護部屋の悲惨な光景や臭いにも……。


「サチさーん! あなた上がっていいわよー!」

「え!」


 数え切れない程の、何度目かのお湯汲みをしていると、看護部屋に連れて来た看護婦が佐知子にそう声をかけた。気がつけば部屋は暗く、アズラクランプの灯りが灯され始めていた。


「おつかれさま。はじめての看護係、大変だったでしょ。手よく洗ってね。うがいも。ハンムにも行ってよく洗いなさいね」


 看護婦は佐知子から水瓶を受け取る。


「あ、はい……ありがとうございました……」


 少し呆然としながら答え、佐知子は看護部屋をとぼとぼと後にした。



「はっー……」


 じんわりと背中につたわる温かさが心地よい。


 今夜も一人ハンムをしながら、佐知子は石に寝転がり、薄暗い天井を見上げていた。


(今日はすごい一日だったなー……)


 そして今日を振り返る。


 何だかハンムで一人、その日を振り返るのが佐知子の日課になっている。しかし、今日は凄まじかった……と、思いぼうっとする。


 いよいよ就いた看護係だが、振り返ると凄い物をいろいろ見た。生きている人の血。は、もちろん、肉に骨、神経、内蔵……尿に便、男性器も少し見た……。


 叫び声にうめき声。お母さんと叫ぶ人。恋人の名前を泣きながら呼ぶ人……そしてちゃんとは見ていないが、死んで運ばれていく人……。


 最初はショックのあまり動けなくなった佐知子だが、やるしかないと初日にハンムで腹をくくっていたのが功を奏し切り替えて動けた。それに元来の佐知子の性格もあった。


(しかし……悲惨だなぁ……)


 佐知子は首を横に向けながら、表情を暗くする。


(戦争するって、こういうことなんだなぁ……切って切られて、怪我して、苦しんで、死んで……あんなに大勢の人が…………まぁ、ここはまだ小さな村だからこれでも小規模なんだろうけど……)


 顔を仰向けに戻し、両手を腹部に乗せて組み、佐知子は思いに耽る。


(戦争は悲惨だ……昔の日本でも……世界でも、戦争ってあったんだよなぁ……第二次世界大戦とか……日露戦争とか……なんかいろいろ習ったよなぁ……ひめゆりの塔……沖縄……ぼんやりと名前しか知らないけど、そのひとつひとつに、今みたいな……今、以上の悲惨な状況があったんだろうなぁ……)


 ぼんやりと湯気が立ち込める天井を、佐知子は見つめる……。


 私は何も知らないな……。


 そしてそっと目を閉じた。

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