9 看護部屋の実状。
(うわぁ……)
佐知子は呆然とした。
看護部屋の実状を見て……。
皆で倉庫だった大きな部屋を掃除して、綺麗に準備して用意した負傷兵のための看護部屋は、今は包帯を巻かれた負傷兵が六割ほどを埋め尽くして寝ており、あちこちからうめき声や治療を受けて上がる叫び声が聞こえてきて、日当たりは程よくいいのだが、どことなく影があり、何よりも臭いが気になった。
薬品のツンとした臭いと、血が放置された生臭い臭い……そして汚物の臭い……。
窓は開けてあり、換気は出来るだけしてあるのだが、やはり暑い気候のせいもあり臭いが立ち込める……そして窓を開けているため臭いにつられ少し虫も飛んでいる……。
佐知子がそんな光景や臭いや……それにくわえて医師の怒鳴り声などに呆然としていると、
「サリーマさんはティメル先生のところへ行って指示に従ってね。あなたは……はじめて見る顔ね? 看護係は、はじめてかしら?」
「あ、はい!」
看護婦に顔を覗かれ、あわててハッとし、答える。
「そう……じゃあ、まずはお湯汲みからね。あそこの先生の所に、これでお湯を持って行って。お湯はあの扉の外で沸かしてるから」
指差しで医師とお湯のある場所を指示される。
白い陶器に青い幾何学模様の絵柄が入った、大きな綺麗な水瓶を渡され、佐知子は広い壮絶な看護部屋で仕事に入った。




