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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第一部 第六章

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8 看護係の覚悟。

 その日は、佐知子は看護婦に呼ばれることはなく、一日を終えた。


 しかし次の日から、定期的に戦線離脱した負傷兵は運ばれ続け、次々と包帯を作っていた使用人は呼ばれ、メリルも呼ばれ、ついには未経験の佐知子と、最初に呼ばれ、入れ替わりで休憩していたサリーマだけになっていた。


 サリーマは長い黒髪を後頭部でアップにした褐色肌の、切れ長の黒い瞳の少しきつい印象の二十代後半か、三十代前半の女性だ。サバサバしているともいう。


 疲れた表情をしながらシャイを飲んで、重いため息をついている。


 そんなサリーマをちらりと見ながら、佐知子は一人手を動かし、包帯を作っていた。包帯もあれだけあったのに、結構、減ってきている……。


 そしてついにその時は来た。


 またもや負傷兵を乗せた馬車が着いたのか、病院の入口がバタバタと騒がしい。佐知子は開け放たれた扉の先から聞こえる、もう聞き慣れたせわしない足音や、男性のうめき声を聞きつつ手を動かしていた。すると、


「さーてと、お呼びがかかるかね。サチも今度は声かかるかもしれないから、準備しときなよ」


 と、サリーマがシャイのグラスを置き、佐知子に声をかけた。


「え! あ、は、はい!」


 突然のことに動揺しながらも、手を止め、途中の包帯をかたし、服装をチェックする。そこへ、


「あ、あなたたち二人とも! きて!」

「!」


 見えにくいが茶色のエプロンに血を付けた、黒髪にアフリカ系の、ふっくらとした看護婦がかけ足で来て、布をめくり二人を見つけると、声をかけた。


 いよいよ佐知子にもお声がかかった。


「はーい……」


 サリーマがしかたなしげに腰をあげる。佐知子は勢いよく立ち上がった。そして、入口の絨毯の終わり目で革のサンダルを履き、看護婦の後に続くサリーマの後について行く。


(……呼ばれた……ついに呼ばれた! どうしよう……でも……やるしかない!)


 手を腹部の前で握りながら歩いていた佐知子は、ぎゅっと強く握り直すと、覚悟を決め、前を向いた。

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