7 メリルの気遣い。
何度もこなして慣れていてもやはり嫌なものなのだろうか……どんな仕事なのかと、佐知子は緊張して、ドキドキとしてくる。
「大丈夫? サチ」
すると、隣に座っていたメリルが、声をかけ、肩に手を置いてくれた。
「あ、は、はい」
佐知子はあわててメリルに顔を向け、うなずく。
「大丈夫。サチは今回が看護係はじめてだから呼ばれるの最後だから。まぁ~……呼ばれないってことはないけど、最後まで、時間はかせげるよ」
メリルはにこりとほほえんだ。
メリルという女性は、穏やかなほほえみを浮かべるやわらかい印象の、女性らしい女性だった。おだやかでのほほんとしており、ほんわかしている。お姉ちゃんにするなら、こんな人がいいな。と、佐知子は思っていた。
「……呼ばれてあっちでする仕事……やっぱり……大変ですかね……」
わかりきってはいるが、佐知子はメリルにそんな質問をしてしまう。
「え、うーん……そうだねぇ。大変……というか、精神的にきついかな……血とか……いろいろ見ちゃうから……」
あー……と、佐知子は看護係で最初に呼び出された時の、カーシャの言葉を思い出した。
「でもね! 怪我した兵士さんのためになる、とっても素敵な仕事なんだよ」
あわてたようにメリルは付け足す。
「って……私と彼の出会いが前回の看護部屋だったからなんだけどね……」
へへへ……と、照れた様子でメリルはいった。
「え! メリルさんと彼氏さん、前回の看護部屋が出会いなんですか!」
その話には、佐知子も驚き食いついた。
「うん……彼が傷追って、戦線離脱して運ばれてきて……彼はやっぱり傷追って苦しかったんだって……で、やさしく看病してくれた私を好きになってくれた……って……私、特に彼、意識してなかったんだけどね! でも、回復してきて、話せるようになってからよく話すようになって……それで……ちょっと、いい雰囲気になって……退院する時……告白されて……」
「うわぁ~」
元いた世界では、恋愛の話にはあまり興味のなかった佐知子だが、まるでちょっとした映画のような綺麗な恋の物語に、さすがの佐知子も食いつく。思わず、顔に笑みを浮かべ、瞳を輝かせて声をあげた。
「そうか……ここではそんな出会いもあるんですね……弱ってるからなおさらかぁ……」
佐知子がそんなことをつぶやくと、
「サチにはヨウ副長官がいるでしょ!」
ダメよ! と、つっこまれる。
「え! いや、私のことじゃなくて、一般的なことで!」
「ふふふ~、ヨウ副長官が帰ってきたらいっちゃおう~」
メリルはにこにことほほえみながら意地悪なことをいう。
「え! ちょ! やめてくださいよ!」
「あれ~? 二人はなんでもないんじゃなかったの~?」
「いや、そうですけど!」
「ふふふ……元気でたみたいね」
「!」
いつの間にか、緊張感や胸の嫌な動悸もおさまっていて、むしろ楽しい時間を過ごしていた……自分の不安を消そうと、メリルは話をしてくれたようだ……。
お姉さんにはかなわないな……と、佐知子はうれしくも、申し訳なく、情けなく思い、少しうつむいて、眉をさげながらほほえんだ。




