6 運ばれてきた負傷兵。
室内の涼しい場所で座ったまま包帯は作れるので、休憩中ものんびり話しをしたり歌ったり作業していた女性たちだが、午後三時の鐘の音を聞くと、一人が浮かない顔でつぶやいた。
「あ~……きっともうすぐだね、来るの……」
その言葉に、その場の女性たちの大半が、あ~と、同じようにげんなりや憂鬱そうな顔をして相槌を打った。
「?」
佐知子が何の事か分からず聞こうとすると、急に開けたまま布をかけて目隠しをしておいた扉の先から、バタバタと足音や人の声が聞こえ出した。注意がそちらへと行く。
「!」
「あー……噂をすれば……来たか……」
「来ちゃったね……」
「しかたないよ……」
佐知子が扉の方を見たと同時に、男性のもがき苦しむような叫び声が聞こえた。
それを皮切りに、小さなうめき声や、つんざく叫び声、低くうめく声……さまざまな男性のつらそうな声が聞こえてきた……佐知子は察した。
(負傷兵が……運ばれてきたんだ……)
開け放たれた扉の先を見ながら、顔がこわばる。
するとパタパタと、淡いピンクのVネックの半袖シャツに、白いズボン。そして長い茶色のエプロンをした中年の少し大柄な女性の看護婦がやってきた。
「えーっと……あ、アリアさんとサリーマさん! あなたたち慣れてるわよね! 兵士さんたち運ばれてきたから手伝って!」
その言葉に佐知子は、やっぱり! と、思う。そして看護係の二人が指名されて、はーい。と、二人は重い足どりで立ち上がり、看護婦の後について行った。




