3 やるしかない。
「おつかれさーん、看護係になっちゃったんだってねー」
暗くなり、他の女性たちと使用人小屋に戻ると、非番のライラが布団にもたれかかりながら気の毒そうにほほえみ、迎えてくれた。
「あ、うん」
「ついてなかったねー。しかも、はじめてだよね?」
「うん……」
朝から見送りや、掃除で心身ともに疲れて覇気のない佐知子を見て、ライラは少し心配そうな顔をした。
「……ご飯食べて、ゆっくりハンム行ってきな? それで早く寝な?」
「うん……ありがとう……」
正直、すぐに布団に入りたい佐知子だったが、掃除でほこりまみれの汚れたままで布団に入りたくはなかった。食事はもう来ていたので、手早くすますと、ハンムへと向かった。
「はぁー……」
体を洗われた後、フラフラとしながら中央の石の上にタオルを敷き寝転んだ。
(本当は湯船につかりたいなぁ……)
それでもお湯を体にかけ、全身を泡で洗われ、サウナのような空間の中、ぽかぽかとした石の上に寝転んだら、疲れや緊張が抜け、とてもリラックスできた。
少し薄暗いオレンジ色の空間の中、ぼーっと円形の天窓を見つめ、今日一日のことを振り返る。
(ヨウ……行っちゃったなぁ……今ごろ何してるんだろ……お風呂……とか、ないよね……)
大変だな……と、薄暗い天井を見つめて思う。そして看護係のこと。
(看護係かぁ……今日は掃除して……明日は……なんだっけ……確か布団とか治療器具の用意だったな……)
そこでカーシャの言葉を思い出す。使用人小屋での女性の言葉を思い出す。
(私にできるのかなぁ……)
ぼうっと暗い天井を見つめながら、心の中でつぶやいた。しかし、
(でも……きっとやるしかないんだろうなぁ……)
佐知子はそう思う。
どうしようとか動揺していても、怖いとか思っていても、どんどんまわりは動くし状況は迫って来る……結局やるしかなくて……立ち止まって立ち尽くしていることはできない。やるしかないのだ。
(そうだな……)
佐知子はやっと心の整理がついた気がした。
やるしかない。
どんな状況でも、動揺しないで、少し大きく息を吸い、吐いて、息を止め、体に少し力を入れ、冷静に状況を見て、判断して、行動する。
これはこの先、この世界で生きていく上で、きっと役に立つ心構えだな……と、佐知子は思いながら目を閉じた。
じんわりと体があたたまる。
「よっし!」
勢いをつけて佐知子は体を起こし、立ち上がった。
そして、お湯で汗を流し、ハンムをあとにしたのだった。




