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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第一部 第六章

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2 待ってくれない現実と覚悟。

 白い漆喰の壁に絨毯の敷かれた病院の一室に、使用人小屋に住む約十五人の女性が座って説明を待っていた。


「待たせて、ごめんねー」


 開けっ放しの扉から現れたのは、カーシャだった。


 ドレッドヘアを揺らし、今日も動きやすそうなエンジ色のVネックのシャツに、白いスラッとしたズボンを履いている。


「それじゃあ、説明はじめるよ!」


 集まった使用人たちを見渡してカーシャは話をはじめる。途中、佐知子を見つけると、少しほほえんでくれた。


「もうやったことある人もいるかもしれないけど聞いてね。これから通常の仕事はなし。看護係の仕事に専念してもらうよ。給金は通常通り。きつくてつらいのに悪いね」


 カーシャは手に持っている目の粗い紙……『パピス』と呼ばれる植物の繊維でできた紙に書かれた文字を読む。


「で、まずは……」



 看護係がすることは、まずは倉庫になっている負傷兵の看護部屋を準備することだった。そのあとは絨毯、布団、治療器具、包帯などの準備。


 基本的に看護婦の手伝いの仕事なので治療には携わらず、お湯を沸かしたり、包帯を作ったり、道具を洗ったり、物を運んだりすることらしい。



 佐知子はその言葉を聞いてほっとする。しかし、


「最後に。はじめて看護係になる人もいるかもしれないから言っておくよ」


 カーシャがパピスから顔を上げ、怖いくらい真剣な顔をしたので、佐知子は息を止め、真顔でカーシャを見た。


「看護係は負傷した兵士の世話をする。だから、血を見る。肉も、骨も、汚物も。そして、人の死もだ。つらい仕事になるかと思うけど、すまないが覚悟を決めて、負傷した兵士のために、しっかりと働いて欲しい」


「…………」


 カーシャのその言葉に、佐知子は呆然とする。


「以上で説明は終わり! じゃあ、仕事よろしく!」


 カーシャはそう言い終わると、颯爽と部屋を去っていった。


 ほかの使用人たちも少し暗い面持ちではあるが、やれやれという風に立ち上がる。

 佐知子は体育座りのまま、最後のカーシャの言葉を頭の中で反芻させていた。


 人の血、肉、汚物、死。


 それらをこれから目のあたりにしなくてはならない……。


(そう……だよね……怪我して帰ってくるわけだから……その看護係なんだから……剣とかで切られて血が出てたり、内臓とか、寝たきりだし……)


 佐知子の顔が歪んだ。


 自分に出来るだろうか。倒れたりしないだろうか。

 不安が襲ってきた。


 しかし、無情にも時は待ってくれない。皆が部屋を出て行くので、慌てて部屋から出なくてはいけないし、倉庫になっている病院の大きな部屋を片付けはじめたので、指示を受け、片付けなくてはいけない……。

 気づけば心の整理がつかないまま、日が暮れ、負傷兵の看護部屋の掃除が終わっていた。

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