15 やっと会えた。
息を切らしながら佐知子は走る。
隊列は、先頭に黄やヨウの高官たち、その後ろに左右に二塊の隊列のおかげで、一直線に道は開いているが、距離は長い。
(遠いよ!)
走るのはあまり得意ではない佐知子は、運動部に入るか、体力作りをしておけばよかったと後悔した。
徐々に先頭が見えてくる。すると、先頭にポツリと一人だけ、馬の傍らに立ち、馬を撫でている人影が見えた。
走るのをやめて、荒い息で歩いて近づいていく。徐々に鮮明にわかるその姿は、もこもこの防具でも、甲をつけていないのでわかった。
黒髪に褐色の肌、見慣れたあの顔。
ヨウだった。
「ヨウ!」
佐知子は駆け寄る。
「!」
ヨウは振り向く。
「やっと……会えた……」
荒い息を繰り返し、下を向きながら息を整えつつ、佐知子は絞り出すようにいった。
せっかく念入りに整えた髪も乱れてしまった。
「サチコ……ああ、悪い。ここまで遠かったな。つい、いつも通りにしてた……」
ヨウは今、気付いたかのように、しまった……という顔をする。
「…………」
黙って、荒い早い呼吸を繰り返しながら、その言葉を聞き、少し悲しくなる佐知子。
ヨウには、いつも見送る人が誰もいなかったのか、と。
いつも戦地に赴く時には、一人で、皆が愛する人との別れを惜しむ中、軍隊の先頭で、馬とともにそれが終わるのを待っていたのかと……。
はぁ……と、大きく息をつき、佐知子は顔を上げた。
大丈夫か……? と、ヨウは心配そうな表情で聞いてきた。そんなヨウを見て思う。でも、今回は私がいる。今回からは私がいる……と。
「大丈夫だよ。ヨウが心配してどうするの? 私が心配するほうでしょ?」
佐知子は少しおかしくて、ふふっと笑った。
「…………そうだな」
その言葉に、ヨウは少し瞳を見開いてから、ふせる。
心配される……そのことが、じんわりと心に沁みた。
佐知子は軍隊の先頭の先を見た。
賑やかな村の方とはガラリと変わり、黄土色の、乾いた草も木もない広大な大地が延々と広がっていた。
その殺伐とした光景は、死を予感させる物悲しいものだった。ヨウはここから向こうへ行ってしまう……佐知子はヨウへ向き直った。




