13 あっという間の出発の日。
それから正式に少し離れた北西にある、ミズィルという町から宣戦布告を受け、開戦するという知らせが広場でハーシムと黄から発表された。
それから、慣れてるとはいうものの、村はてんやわんやだった。
戦中は商人の出入りも制限されるので、商品が品薄になる。それに基本スークの店は閉まるので、皆、買い出しに走り、村を守る軍人も、万が一に備える役人も、慌ただしく走りまわり、佐知子も通常の仕事に加えライラやアイシャにアドバイスされ、必要な物の買い出しに走った。
あの日、勉強会でお茶をして以降、ヨウと会うことはなく『明後日』という二日後はあっという間に来てしまい、いよいよヨウの……軍の出発の日となった。
明日が来なければいいのに……と、不安や緊張、さまざまなネガティブな想像で寝付けず、うとうととしていた佐知子は、変わらずに轟音を鳴り響かせる夜明けの鐘でゆっくりと重い体を起こした。
あわただしく動き始めた周囲に関せず、ぼうっとしながら座って、うつむきながらじっと布団を見つめる。
憂鬱な気分だった。ライラに心配され、しかたないと割り切って、身支度をはじめた。
今日は軍の見送りがある人は仕事を休ませてもらえる。佐知子も休ませてもらった。
水場で顔を洗い、身支度を整える。今日は少し念入りに髪を梳き、バラのオイルを染み込ませ、整える。ふわりとバラの香りが漂った。
カンラはまだ着ていなかった、新品の襟と袖口に様々な色の刺繍の入った物を着た。
(気合入れすぎかな……)
佐知子はちょっと恥ずかしくなる。だが、そんな羞恥心は振り払う。
後悔は、したくないのだ。




