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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第一部 第五章

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12 最後の語らい。

「はー……」

「落ち着いたか?」


 熱く甘いシャイを飲み、息を吐き出した佐知子に、ヨウはふっと笑う。


「う、うん」


 恥ずかしそうに少しうつむいて、赤い目と目元で、鼻を軽くすすりながら佐知子は答えた。


「菓子も食うか?」


 ヨウは佐知子のとなりに座り、一口サイズのパイのような物がのったお皿を差し出した。


「うん……ありがとう」


 口の中に入れたれは、甘く、泣き疲れてぼうっとした頭に染みわたった。


「ねぇ、ヨウ……」

「ん?」


 テーブルに、横に並んで座りながら、二人は話す。


「戦争……戦って……頻繁にあるって聞いたんだけど、本当?」


 戦の話を聞きたかった。ヨウ本人から。


「あー……そうだな。前の戦は一年くらい前だ。その前は半年前。その前はいつだったかな……でも、頻繁にあるな。この村ができて少ししてから」


 ヨウはシャイを飲みながら、平然と答える。


「……ここでは……戦は当たり前のことなんだね……」


 佐知子は、熱いシャイのグラスを指でまわしながら言った。


「……そうだな」


 ヨウはシャイのグラスをソーサーに置く。


「ここでは……アズラク帝国中央政府の指示を受けた近くの町が、今回みたいに攻めてくることもあるが……山賊や、近くの集落や村が攻めてくることもある。油断は常にできないんだ……」

「……そうなんだ」


 平和そうに見えたのに……と、佐知子は思いながらヨウを見る。


「……犠牲者とか……やっぱり……出る……よね……」


 佐知子はうつむきながらヨウに問う。


「ああ……それはもちろん」


 ヨウのはっきりとした即答に、うつむいた佐知子の眉間に皺が寄る。


「……話し合いとか……外交? で、なんとかならないの?」


 自分でも、バカなことをいっているとは思っているが、一応、聞いてみた。


「それは俺にはわからん。ハーシムさんの分野だからな。だけど……戦になってるってことは、話し合いではどうにもならなかったんだろう……」

「そっか……そう……だよね……」


 佐知子はバカなことを聞いたな……と、少し落ち込む。


「でも……」


 ヨウが口を開く。


「……お前なら……なんとかできるのかもな……」

「え?」


 佐知子はヨウを見る。

 ヨウも佐知子を見ていた。真剣な、面持ちで。


「神に使わされた……お前なら……」

「…………」


 その言葉に、ぐっと息を飲む。

 しかし、佐知子はあわてて顔を背け、うつむいた。


「そ、そんなこと……ヨウは私を買いかぶり過ぎだよ……私はただの女子高生で……ハーシムさんにできないのにそんなこと……」


 できることなら……したいけど……という言葉は心の中にとどめて、佐知子はうつむいたまま、ぎゅっとグラスを握った。手のひらが熱い。


「……まぁ、とりあえず……明後日には戦地へ出発するから……村も戦時体制にはいるから、何かあったらアイシャさんを頼れ……な?」


 念を押すように、ヨウは佐知子の顔を覗き込むように少し顔をさげる。


「うん、わかった…………もう……会えない?」


 顔をあげた佐知子は、悲しそうに眉をひそめてヨウを見る。


「っ……」


 ヨウはぐっと息をとめ、込み上げてくる感情を、頬や首筋あたりに力を入れ、ぐっとこらえた。


「い……や、会える……出発の時、家族とかとの別れの時間があるから……その時に……」

「そっか……でも……じゃあ、落ち着いて話せるのは、今が最後だね……」


 佐知子は上げた顔を少しうつむかせ、少し悲しそうにほほえんで言う。



 伝えたいことはたくさんあるような気がする。でも、何をいえばいいのかわからない。

 もう先程、涙とともに伝えてしまった気もするし……もう一度、何度でも伝えたい気もする……伝えたいのは、同じこと。


 何度でも……



「無事に、帰ってきてね」


 佐知子は顔を上げて、無理に作った少し悲しいほほえみで言う。


「……ああ、ちゃんと無事に帰ってくるから……安心しろ……」


 ヨウもほほえんだ。

 穏やかな、ほほえみで。

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