12 最後の語らい。
「はー……」
「落ち着いたか?」
熱く甘いシャイを飲み、息を吐き出した佐知子に、ヨウはふっと笑う。
「う、うん」
恥ずかしそうに少しうつむいて、赤い目と目元で、鼻を軽くすすりながら佐知子は答えた。
「菓子も食うか?」
ヨウは佐知子のとなりに座り、一口サイズのパイのような物がのったお皿を差し出した。
「うん……ありがとう」
口の中に入れたれは、甘く、泣き疲れてぼうっとした頭に染みわたった。
「ねぇ、ヨウ……」
「ん?」
テーブルに、横に並んで座りながら、二人は話す。
「戦争……戦って……頻繁にあるって聞いたんだけど、本当?」
戦の話を聞きたかった。ヨウ本人から。
「あー……そうだな。前の戦は一年くらい前だ。その前は半年前。その前はいつだったかな……でも、頻繁にあるな。この村ができて少ししてから」
ヨウはシャイを飲みながら、平然と答える。
「……ここでは……戦は当たり前のことなんだね……」
佐知子は、熱いシャイのグラスを指でまわしながら言った。
「……そうだな」
ヨウはシャイのグラスをソーサーに置く。
「ここでは……アズラク帝国中央政府の指示を受けた近くの町が、今回みたいに攻めてくることもあるが……山賊や、近くの集落や村が攻めてくることもある。油断は常にできないんだ……」
「……そうなんだ」
平和そうに見えたのに……と、佐知子は思いながらヨウを見る。
「……犠牲者とか……やっぱり……出る……よね……」
佐知子はうつむきながらヨウに問う。
「ああ……それはもちろん」
ヨウのはっきりとした即答に、うつむいた佐知子の眉間に皺が寄る。
「……話し合いとか……外交? で、なんとかならないの?」
自分でも、バカなことをいっているとは思っているが、一応、聞いてみた。
「それは俺にはわからん。ハーシムさんの分野だからな。だけど……戦になってるってことは、話し合いではどうにもならなかったんだろう……」
「そっか……そう……だよね……」
佐知子はバカなことを聞いたな……と、少し落ち込む。
「でも……」
ヨウが口を開く。
「……お前なら……なんとかできるのかもな……」
「え?」
佐知子はヨウを見る。
ヨウも佐知子を見ていた。真剣な、面持ちで。
「神に使わされた……お前なら……」
「…………」
その言葉に、ぐっと息を飲む。
しかし、佐知子はあわてて顔を背け、うつむいた。
「そ、そんなこと……ヨウは私を買いかぶり過ぎだよ……私はただの女子高生で……ハーシムさんにできないのにそんなこと……」
できることなら……したいけど……という言葉は心の中にとどめて、佐知子はうつむいたまま、ぎゅっとグラスを握った。手のひらが熱い。
「……まぁ、とりあえず……明後日には戦地へ出発するから……村も戦時体制にはいるから、何かあったらアイシャさんを頼れ……な?」
念を押すように、ヨウは佐知子の顔を覗き込むように少し顔をさげる。
「うん、わかった…………もう……会えない?」
顔をあげた佐知子は、悲しそうに眉をひそめてヨウを見る。
「っ……」
ヨウはぐっと息をとめ、込み上げてくる感情を、頬や首筋あたりに力を入れ、ぐっとこらえた。
「い……や、会える……出発の時、家族とかとの別れの時間があるから……その時に……」
「そっか……でも……じゃあ、落ち着いて話せるのは、今が最後だね……」
佐知子は上げた顔を少しうつむかせ、少し悲しそうにほほえんで言う。
伝えたいことはたくさんあるような気がする。でも、何をいえばいいのかわからない。
もう先程、涙とともに伝えてしまった気もするし……もう一度、何度でも伝えたい気もする……伝えたいのは、同じこと。
何度でも……
「無事に、帰ってきてね」
佐知子は顔を上げて、無理に作った少し悲しいほほえみで言う。
「……ああ、ちゃんと無事に帰ってくるから……安心しろ……」
ヨウもほほえんだ。
穏やかな、ほほえみで。




