4-1 応急手当と少年のほほえみ。
(夏場だからタオルたくさん持っててよかったー)
佐知子はリュックの中を探り止血に使えそうなものを探す。
見つかったのは血を拭くフェイスタオルと傷口に当てる水色の生地にくじらと波の刺繍の入ったハンドタオル。
しかし、肝心の縛る物がない。
(うーん……どうしよう……)
悩んでると、ふと胸元で風に揺れる物が目についた。
(これだ!)
佐知子はセーラー服の赤いスカーフを外すと、タオルの上から被せられる大きさに合わせて折る。
これで準備は整った。
あとは少年が痛みを堪えてくれるのを祈るばかりだ。
「じゃあ……傷の手当てするからね……痛いと思うけど我慢してね。動かなければ泣いたり叫んだりしていいからね……」
階段で右腕を出し静かに座っている少年を見て、佐知子は複雑な心境になっていた。
そもそもなぜこんな小さな子がこんな怪我をして一人でこんな所で泣いているのか……それにこの子の風貌……この世界の治安や情勢はやばいのか……佐知子はそんなことを考えながら息を吐いて心の準備をする。
「じゃあ、いくよ……」
佐知子はまず右腕にべっとりとついている長袖をめくって剥がして行く。
どこが傷口なのか……ハサミがあれば切ってしまいたいが、そうも行かない。
恐る恐るめくって行くと、傷口とはまだくっついてはいないようで、容易に傷口は見えた。
傷口は右腕の二の腕だった。
「っ……」
しかしその傷口を見て佐知子は顔を顰める。
鋭い刃物で切った傷ならまだいい。
だかこれは違う。
何か切れ味の悪いものでざっくりとやられ、皮膚もギザギザに波立ち、中の肉からは止めどなく血が溢れている。
奥の方に薄らとピンク色の肉が見えた。
思わず見たくなくて下を向き顔をそらしてしまう。
だが、息を深く吸い、吐き、佐知子はまた顔を上げた。
(さっきの水が残ってれば、せめて水で流してちょっと洗ったんだけどなぁ……)
目の前の見たくない物と必死に闘いながら、佐知子は目をそらさず少年の傷への最善を尽くす。
とりあえず、持っていた長めのフェイスタオルで手首まで流れている血を拭き、ごめんね。と言いながら傷口にぐっと当て血を大まかに拭う。
「っ! うぁっ!」
案の定、少年は声にならない叫び声を上げ逃げるかの様に体を反対側へと斜めに傾けた。
「ごめんね! ごめんね! もう終わるから!」
血を拭い、べっとりと血液のついたフェイスタオルを外すと、素早く水色の刺繍のある綺麗なハンドタオルを傷口に当て、その上からセーラー服の赤いスカーフでギュッときつく縛った。
「うっ!」
またもや少年が苦痛に顔を歪めて唸る。
「ごめんね、これでもう終わりだから。あとはお医者さんに見てもらおうね。私が出来るのはここまでだから」
安心させるかの様に、優しく少年に佐知子は微笑みかけた。
「はぁー……はぁー……」
涙目の少年も安堵したかの様に、大きく息を吐き出し、ほんの少し微笑んだ。