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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第一部 第五章

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11 伸ばしかけてとめた手。

「…………」


 ヨウは硬直していた。

 なぜ佐知子が泣いているのかわからなかったし、どうしていいのかもわからなかった。

 ただ体を硬直させ、瞳を見開き、立ち尽くすしかできない。


 そうこうしていると、佐知子は両手で顔を覆い、大声をあげて子供のように泣き出した。

 その声で、ヨウはハッとし、何とかしようと試みる。


「お、おい……どうし、た? セロと何かあったのか?」


 おろおろとしながら、屈んで佐知子に顔を近づける。佐知子は頭を振る。


「どうし、た?」


 ヨウは本気で困っていた。泣いている女を相手にするのは初めてだった。


 今まであまり女性を相手にしたことがなかったが、泣いてる女性も相手にしたことがなかった。告白されて断って、泣き出されたこともあったが、すぐその場から走り去ってくれたので、それで終わりだった。しかも、たいして面識もない女なので、どうってこともない。


 しかし、今は大切な……佐知子が泣いている。目の前で。どうにかしたいと思う。だが、どうすればいいのかわからない。

 とりあえず、戸惑いながら屈んだままじっと待っていると、佐知子は少し泣きやんで、顔を上げた。


「っ……」


 涙目の上目遣いに、ヨウはぐっと息を詰まらせた。


「っ……ヨウ……戦争……はじまるの?」


 しかし、泣きながら涙声で佐知子が口にした言葉で、ヨウの心はすっと静かになり、真顔になる。


「……ああ……もうすぐはじまる……」


 そして小さな子供にするように、目線を座っている佐知子に合わせた。


「っ……ヨウ、ヨウ……! 死なない……よね? 死なないよね?」


 佐知子は涙をぼろぼろとこぼし、顔をくしゃくしゃにしながら問う。


「…………」


 その言葉に、ヨウは瞳を見開いた。


「ああ……死なない」


 ヨウはどこか嬉しそうな、穏やかなほほえみで答える。


「っ……ひっく……本当?」


 佐知子は涙を手の甲で拭う。


「ああ、俺は強いからな……今まで何度、戦を生き抜いてきたと思ってるんだ?」


 ふっとヨウは笑う。


「……死なないでよ? ちゃんと生きて帰ってきてね? 絶対だよ?」


 再度、涙をぼろぼろとこぼし、最後は涙声で言葉をかすれさせながら、佐知子は手で顔を隠し、しゃくりあげ、再度、大声で泣き出した。


「…………」


 顔を伏せて泣く、そんな佐知子の肩に手を伸ばしかけ、手をとめるヨウ。


 本当は、抱きしめたいと思った。

 戦に出る自分のことを『死なないで』と、泣いて心配してくれる佐知子のことを、力いっぱい抱きしめたいと思った。しかし、その手をとめた。


 自分は、そんなことをしていい人間ではないのだから、と――。

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